Z世代で広がる漢服ブーム

2021-02-18 15:39:55

李家祺=文

 

2020年西塘漢服文化ウイークの様子(cnsphoto)

 

11月21日、2020年冬の初雪を迎えた北京。故宮・午門の入り口では、色とりどりの漢服を身に着けた男女が、故宮の赤い壁の前で漢服姿を撮影するために、朝早くから長い列を作っていた。

初詣や成人式などの時によく和服を着る日本人と違い、中国では以前、漢服を着て街を歩くと、「コスプレなの?」などと言われることが多かった。だが今では、公園やショッピングモール、地下鉄駅など、漢服姿はどこでも見掛けるようになっている。

 

漢服とは?

漢服は「漢民族の伝統的な衣服」の略称で、夏・殷の時代(約紀元前2070年~紀元前1046年)から17世紀半ば(明の末期~清の初期)までに、徐々に形成された漢民族の特色を持つ服飾体系を指す。

右衽(自分から見て左の衽を右の上に重ねる交領)、ゆったりとした仕立てと広袖、帯をしめることが漢服の特徴だ。そのほかにも、円領・直領対襟・方領、窄袖・半袖などがある。

長い歴史の中で、漢服は何度も変化し、時代ごとに流行した様式もそれぞれだ。漢服には下着・中着・上着の区別がある。様式はさまざまだが、全体の構造から、「上衣下裳」(上衣とスカート状の下衣)、「上下一体」の2種類に分けられる。

 例えば、「上衣」には「衫」(単層、じかに着るタイプ、現代のTシャツやインナーに当たる)や「襦」(腰のラインに縫い合わせた「腰襴」のある短い上着、衫の外に着るのが一般的)、「襖」(裏地のある上着)などがある。「下衣」には「褌」(単層、じかにはくズボン、現代のレギンスに当たる)や「袴」(褌の外にはく股割れズボン、保温効果がある)、「裙」(男女共にはけるスカート状の下衣、褌や袴の外にはくのが一般的)などがある。また、「上下一体」のタイプには、「深衣」(上下を別々に裁断してから、腰の部分で一つに縫い合わせたワンピース型の服)、「袍」(上下が1枚の布で作られた服)などがある。

今では、現代人の生活習慣に合わせて漢服の一部の様式を調整した「改良漢服」も出てきている。現在、漢服の中で最も人気があるのは、「宋制漢服(宋の時代に流行した漢服の様式に照らして製作したもの」と「明制漢服」といえよう。

「宋制漢服」(以下、宋制)のうち代表的なのは、「褙子」(長さが膝下まであり、スリットのある長袖の上着)や百迭裙(プリーツを細かく施した巻きスカート)などだ。宋制はシンプルなため、夏に人気がある。女性の場合は、中に抹胸(ベアトップ状の服)、外に褙子、下に裙を着るのがおすすめ。涼しい上に体の動きを妨げることもない。

秋冬になると、明制がより人気となる。「襖」や「馬面裙」(2枚の生地を一部重ねて縫い合わせた巻きスカート)、「道袍」(明代の男性用の上着)などが代表的だ。女性の場合は襖の外に「比甲」(袖なしの長い上着)や「披風」(スリットがある、直領対襟の長袖の上着。クロークのようなもの)を、男性の場合は道袍の外に「氅衣」を着ると、暖かくなる。

 

 

急拡大する「漢服産業」

ここ数年、「漢服産業」が中国で爆発的な成長を迎えた。

2019年、ECサイト「淘宝」(タオバオ)における漢服販売ストアの数は前年比45・77%増の1188店舗に達し、売上高は20億元を超えた。また、中国中央テレビ・財経チャンネルの推計によると、19年9月時点で、全国の漢服市場における消費者数はすでに200万人を超え、産業全体の規模は約10億9000万元だった。

漢服ファンが集まる最大の電子掲示板・百度貼吧(tieba)の「漢服吧」は18~20年、会員数の伸び幅が毎年10%を超えた。また、動画共有サイト「ビリビリ動画」や中国版ツイッター「ウェイボー」、ショートムービーアプリ「ティックトック」などでも漢服関係のコンテンツシェアをメインとするインフルエンサーが増え、中には100万以上のフォロワー数を有する者もいる。このほか、「同袍」(漢服ファン同士が互いを呼ぶときに使う言い方)という漢服ファン向けの携帯アプリも誕生した。

