うっかり、上橋先生が書いた霊狐を恋にして

2023-02-13 14:24:00

宋文燕 曲阜師範大学

初めて上橋菜穂子の作品に出会ったのはどこかの街角にある和風本屋だと覚えている。ゆっくりと入って、夕日に照り映えるいす、並んでいる高い本棚が目に入って、桜のような匂いが空気に満ちている。その瞬間、人生で幸せな時間はそこに留まるようだ。 

児童図書のところに近づいて、手にした本が中国語版の上橋菜穂子の『精霊の守り人』だ。これが不思議な縁ではないかと思う。その日、上橋先生の魔法にかかり、日本のファンタジ―小説に深く夢中になった。上橋先生に関するすべての資料を自分で検索した結果、「やっぱり、先生の魅力は言葉で言い表わせませんね」という感じがある。好奇心が強い私はネットで上橋先生の小説をたくさん購入した。 

今年の夏休み、田舎のおばあちゃんの家に行った。ある日、夕日が沈む時、私は窓辺に座って何かをしようとしていたが、突然、そとの野で何かが動いているのに気が付いた。立ち上がってよく見ると、赤い狐が走っていた。思わず、上橋先生が書いた『狐笛の彼方』という小説が頭に浮かんだ。向き直って、来た時に持っていたスーツケースへ歩き、その中からこの本を取り出した。ぺ―ジをめくるたびに、温かい語りの内容が波紋のように静かに心の中へ流れ込んでいた。上橋先生の独特の世界観にどっぷり浸ることができて、一気に読み終わった。うっかり、本の中で上橋先生が書いた霊狐に恋をしていた。 

『狐笛の彼方』は児童文学作品だが、大人になった私に新鮮な感覚を与えてくれる。物語の美しく豊かな自然風景に引き込まれた人がいたり、小夜と狐の野火の清らかな愛に感動する人もいると信じている。しかし、私にとって、本当に胸を打たれたのは「野火」と呼ばれる霊狐の姿だ。霊狐は人と神々との間を行き来できる獣であったはずなのに、呪者の術に縛られて、殺人の道具に淪落してしまった。野火はこんな運命に翻弄された狐だ。心の芯がやさしい野火は呪者の使い魔にしては人間くさい、恩返しが分かる。主の命令に逆らえば、死が待っていることが分かるのに、愛する恋人の小夜と、かつて助けてくれた小春丸を守るために、野火は何度も命がけで戦った。火色の毛皮を光らせて夕暮れの枯野を走る霊狐がついつい私の心に飛び込んできた。 

実は、日本の民俗文化にも狐の伝説が存在している。霊狐は祥瑞を象徴する稲荷 

神の使者として日本人に崇拝されている。伝説に登場する霊力を持つ狐は「霊狐」 

だけではなく、悪賢い「妖狐」もある。この点は、ほぼ中国と同じだ。中国でも、狐は吉と不吉の二重の意味を持っている。しかし、狐と言えば、悪いイメージを思い出す中国人が多い。これは両国の自然観、歴史の発展と関係があるのではないかと思う。いずれにせよ、狐が自然界の小さな生命体として、人間はそれを尊重すべきだ。上橋先生のこの作品を読んだ後、知らず知らずのうちに人間味がある霊狐の「野火」に恋をしてしまう人は少なくないと思う。 

                                          『狐笛の彼方』

 

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