「生きた化石」の魅力伝える ショル民間チベット劇芸術団

2020-01-22 16:16:01

周晨亮=文

15世紀に誕生し、チベット文化の「生きた化石」とされるチベット劇は、中国に現存する最古の劇の一つだ。

半世紀余りの間、ラサ(拉薩)のショル(雪)民間チベット劇芸術団は、「伝統を残し、伝承を主とする」を理念に、太鼓やシンバルの音の中で一代そしてまた一代とチベット劇の歌声を伝え、人々に深く愛されている。

 

チベット劇『ナンサ・ウーブム』の金剛舞のシーン(写真・秦斌/人民画報)

 

高く澄んだ歌声と力強い踊り、華麗な衣装と神秘的で恐ろしい仮面、人の心を揺さぶる舞の美しさ……。伝統チベット劇『ナンサ・ウーブム(朗薩雯波)』を見た人は、このような印象を持つことだろう。この劇を上演するチベット・ラサのショル民間チベット劇芸術団は、1950年代末に成立し、チベット語では「シュエバ・ラム(雪巴拉姆)」といい、チベットで最も有名なチベット劇団の一つで、ラサ市で最も早くに成立した民間チベット劇団でもある。

 

チベット劇の前口上の部分(写真・馬悦)

 ショル民間チベット劇芸術団の名前は、この芸術団の誕生地であるポタラ宮の麓にあるショル地区に由来する。この劇団の前身は、ラサにあるクンデリン(功徳林)寺の僧侶による上演グループであり、これらの僧は伝統的なチベット劇を愛し、粘り強く伝承し続けてきた。さらに彼らには深いチベット語の教養があったため、この寺のチベット劇団の名声はあっという間に高まった。1959年、クンデリン寺のチベット劇団の元団員たちがラサ・ショル・アマチュアチベット劇団を創設し、シュエバ・ラムがここに誕生した。一度は上演活動を停止したこともあったが、79年、ショル地区居民委員会党支部の要請で、クンデリン寺劇団の団員であった著名なチベット劇役者マヘ・アワロツィ、ズチョンら33人の団員が再び劇団を組織して、正式にショル民間チベット劇芸術団が成立し、その年、伝統チベット劇である『ドワ・サンモ(卓娃桑姆)』を一般に向けて上演した。ショル民間チベット劇芸術団はこの時から、チベットで初めて伝統チベット劇上演を再開した芸術団となり、十数年上演が停止されていた伝統チベット劇が再び光を放ち始めた。シュエバ・ラムは次第にラサの民間チベット劇団の代表的存在となり、ジェムロン派(チベット劇における影響力が最も大きく、広く伝わった流派)の最も正統な伝承者ともなり、チベットの人々から人気を博した。

 しかし、ショル民間チベット劇芸術団のもうけは少なく、団員たちは他の仕事と掛け持ちしながらの生活を余儀なくされた。生活は苦しくとも、劇団から出て行こうとする人はいなかった。彼らはチベット劇を心から愛していたからだ。

 劇団の5代目トップであるベンバツリンさんは、今年42歳になる。彼は8歳の時からチベット劇を始め、劇団の2代目トップであるマイラさんと4代目トップのジャヤンロダンさんに学んだ。今ではベンバツリンさんは、この民間劇団の立役者の一人となっている。毎年、ラサのショトン祭り(チベット族の伝統的祝日)には、彼は若い役者たちと共に舞台に立ち、観衆に喜びをもたらしている。「私の両親もこのチベット劇団の団員で、叔父と姉もチベット劇上演に従事していました。彼らの影響を受け、私も小さい頃からチベット族の歴史文化がとても好きで、自分もチベット劇を継承し、発展させる責任があると思っていました。私にとって、チベット劇は一生をかけるに値する事業なのです」とベンバツリンさんは語る。

 

5代目トップのベンバツリンさん(左)とツジさんが演じるナンサ・ウーブムの父母。舞台の背景に描かれているのはチベット劇の創始者とされるタントン・ギャルポ(13851464年)。チベットの人々は彼を劇神、創造・知恵・力の化身としてあがめ奉る(写真・秦斌/人民画報)

