「盲盒」 の中の中国

2021-07-02 10:01:44

高原=文

「盲盒(ブラインドボックス。箱の中に何が入っているか分からないおもちゃ)」の中国での流行は、北京ポップマート社が「ベアブリック」と「ソニーエンジェル」の輸入に成功してから始まり、その後、ブラインドボックスとフィギュアを主力製品とする同社が発売した「モリー」がヒットして、メジャーになった。

ポップマートは昨年12月に香港証券取引所に上場し、時価総額は一時は1100億香港㌦を超え、昨年上半期の売上総利益率は驚異の65・2%に達し、ブラインドボックスの金を生む力は無視できないものになった。

 

ポップマートの店舗(東方IC)

 

見えなくして大ヒット

ブラインドボックスの起源はバンダイが1977年に発売したカプセルトイ(ガチャガチャ)にさかのぼれるが、中国のブラインドボックスは日本と異なる道を歩んでいる。日本ではカプセルトイもブラインドボックスも非常に安いおもちゃだが、中国のブラインドボックスはモリーの発売から59元が一般的な定価になり、その後89元のものも登場した。中国人の収入やブラインドボックスのコストと比べると高価だが、この主な原因は、中国のブラインドボックスがもともと「デザイナーズトイ」という概念とセットになっていたからだ。

デザイナーズトイはアートトイともいわれ、香港のデザイナーのマイケル・ラウ氏が開拓したジャンルだ。芸術、デザイン、流行、塑像などの理念をおもちゃに取り入れ、サブカル・アートやアニメなどを好む大人に向けたものであり、「食玩」の概念とは最初から位置付けが異なる。

ポップマート創業者の王寧氏は2016年1月に微博で、「みんなはソニーエンジェル以外で何をコレクションしたい?」という問い掛けを発した。その答えの半分が王氏には聞き慣れない名前――モリーだった。そして王氏はチームを率いて香港へ行き、モリーのデザイナーである王信明(ケニー・ウォン)氏に会った。「彼はもうデザイナーズトイ業界では名の知られたアーティストでしたが、私たちにとってはバーで歌を歌っていた頃の周傑倫に会ったようなものでした」と王寧氏は振り返る。

ポップマートに注目されるまで、モリーは香港での売れ行きがあまり良くなかったが、王氏がソニーエンジェルをまねてブラインドボックス形式で売ることを提案したところ、大ヒットになった。まさにこのような原点があるので、モリーとブラインドボックスは当初からデザイナーズトイとして見られ、そのイメージによってセンスとコレクションとしての価値が引き立てられ、大人の購入者により受け入れられやすくなった。一般的なデザイナーズトイがともすれば3桁から4桁の価格になるのと比べ、ブラインドボックスはより人気がある選択肢になっている。

 

デパート内に展示されている大型モリー(東方IC)

 

伝統をおもちゃへ

日本と米国ではデザイナーズトイのキャラクターIP(知的財産)は大部分が有名なアニメキャラであり、これによって派生グッズをロングセラーにさせ、顧客の囲い込みができる。しかし中国のブラインドボックスのキャラクターはほとんどがデザイナーのオリジナルによるもので、ストーリーやコンテンツなどの土台が欠けており、人気を維持し続けるのは難しい。

これに対して企業は、ブラインドボックスのメイン購買層が、中国の伝統文化に高い関心を持つZ世代(1990年代後半~2000年代生まれ)であることを敏感に察知した。グローバル化や個性化の時代に育った若者たちは中国の伝統文化に対する包括性と再現性によって、目下のアイデンティティーを確立しようとしている。「中国風ブラインドボックス」が登場したのはこういう背景がある。故宮博物院による明・清代の宮廷キャラシリーズ、陝西歴史博物館によるミニ青銅器シリーズ、さらに河北博物院が所蔵する散楽図彩色浮彫からヒントを得て発売された唐代宮女シリーズなどがある。また河南博物院から発売された考古シリーズは、土の塊から「宝物」を発掘することができる。購入者が未知に挑む考古学を体験できるように、銅製の仏像、銀貨、刀銭など30種類以上が発掘でき、その種類は今も増え続けている。

他にも『西遊記』『三国志演義』『山海経』『花木蘭』、唐代の詩人をテーマとしたブラインドボックスも数えればきりがなく、気に入った物を入手しようとすればたくさんのお金がかかるだろう。

統計によると、昨年上半期におけるポップマートの新規登録会員のリピート率は51%で、年齢層は15~35歳に集中しており、75%が女性だった。職業別で見ると会社員が33・2%で、購入者の90%が月給8000~2万元だ。ここ1年間、20万人以上のポップマート会員がブラインドボックスを2万元以上購入している。

人々がブラインドボックスを購入する心理に関して、王氏の見解ははっきりしている。「ブラインドボックスを買うのはアイスを買うのと一緒で、その意味は購入者に5~10分間のドーパミンを与えることにあります」。ポップマート創業後の数年間は、ティックトックなどショートムービーが急速に台頭した時期であり、若者はますます我慢しようとしなくなり、即効性のある刺激を好むようになった。ブラインドボックスとはこの時代の風潮の縮図にすぎない。

 

「唐代宮女の日常」シリーズ(写真・高原/人民中国)

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