オンラインでの大人気によってオフラインの漢服産業も盛んになってきた。「漢服写真」や「漢服体験館」「漢服お茶処」などが人気を集めている。体験館は、着付けやヘアメイクのサービス、撮影の場所などを提供し、漢服に興味を持ち始めた初心者にとりわけ好評だ。

そのほか、各種の漢服イベントも盛んになっている。

西塘漢服文化ウイークは今、中国で規模の最も大きい漢服イベントの一つで、毎年10月末に浙江省の西塘鎮で開催される。

漢服を身に着けた女性がひらりとそばを通り、鎧を着た男性が馬に乗って走っていく……。

文化ウイーク期間中に、この小さな町に来ると、数百年前に戻ったような光景が目に映る。現代の服を着ていると、逆にしっくりとしないほどだ。

また、期間中には、漢服知識の普及や漢服カーニバル、漢服ショー、弓術大会など、さまざまな活動が行われる。

7年前の第1回文化ウイークは、参加者がわずか数千人で、西塘の町中の漢服姿も少なかったが、19年の参加者は10万8000人を超えた。昨年は、新型コロナウイルス感染症の影響で入場者数の制限が設けられたが、3回に分けて配布されたチケットは、毎回数秒でなくなった。

いつの間にか、中国のどの町でも、「タイムスリップ」してきたような姿の人々を見掛けるようになった。

 

 

漢服ファンに聞く!漢服の魅力

中国の伝統演劇を専門とする大学・中国戯曲学院の4年生、劉珂延さん(20歳、男性)は、そのような変化をしみじみと感じている。

崑曲を専攻する劉さんは5~6年前から、漢服に興味を持ち始めた。「以前、漢服を着て街を歩くと、よく変な目で見られました」。この2~3年、漢服を着て出掛ける人が多くなるにつれて、そういうこともなくなったという。

書道教師の曲芸青さん(26歳、女性)も似たような経験がある。「『そんな格好をするなら一緒に歩かないでほしい』と母に言われたこともあります」と曲さん。今、曲さんは遊びに出掛けるときや、年始回りのときに、よく漢服を着る。

漢服のファンたちから見た漢服の魅力は一体どこにあるだろう。

「夏・殷から明の時代まで、漢服には時代ごとの特徴やこだわりが反映されています。探究する価値はそこにあると思います」と劉さんは考えている。

漢服自体も歴史の一部だ。このこともファンたちを魅了している。

「福建省で発掘されたある南宋時代の墓が印象に残っています。黄昇という17歳の女の子の墓でした。その墓から300着もの服が出土し、南宋時代のほぼ全ての様式が含まれていました」と曲さんは語る。「ある背心(長いベスト状の服)の重さはわずか16・7㌘でした。一つのマッチ箱に2着入るそうです。また、背中側に布がなく、帯を交差させて固定する抹胸も発見されました。それを見て、昔の人っておしゃれだなと思いました」

劉珂延さんは大学で、漢服ファン仲間と「長華司」という漢服サークルを作った。現在、同サークルには40人以上のメンバーがいる。

「私のように古典演劇を学ぶメンバーもいれば、伝統楽器を学ぶメンバーもいます。そのため、サークル活動にも古典演劇など伝統芸術の要素を取り入れています」と劉さんは言う。「例えば、中秋節などの伝統行事のとき、サークルのみんなで漢服を着て、山に集まって、月見をして、茶を味わい、古典演劇を上演します。また、大学の新年会などで漢服を着て演劇をしたこともあります」

一方、「突如」起きたこの漢服ブームを理解できず、一時的な流行にすぎないという見方も依然として存在する。それに対し、曲芸青さんはこう考えている。「自分の民族の伝統衣装を着るのは当たり前のことだと思います。漢民族としてのアイデンティティーをアピールするためではありません。漢服も他の民族衣装も、その民族の文化と美を表すものなのですから」

 

  

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