見習い役者のダンゾンイシさん(26)は、明るいチベット族の若者だ。彼は昨年、北京の中央民族大学でチベット学の修士課程を終えたところで、8月に北京で上演したチベット劇『ナンサ・ウーブム』の台本を脚色した。伝統チベット劇の八大演目の一つとされる『ナンサ・ウーブム』は、民間のリアルな生活を題材にした唯一の演目だ。登場人物であるナンサ・ウーブムの生死と輪廻を通して、チベット封建農奴制度の暗黒と残酷さを暴き、同時にチベット民間の真実・善・美を発揚したものである。ダンゾンイシさんの紹介によると、完全なチベット劇は、ウェンバドン(幕開け)と本劇、大団円の3幕から構成されているという。

 

チベット劇の仮面の特徴を説明するダンゾンイシさん(写真・馬悦)

 チベット劇の上演は通常、屋外の広場で行われ、楽器は太鼓とシンバルが一つずつあればよい。上演の時と場合によって、上演時間とストーリーの長さは自由に調節することができ、長い時は1日、短い時は5、6時間とさまざまである。「今回この広場劇を舞台化するにあたって、私は多くの改編を行いましたが、長年チベット劇を見慣れている人たちに、これはチベット劇ではないと思われないよう、伝統的なチベット劇の要素と構造は完全に残しました」とダンゾンイシさんは語る。

 

チベット劇の古典的な「太鼓とシンバル」の伴奏(写真・馬悦)

ショル民間チベット劇芸術団の楽屋には、仮面や衣装、楽器が整然と並べられ、それらが放つ鮮やかな色合いと重厚な歴史感は、まさにチベット劇がチベット文化の「生きた化石」として人々を魅了するところである。

 

チベット劇の中で「ザシ・シュエバ」と呼ばれている仮面には、知恵・吉祥の意味がある(写真・馬悦)

 

チベット劇で使われる猿の仮面(写真・馬悦)

伝統的なチベット劇の本来持つ味わいを残す以外にも、チベット語が分からない人でも劇を理解できるように、ダンゾンイシさんは上演の際に漢字の字幕や関連するチベット民俗の背景説明、そして今ちょうど流行りともいえるネット中継も担当している。彼は「チベット劇自体がさまざまな芸術の結晶ともいえるもので、1000年余りの間、チベットの人々の農耕や嫁入りなどの生活習俗の各方面を記録し、再現してきたものです。私たちの新しい上演方法により、より多くの人にチベット劇やチベット文化を理解してほしいと思っています」と語る。

「今、チベット劇団は八大伝統チベット劇を上演するにとどまらず、劇を保存するという目的を基礎にした上で、さらに上演内容を豊かなものとしており、上演する歌や踊り、民間の小作品も多くの人に愛されています」と、団長のベンバスナンさんは語る。「現在、ショル民間チベット劇芸術団のメンバーは56人まで拡大し、年長者は80歳以上、最年少者はわずか十数歳で、若い役者が8割を占めます。規模は大きいと言えるでしょう。チベット暦新年の前後と夏・秋の農繁期は、最も頻繁に上演が行われる時期です。昨年、われわれが北京で初めて上演した『ナンサ・ウーブム』は満員御礼となり、拍手喝采を受け、芸術団のみんなの大きな励みとなりました」

 

楽屋で準備をするナンサ・ウーブム役のツヤンさん(写真・秦斌/人民画報)

 

仙女に扮する若い役者、セチェンさん(写真・馬悦)

 

大臣を演じる若き役者、リンゾン・ダワさん(写真・馬悦)

 

若い役者の着替えを手伝うベテラン役者のチリェさん(写真・秦斌/人民画報)

 

支度を終えた役者たちが出番を待つ(写真・秦斌/人民画報)

 チベット劇文化の普及のため、そして次の世代につないでいくため、近年、ショル民間チベット劇芸術団はラサの城関区の多くの学校と協力し、チベット劇芸術を学校の授業に取り入れ、子どもたちのこの古い民族の至宝についてのしっかりとした知識と、チベット劇に対する興味を培おうとしている。これもまた、ショル民間チベット劇芸術団がチベット劇文化保護と伝承のために行っている方法の一つだ。

 「私はショル民間チベット劇芸術団の全ての団員の努力により、チベット劇上演が伝承されていくことを願っています。また、多くの方面の人々の努力によって、さまざまな方法でチベット劇をより多くの舞台に載せることで、さらに多くの人たちにチベット劇を知ってもらい、好きになってもらいたいとも思っています」と、ベンバスナン団長は願いを込めた。

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