湖南省金井鎮 茶の里で満喫スローライフ
尚勇 周坦=文
金井鎮人民政府=写真提供
湖南省北部にある金井鎮は、長沙市に隣接するのどかなお茶の町だ。ここには老舗の茶問屋や広大な茶園、エコテクノロジーによって発展した現代的な農園、参拝客が列を成す千年の古刹がある。「小さな長沙」と呼ばれ親しまれてきた金井鎮は、都会の人々が憧れる観光スポットとなっている。
茶畑で茶摘みをする女性たち(写真・黄罡)
悠久の時が流れる町
金井鎮の名は井戸に由来する。明代初め、毎朝牛を放牧していた孫という男がチャノキの木々の間から紫色の雲が昇るのをたびたび見ていた。息子と一緒にそこにあったチャノキを新しく開墾した山に移植すると、その木は見る見るうちに育ち、青々とした新芽をつけ、新芽を摘んでもまたすぐに生えてきた。不思議に思った孫がもともとチャノキが生えていた場所に行ってみると、小さな穴から水が湧き出て泉になっていた。その穴を深く掘ってみると、石の板が現れ、それをどかすと、水底から金色のアヒルが浮かんできた。金色に輝くアヒルの水かきの下から水が絶えず湧き、アヒルが忽然と消えても湧き続けた。畏敬の念を覚えた親子はそこに村で使う飲用井戸を作り、碑を立てて「金井」と刻んだ。ここの井戸水は大干ばつの年でも常に満水で、洪水の年でも濁らない。冷たくて甘いこの井戸水を使って入れたお茶は香りが特に引き立つ。
金井の風情を存分に味わいたければ、脱甲村に行ってみるといい。「脱甲」とは、文字通り鎧を脱いで心身をリラックスさせるという意味だ。この名前は「関公戦長沙」の話に由来している。後漢末、長沙を攻めるため南下していた関羽は、金井の鉄甲橋に着き、見渡す限り果てしない茶園に薄い霧が立ち込めているのを目にした瞬間、桃源郷にいるように感じた。長旅で疲れた関羽は鎧を脱ぎ、その場で駐屯するよう部下に命じた。そして地元の農民が井戸水で入れた新茶を飲むと、兵士はみな疲れが消え、元気がみなぎった。この話にちなんで、ここは後に脱甲村と名付けられた。
金井鎮はこのように、生活と仕事の「戦場」から離れ、「鎧」を脱ぎ、悩みから解放され、心身の安らぎを得られる場所だ。脱甲の古い町並みは明末清初の建築様式を残しており、歴史の深さを味わうことができる。また、特色ある料理を堪能できるほか、風景の中から時代の変遷を感じ取ることもできる。その他、ハンドメイドの店、書店、博物館、菓子店、民宿などが並び、ご当地限定グッズや特産品の展示販売、「無形文化遺産」の展示、お祭りなどを楽しむことができる。
のどかな脱甲村
体全体に染み渡るお茶
中国は人々が急速な発展を経てから、徐々にその足取りを緩め、どのような発展のスピードが最も適切であるかを考えるようになった結果、「スローライフ」がブームになった。スローライフは生活の質の向上と精神的な豊かさを重視する生活スタイルだ。金銭や地位、栄誉などにこだわらない「ゆったりとした生活リズム」も人々の共通の価値観となった。
金井には至るところに広々とした茶園がある。上質な緑茶を育んでいる茶園は公園でもあり、観光スポットになっている。ネットで人気の都市である長沙に行く観光客の多くは金井にも足を運び、いっときの安らぎとお茶の香りを満喫する。
緑豊かな茶園の一角に腰掛けてお茶を頼み、茶葉がゆっくりと底に沈んでいくのを見ていると、時間の流れが止まったかのように感じて心も落ち着いてくる。お茶を一口飲むと、芳醇な香りと甘みが口の中で広がり、身も心もほぐれてくる。遠くを見渡すと、茶園の向こうには古風な建物の白い壁と灰色の瓦が見え、農家の緑の茂みや透き通った池の水がともに水墨画のような美しさを醸し出している。
お茶を飲むときに欠かせないのが茶菓子だ。金井は茶菓子の種類も豊富で、「花片」(うずまき模様の薄いクッキー)、紅いもチップス、ザボンの皮の砂糖漬け、米菓子、ドライフルーツ、干し大根などは緑茶と相性が良く、お茶の時間に情緒を添えてくれる。
金井特産の緑茶
郷愁を呼ぶ風景の数々
