精神的自立を感じて

2023-02-13 14:20:00

李樹苗 曲阜師範大学

島崎藤村の「破戒」を読んだ後、私は精神的自立の重要性を感じました。いわゆる常識と言われる世間の価値観でさえ、時代とともに変化し、揺れ動いているのですから、そのようなものに自分の身をすっかり委ねてしまうわけにいきません。 

「破戒」は被差別階級出身の青年、瀬川丑松が自分の出生を周囲に告白するかどうかで苦悩する様子が描かれています。作品名の「破戒」の意味は、父によって教えられた、「絶対に自分の身分を明かすな」という訓戒を破る行為のことを指しています 

では精神的に自立した大人になるためには何が必要でしょう一つには知識です。実際にこの世の中がどういう仕組みで動いていてるかを全く知らずに自立することは無理なことです。それは経済的な自立とも大きく関係しています。二つ目は経験です。世の中はただ知識として頭の中で理解できることばかりではありません。失敗と模索を通して体得していくものがほとんどです。そして、三つ目は確固とした善悪の基準です。これは人によって異なるものですし、宗教心の薄い日本人にとって絶対的な基準は受け入れにくいかもしれません。しかし、これ無くして完全な精神的自立はありえません。自分の行動を律する基準が絶えずぐらついている人は、まるでにもまれる木の葉のような危なっかしい存在です。もちろんその基準はただ闇に信じればよいというものではなく前述の知識や経験に裏打ちされたものでなければなりません。 

もちろん、その他にも様々な要素が関係していますが、これらの事を抜きにして精神的自立は語れません。そして精神的自立抜きの経済的自立や身体的自立はほとんど意味のないもので。資産や自分の体をどのように用いるかは私達が自分で考えて決定することとだからです。 

さらに、精神的に自立するということはただ単に頭でっかちになるということではありません。ここで必要とされるのが純真さです。素直で、無垢で、思いやりと他への愛情に満ちた心は精神的自立の大きな要件であると思います。懐疑的で意固地で、いつも皮肉を言うようなひねくれ者が円満な人間関係を築き、平穏な生活を送れるとは思えません。私たちはそのような人を、幼稚で、人間的に未熟な人だと思います。つまりは精神的に自立できていないと感じるのです。 

しかし残念ながら、今言った「自分の生活を作ること」、「自分の行動に責任を持つこと」ができたとしても、それが精神的自立と言えるのかどうかは、今の時点ではまだ分かりません。精神的自立の答えは、私が今から歩む道のどこかに、きっとあるはずです。だからこそ、せっかく得たこのヒントをいつも意識して、実行していきたいです。そうすれば自立はおのずと近づいてくると思います。 

                               「破戒」 島崎藤村

 

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