農歴

2022-10-14 17:08:23

姚任祥=文 

毎年、年の始まりに私は本棚に新しい『農暦』(旧暦)を2冊並べ、吉日を選びたいときに役立てている。先人の知恵を凝縮した『農暦』は、昔から今まで私たちの生活や仕事に深い影響を与えてきた「中国人の生活のバイブル」だ。多くの人が私のように、農暦を吉日選びの参考にしているはずだ。農暦における陰陽五行の学問は非常に広いが、いつも吉日選びという一番簡単な機能しか使わないのは、少し恥ずかしい気もする。 

  

家庭でよく使われる日めくり式のカレンダー 

農暦は今から5000年以上前、夏の時代に初めて作られた。初期の中国社会は、主に遊牧と狩猟に依存しており、堯帝の時代になってようやく農耕社会が形成された。農作業の進行を容易にし、農民に種まきや収穫の参考情報を提供するために、自然の変化を的確に捉えた「農暦」が誕生した。科学や情報が発達していなかった時代、農暦は天文学的な暦法や季節、気候の知識を伝える気象台の役割を担っていたのだ。科学的な実証主義が普及する今日でも、農暦から受け継いだ経験則は依然として華人の世界でそびえ立ち、人々から暮らしのマニュアルとして信頼されている。 

  

節気や年中行事などさまざまな情報が入った農暦(旧暦)のカレンダー 

 

西暦(太陽暦)が月・日・週で日付を表すのに対して、農暦は「天干」(十干)と「地支」(十二支)で年・月・日・時間を表す。農暦には「干支」の暦注(事項)がある。「天干」とは「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」の総称で、時間の関係を表し、「地支」は「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」のことで、空間の秩序を表す。 

「十干」に「十二支」を順に組み合わせると、「甲子」から始まって「癸亥」まで60通りの組み合わせが得られる。これらが、中国人がよく言う「一甲子」(60年の意味)で、このサイクルが繰り返される。 

このように、農暦では「年干支」と言って、60年を一つの周期とする。だから60歳の誕生日を迎えるたびに、「還暦」と呼ばれるのである。同じように、「月干支」は60カ月を1周期、「日干支」は60日を1周期、「時干支」は60時辰(時刻の意味、1時辰は西暦の2時間)を1周期とし、1日は12時辰、5日間で60時辰が一つのサイクルとなっている。 

一方、「金・木・水・火・土」が表す「五行」とは、万物を成す五つの元素とその変化を表している。金~土の間の相互作用は、季節や気候によって生じる隆盛と衰弱の変化と相まって、時間を明確に示すとともに、天地が動く論理を反映している。 

「建除十二神」は、吉日を選び、幸運を求めるための暦に付した注記だ。農暦の暦注の半分以上は吉凶を示すもので、このうちの「・・・・・・・・・・・」の「十二神」(十二直とも言う)は、その日の吉祥と禁忌(タブー)を示す。 

例えば誰もが気にするタブーは、それぞれ①建日に蔵を開いてはいけない②除日に金銭を支出してはいけない③満日には薬を飲んではいけない④平日に穴を掘ってはいけない⑤定日に旅行をしてはいけない⑥執日に病気になってはいけない⑦破日に客と会ってはいけない⑧危日に遠出をしてはいけない⑨成日に訴えごとをしてはいけない⑩収日に遠出をしてはいけない⑪開日に葬儀を行ってはいけない⑫閉日に目を治してはいけない――と記載されている。 

  

吉日を選ぶ際のよりどころとする注記の「建除十二神」 

「二十八星宿」は西洋の12星座と似ており、古代中国の天文学では二十八星宿(星座)で恒星群の位置を示し、それを東西南北の四つの方角ごとに4グループに分けている――東の蒼龍の7星座、北の玄武の7星座、西の白虎の7星座、南の朱雀の7星座だ。星宿の動きは天地万物の盛衰を左右するため、「二十八星宿」は吉日選びや吉凶禍福を占う参考にされてきた。 

「宜」(吉)と「忌」(凶)の暦注欄は分かりやすいことから、吉日選びの参考として広く活用されている。「宜」は赤い文字、「忌」は黒い文字で、結婚、転居、生活、祭事、葬儀、商売、農業・林業・漁業・牧畜などに関する吉凶を記している。私が日を選ぶときは、せいぜいこの欄を見る程度だ。 

「毎日吉時」(縁起の良い時間)や「毎日財神方位」(福の神の方角)なども、凶を避けて縁起の良い方向に向かう判断に関する暦注欄だ。「毎日の凶時と吉時」は、冠婚葬祭の日取りと時間帯を選ぶ際の重要な参考情報だ。何事においても人は縁起を担ぎたがるので、重要な日取りを決めるときには必ずこの「忌宜」(吉凶)の記載を判断のよりどころにするのだ。 

 

農暦の暦注欄は、項目がとても細かく実用的だ。上記の基本的な内容に加え、時代の移り変わりに伴い、生活のニーズに応じて新たな内容も追加され、新しい版の農暦には縁談での相性やごとの運勢、人相、星座などの情報も掲載されている。 

農暦は中国人の知恵の証しである。世界で広く使われている太陽暦に対し、農暦は月の満ち欠けを示す陰暦と、月と太陽の二つの暦方による「太陰太陽暦」を組み合わせており、潮の満ち干や季節、天文の法則に従って物事を行う根拠を提供し、天地一体という宇宙の哲理を示している。 

 

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