茶園だけでなく、金井には雲にかすむ興雲山や千年の古刹である九渓寺、手つかずの自然が残る金井湖、中国中南部最大のタイガーパーク、全長39㌔の自転車競技コースなど、10カ所余りの観光スポットがあり、それぞれに異なる見どころがある。
金井の古い町並みの果てには、参拝客が列を成す九渓寺がある。九渓寺は唐建国の功労者である尉遅恭により、貞観8(634)年から建造されたものだ。敷地面積はおよそ2600平方㍍で、上、中、下の3棟から成っている。寺の右側に流れる渓流が9箇所も曲がりくねって金井河に合流しているため、「九渓寺」の名が付いた。
「名山には僧侶が多い」という言葉通り、興雲山には他にも青松寺という寺がある。青松寺は貞観年間に太宗李世民の三男李恪によって建てられたものとされる。長い歴史を持つ青松寺は地元政府によって保護され、何度も修繕されて昔の風貌を保っている。青松寺を取り巻く地勢が鳳凰の形に似ていることから、山に住んでいる鳳凰がこの地を守っているのだと伝えられている。近くで見る青松寺は壮麗で、赤い壁と灰色の瓦が周囲に馴染んでいる。雲に隠れる山や曲がりくねった小道が、寺に訪れる参拝客を導いている。
九渓寺から東へ数㌔進んだところに、緑の山々に囲まれ、渡り鳥が羽を休める金井湖がある。遠くから眺めると湖面と空が一つになり、湖が空の青を映しているのかその逆なのか見分けが付かないほどだ。行楽客は岸辺で釣りをしたり、写真を撮ったりして、自然との触れ合いを楽しむ。
三珍タイガーパークは中国中南部で最大規模の虎の飼育園で、「中国三大タイガーパーク」の一つだ。「虎を育てられる場所は、生態環境が良い場所です」と、同パーク担当者の朱豫剛さんは言う。「虎を育てるには情熱が必要です。動物を保護する観点から、人間と自然、人間と動物が調和する自然の法則を大事にしています」
黄金色に染まる秋の石壁湖。金井鎮の観光スポットの中心にあり、禅茶院など、湖を眺めながらお茶を楽しめる施設がそろっている
九渓寺の牌楼で祈りをささげる人(写真・謝望東)
田園の中にハイテクあり
金井鎮は独特な現代的農園経済を発展させ、これをもとに新たな農村振興の道を切り開いた。金井では自然や田園、数百万平方㍍の茶園、歴史や文化の豊かな茶問屋と現代的な特色を持つ農場を統合し、茶園、花園、循環型農業園、野菜栽培拠点、果樹園、そして工業団地や農村振興産業園などを連携させた。そして「荘園」の概念に基づき、文化を核心とし、農業生産、質の高い生活、生態環境を一体とし、観光機能や居住機能を持つエコ農園の町を建造した。このような構想は人と自然を密接に結び付け、都会人の「自然との触れ合い、田園回帰」のニーズに応えている。
神奈川大学卒業後に帰国した王洪健さんは、金井鎮の観佳村に戻って「官家農荘」を創設した。そして、海外留学を終えて帰国した人たちや優秀な大学卒業生たちを率い、生態循環型農業を始めた。彼は効率的なバイオマスリサイクルシステムによる有機肥料、バイオ流動床汚水処理システム、抗生物質無添加飼料、生物防除剤などの先端農業技術製品を研究開発し、地元の農民たちの観念や農業生産モデルを変え、農園の生産力を全面的に向上させた。
またここでは高さ2・2㍍の巨大稲が栽培されている。見る人を驚かせる外観だけでなく、収穫量が多く、病虫や水害に強い特徴を持つこれは、「ハイブリッド稲の父」と呼ばれる袁隆平氏の「稲の下で涼みたい」という夢をついに実現させた。
人の心を癒やすのはなんといってもおいしい食事。金井鎮に来たら、地元の特産品を使った料理を堪能するのを忘れてはならない。羅代産の黒豚、双江産の白米、金井名物の腐乳、燻製肉、焼き魚、豚肘肉の煮込み、茶油を揉み込んだ鶏の丸焼きなどはどれも素朴な味で、食べる人の郷愁を誘う。
金井は牧歌的なお茶の町だ。観光に立ち寄るだけでも、農園と茶園を散策していると、お茶を一服したようなすっきりした気分になり、せわしく過ぎる日々にせかされることなくマイペースで生きててもいいと感じるだろう。スローライフとはゆとりを持った生き方であり、金井の当たり前の日常は都会人にとってぜいたくな時間を過ごさせてくれる。
金井鎮の農業研究開発拠点でキウイ狩りをする観光客(写真・蒋煉)