多様な真実映す 中日女性監督

2021-05-26 14:21:04

徐崢榕=文

初監督作品が世界的ヒット

中国の人気女性コメディアン賈玲(ジア・リン)が初監督した映画『你好、李煥英』(邦題 : こんにちは、李煥英)が大ヒットし、女性監督の作品としては興行収入で世界歴代トップに立った。

同作品は、今年の春節(旧正月)に中国で公開。賈監督自身の実話を元に、1980年代にタイムスリップした賈監督が演じる娘と、青春時代の母親が親友になるという笑いと涙の物語だ。

 

『你好、李煥英』は中国の映画興行収入ランキングで、2017年公開の『戦狼』(ウルフ・オブ・ウォー)に次ぐ第2位。だが米フォーブス誌によると、『你好、李煥英』の興行収入は3月20日までに計53億300万元に達し、米国のパティ・ジェンキンス監督の作品『ワンダーウーマン』(17年)を抜き、女性監督作品の興行収入としては世界第1位になった。『你好、李煥英』は、まもなく日本を含む世界各国で上映される予定だ。

コメディアンから監督に転身した賈氏のデビュー作が大ヒットしたことにより、女性監督という存在も注目されている。

だが、これは決して男性監督と異なる特殊な集団として見ているのではない。近年、女性監督が急増し注目されつつあるという視点から、数多くの女性監督の出現を後押しする社会的な土壌と、その作品にある「女性の力」を発掘することも非常に重要な現実的意義がある。

 

時代の舞台で精神面の訴え

中国の女性監督は、新中国成立当初から登場し、その後次第に持続的な流れを形作っていった。

新中国成立時で女性監督の第一人者と言えば、王苹監督だ。王監督が1958年に八一映画製作所で撮った革命映画『永不消逝的電波』(邦題 : 永遠に消えない電波)は名作だ。それに引き続き、黄蜀芹(ホアン・シューチン)監督の87年の作品『人・鬼・情』(舞台女優)が欧米の学術界で中国初のフェミニズム映画として認められた80年代を経て、2004年に公開された徐静蕾(シュー・ジンレイ)監督の『一個陌生女人的来信』(見知らぬ女からの手紙)が、スペインのサン・セバスチャン国際映画祭で最優秀監督賞を受賞する2000年代まで、歴代の中国女性監督たちは探究を続け、優れた作品で映画界の性差別を徐々に打破していった。

中国の女性監督は、中国の女性が解放を経験してから内心を模索し、さらに社会に進出する過程を全面的に描き、西洋のフェミニズム映画との隔たりを少しずつ打ち破っていったのである。21世紀に入ると、開放的で寛容な創作環境の下、多くの女性が業界の障壁を突破し、女性監督として頭角を現し始めた。

同じアジアの国として、日本の女性監督の誕生はそれほど遅くはなかったが、残念なことに継続的に発展する流れを形作るまでには至らなかった。河瀬直美監督が1997年にカンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞した後、多くの日本人女性が次々に映画を撮り始め、それらのデビュー作は2000年代に続々とスクリーンに登場した。

日本で女性監督が多く出現した理由について、映画批評家の四方田犬彦氏は、著書『日本映画史110年』(2014年、集英社新書)で次のように指摘している。日本の女性監督の急増の源は、まず女性の精神面での訴えにある。より多くの女性が映画館に足を運ぶようになるにつれ、女性は映画を自己表現の手段として期待した。この期待は、長らく男性を中心とした映画の製作体制が解体され、撮影と編集のハードルが低くなったことで満たされ、さらに映画業界が新人女性監督の発掘を積極的に行ったことで後押しされた。

時代の進歩は文化の多元的な発展の豊かな土壌を作り、より多くの女性がメガホンを取るチャンスを手に入れ、次第に社会から注目されるようになった。

 

女性の目で現実社会を活写

黄蜀芹監督はインタビューでこう指摘する。「普段、女性の目に映る世界がどうなのか誰も気にしませんが、女性監督は独自の視点でその一面を観客に見せることができます。それによって人々は、『生活には別の音や別の感情もあり、それが世界を完全なものにしているのだ』と驚きを持って知るのです」

女性監督のユニークさはまさにここにある。女性ならではの視点で世界を観察し、現実の社会で見過ごされ忘れられた多くの現象を映画によって「見られる」ようにしている。

『你好、李煥英』で描かれたのはごく普通の母親像であり、多くの普通の中国の母親と共通するところが凝縮されている。それは善良さであり、楽観的な明るさであり、向上心であり、質素で何事もおろそかにせず、喜びの中でも苦難の中でも生きることを楽しむ力があるということだ。こうした大衆の目には見慣れてありきたりな特性が、映画で集中的に「見られる」ことによって、母親に対する社会の関心を喚起した。映画を見た後で母親に電話し、SNSに「わが家の李煥英」として母親の青春時代の写真をアップするのが多くの観客たちの共通の行動となった。

女性監督は繊細な感覚で家族愛を描き、さらに社会全体にも目を向けている。女性らしい生き生きとした現実社会の描写は、期せずして中日女性監督のシーンの共通要素となっている。河瀬監督が家族愛を見つめた作品『萌の朱雀』(1997年)と『殯の森』(2007年)は、いずれも同監督の古里の奈良県に根差している。

『萌の朱雀』では、工事が中断されたトンネルと田舎に取り残された老人が繰り返し現れ、農村の過疎化と高齢化の実情を浮かび上がらせる。また『殯の森』では、伸びやかな命の成長を象徴するうっそうとした森と、家族を亡くして深い悲しみに沈む主人公が共に描かれ、生と死の対立を際立たせている。

その河瀬監督と賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督がエグゼクティブ・プロデューサーを務め、中国の鵬飛(ポン・フェイ)監督がメガホンを取った中日合作映画『再会の奈良』(原題 : 又見奈良)が3月19日、中国で公開された。同作品は、河瀬監督の古里・奈良を再び舞台に、中国残留孤児と養母の血のつながりのない家族愛の現実的な意味を探った。

一方、西川美和監督は「真実隠し」の達人で、代表作の『蛇イチゴ』(03年)や『ディア・ドクター』(09年)は、いずれもうそで構築された物語だ。映画の中の人物は、うそによって家庭生活と社会の現実の苦境を解消しようとたくらみ、矛盾を暴露するが、逆にいっそう真実に近づいてしまう。

このように、歴代の女性監督は真実を映すことで世界に注目されるようになっている。昨年のベネチア国際映画祭では、許鞍華(アン・ホイ)監督が、映画芸術に特別な貢献をした映画人に与えられる栄誉金獅子賞を受賞した。同監督が何物も恐れず大胆に示した歴史観と社会への関心は、今後もより多くの若者に注目されるだろう。

女性監督は、時代が作る芸術の舞台で軽やかに踊り、女性独特の視点を示し、多様な芸術様式を用いて文化の進歩に尽くしてきた。この長い道のりでたゆまずに進む彼女たちには、明るい将来が期待できるだろう。

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