観光と教育で変わるチベット

2020-03-26 16:10:31

マイケル・サラテ(ペルー)=文・写真

チベット自治区ニンティ(林芝)市メンリン(米林)県のシガメンパ(西噶門巴)村を訪れると、農家で働くベマピンゾンさん(37)が笑顔で出迎えてくれた。彼と一緒にいたのは、5歳の末っ子の娘さんで、彼女は自家製のヤク牛乳で私たちを温かくもてなしてくれた。4杯目の牛乳を腹に収めたところで、ベマピンゾンさんはここ数年で身の回りに起こった変化について話し始めた。「昔は交通網の整備が遅れていて、道路状況もひどかったんです。今では村のインフラは改善され、わが家の8・8ムー(1ムーは約0・067㌶)の農地で生産する農作物も、他の町へ販売しやすくなりました。末っ子の娘は幼稚園に入り、11歳の長女も大学に行こうとがんばっています」と話す。

ベマピンゾンさん一家の変化は、チベット自治区の多くの村で起こっている発展の一つの縮図にすぎない。政府のデータによると、同自治区の貧困率は2015年の25・2%から19年6月には5・6%にまで低下し、貧困人口も59万人から15万に大幅に減った。チベットのここ数年の発展は非常に注目されているが、まだ試練も多い。中国人権研究会の羅布理事は昨年7月に開かれた第41回国連人権理事会会議で、「中国は19年までにチベット自治区の絶対的貧困を解消する計画だが、各方面のさらなる努力が求められる」と述べた。

 

観光業が追い風に

 16年から現在まで、チベットで人口が最も少ないアリ(阿里)地区では、1万6212人に及ぶ住民が次々と貧困から脱却している。これは政府が実施した88の貧困救済プロジェクトと密接に関係しており、これらのプロジェクトの総投資額は15億元に及ぶ。その中でも観光業に重点を置いたプロジェクトがいくつかあり、2520人の貧困脱却に役立った。ちなみに、同地区の平均海抜は4500㍍で、こうした標高の高い地域における社会支援政策がいかに難しいかは想像に難くない。

 チベットの他の地区でも、観光業は貧困対策の効果的な手段となっている。その中でも、ニンティ市バーイー(巴宜)区ルラン(魯朗)鎮のザシガム(扎西崗)村は代表的な例だ。同村には全部で66世帯327人が住んでおり、村の歴史は長く、美しい自然に恵まれ、交通の便も良い。あるとき村民たちは観光業に専念することを決心し、民宿を開業し、同地の経済発展を促進した。彼らはバーイー区における新しい発展モデルの先駆けとなった。現在、同村の民宿は51軒にのぼり、18年には村全体で延べ7万5000人以上の観光客を受け入れ、406万元の観光収入を得た。

 「ルラン鎮は観光業にとても適しています。ここには素晴らしい景色があります。これを活用するため、民宿を始めました」と、ダワさん(47)が教えてくれた。「ダワ」という名はチベット語で「月」の意味であり、彼は3人の子どもの父親だ。ダワさんはかつて養殖業と農業を兼業していたが、12年に銀行のローンを申請し、1部屋4550元の値段で民宿を始めた。ダワさんの民宿は素朴で優しい雰囲気を持ち、周囲は青々とした山々と澄んだ湖に囲まれている。この景色の素晴らしさは、現地の人がよく言うこの言葉を裏付けた。「ルランを訪れると、きっと自分の故郷を忘れてしまう。ここはまさに、『神の住む場所』だ」

 

チベット族出身の芸術家がルラン国際観光小鎮で絵を描いている

ルラン鎮の観光業の成功は、地元政府による国際観光小鎮計画のおかげだ。この計画は17年3月28日から正式に始まり、経済力の強い広東省の支持を得た。国際観光小鎮計画の総投資額は38億元に達し、観光業だけでなく、商業中心地の建設や緑地の整備、かんがいシステムの整備などインフラの発展にも力を入れている。16年以来、ルラン鎮を訪れる観光客数は延べ100万人を超え、ニンティ市の発展を促し、チベット東南部の観光において重要な役割を担っている。

 

ルラン鎮にあるダワさん家族の経営する民宿のウェルカムパーティー

 

教育の力

 チベット自治区の絶対的貧困を19年までに解消する、という目標を達成するため、中国政府は202に及ぶ計画を相次いで発表した。内容は就労、科学技術、住民移転、教育、医療など多岐にわたり、総投資額は215億元に達した。

 教育分野の施策について、私たちは幸いにもチベットで最も有名な二つの学校を見学させてもらうことになった。ニンティ第2小学校とラサ(拉薩)ナグチュ(那曲)第2高等学校だ。ニンティ第2小学校の程仙池先生によると、同校は子どもたちの環境保護意識を育てることに重点を置いているという。全校生徒1800人以上はチベット族、漢族、メンパ(門巴)族、回族などさまざまな民族からなり、中国語とチベット語の教育を受けている。校内には、生徒たちが作った液体燃料ロケット「長征七号」や中国初の宇宙実験室「天宮一号」、中国初の国産大型旅客機「C919」など、中国の科学技術の発展を示す模型が廊下に飾られていた。

 

伝統的な舞踊を踊る、ニンティ第2小学校のチベット族の女の子たち

チベットの行政中心地、ラサにあるナグチュ第2高等学校で私たちを迎えてくれたのは、英語教師のベルマシェラブさん(39)で、284人いる教諭の中の1人だ。「標高の高い地域に住んでいる多くの農牧民の人々が子どもをここに通わせています。この学校はチベット北部の教育の窓口となっているんです」と話した。通り掛かった教室の窓からは、生徒たちが古代ギリシャとローマの政治制度について勉強しているのが見えた。また別の教室からは、ベートーベンについて勉強する音楽の授業が聞こえてきた。

 

ラサ・ナグチュ第2高等学校の実験室

そして、チベットの教育発展のニーズを満たすため、アリババグループの創業者であるジャック・マー(馬雲)氏の財団(公益基金会)は1億元の投資を始めた。この資金は、ラサに教師養成センターを設立し、ラサ師範高等専門学校をつくるほか、10年以内にチベットで将来教育に携わる師範学校生800人と、教師1400人、校長1000人に資金援助を行うことに利用されるという。

 

チベットの重要な地位

 チベットの民主改革が始まって60年以来、観光業と教育業はすでにチベットの絶対的貧困解消における重要な二つの分野となっている。中国共産党中央宣伝部の蒋建国副部長は「2019中国チベット発展フォーラム」で、次のように指摘した。チベットの域内総生産(GDP)は1959年の1億7000万元から2018年の1500億元まで、人口は50年代の120万から340万まで、平均寿命も35・5歳から70・6歳までそれぞれ増加した。これらのデータは全て、チベット民主改革60年間の成果のたまものである。

 そしてチベットは、「一帯一路」構想において軽視できない重要性がある。その持続可能な発展は、中国にも世界にも重要な意義を持っている。歴史上、チベットは古代シルクロードの沿線で重要な役割を果たしてきた。今でも中国と南アジア諸国、特にインドやブータン、ネパールとの間の重要な陸上回廊となっている。ラトビア議会対中国協力促進チームのヴィヤチェスラフ・ドンブロウスキス主席は、「近年、いくつか重要な通路が開通した。2006年に青海・チベット鉄道が開業し、チベットとネパール間の相互アクセスは強化された。現在、ネパールとチベット間の貿易は中国とネパールの貿易総額の90%以上を占めている」と話した。

 米国アトランタ市にあるカーター・センターの中国プロジェクトを担当する劉亜偉主任は次のように指摘した。チベットは中国の他の省と比べ、世界という舞台においてかけがえのない重要な地位を占めており、これはチベットの人々、宗教、文化の素晴らしさと西洋のチベットに対する情熱によるものだ。従って、「西洋諸国のチベットに対する認識は、国際社会の『一帯一路』に対する認識に深く影響するだろう」

 

2019中国チベット発展フォーラムがラサで開かれた

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