根菜類(上)

2024-05-20 14:25:00

現代医学では近年、酸性度の高い血液や体は健康に良くないと再三強調されている。魚介類や肉類を使わない精進(菜食)料理は、肉料理より酸性体質になるのを避けることができる。だから精進料理を食べる風潮がますます広まっている。 

レストランでは以前、菜食の材料を使い、鶏やアヒル、魚の肉に見立てて作っていたので、私は違和感を覚え、どうしても食欲が湧かなかった。精進料理に対する印象も良くなかった。しかしここ数年、台湾の精進料理は、そんな見せかけの精神的な慰めから脱し、食材が本来持つ自然の恵みという健康的なイメージに戻り、健康にも役立っている。 

一般的に菜食主義は、仏教の殺生を戒しめる規律と思われているが、実は聖書にもベジタリアンに関する記述がある。古代、バビロンの王様ネブカドネザルが病魔に冒されていたとき、神様の啓示を受けた――牛が青草を食べるように、できるだけ多くの野菜を食べなさいと。そこで王様はその通りにしたところ、奇跡的に病気が治ったという。また、相対性理論で知られる物理学者のアインシュタインも、「ベジタリアンの生活態度は、非常に単純な生理的なバランス状態から来ている」と述べている。 

たっぷりの肉食に慣れた人たちが、健康の危機に気づいて食生活を変えようと思っても、西洋のベジタリアンのような自然な状態になるのは容易ではない。だが、東洋の菜食主義のやり方を試みれば、徐々に体の変化を実感でき、健康になっていく。台湾では、朝食に「野菜2種に果物一つ、サツマイモ一つ」あるいは「野菜3種に果物二つ、サツマイモ一つ」を食べる人が多い。この野菜と果物は旬のものを生で食べ、サツマイモはふかしたり焼いたりして食べる。こうした食生活によって、多くの人のアレルギー体質が改善されている。 

東洋と西洋の菜食主義者の料理の風味の違いといえば、西洋の大半がソースで味をつけて食べ、火を通したり温めたりするのが少ないことにある。その理由は、東洋には加熱に強い食材が多く、調理法も多様だからだ。 

東洋には、根茎野菜や五穀雑穀類とその加工製品、グルテンベースの食品、葉物野菜、地方特有のキノコ類や特殊な海藻類、それに熱帯の果物などが豊富で、漬物の伝統や豆類の副産物を作る技術もある。さらに、中華料理特有の包丁さばきや火加減、ゆでるゆがく、漬ける、炒める、煮る、蒸す、とろみをつける――といった調理法は、何千年もの経験を受け継いできたもので、精進料理のバリエーションとおいしさを豊かにしている。 

私たちの食体系では、根茎類のサツマイモやヤマイモ、レンコン、サトイモ、こんにゃく、ごぼう、大根、ユリネなどはコラーゲンと多量の食物繊維を含んでいることから、健康増進の効果があり、精進料理に適している。 

ヤマイモは漢方で「淮山」と呼ばれ、大量の多糖質タンパクを含む粘性タンパク質の混合物で、カロリーはなく、抗酸化作用があり、がん細胞を抑制し、生殖系にも良い。ヤマイモという名称は、「山遇(シャンユー)」(山での出会い)の伝説に由来すると言われる(中国語で山遇は山薬(シャンヤオ)と発音が似ている)。 

大昔の戦乱の時代、二つの国が戦をしていた。片方の食料のある国が、山奥にいる食料のない国を包囲し、食料を使い果たして降伏するのを待っていた。ところが食料のない国の軍隊は、ある植物の根を食べて飢えをしのぎ、馬はこの根のつるの葉を食料にして生き延び、とうとう奇跡的にも食料のある国を打ち負かしてしまった。この植物こそがヤマイモで、「山で出会った」ことから「山遇」と名付けられ、後に「山薬」へと呼ばれるようになった。 

ヤマイモを扱うとき、皮に含まれるサポニンや、切ると出てくる粘液に含まれる植物性アルカリにアレルギーのある人もいるので、手袋をするとよい。うっかり触ってかゆみなどのアレルギーが起きたら、ショウガ汁を付けるか酢の中に浸すか、あるいは軽く火に手をかざせばかゆみは取れる。 

ヤマイモをさいの目切りにし、オニバスの実や、鶏肉の細切り、ネギショウガの千切りと一緒に煮込んだかゆや、ハスの実、ハトムギ、ナツメ、オニバスの実、白インゲン豆、ユリネを黒砂糖で煮込んだかゆは、いずれも脾臓(ひぞう)を丈夫にし、肺の働きを補うにはもってこいの食べ物だ。ヤマイモは、細切りにしてゆで、ゴマやしょうゆ、刻みネギと合わせると、さっぱりした前菜にもなる。ヤマイモとタケノコを一緒に煮込んだスープは実に美味と言える。ヤマイモのすりおろしとナツメを黒ゴマであえれば、砂糖を加えなくてもヘルシーで甘いデザートの一品だ。 

レンコンもハスの実も、株が高く根の深いハスの花から採れる。「夏にはハスの花をめで、秋はその実を採り、冬はレンコンを掘る」という言い習わしがあるように、水面に美しく咲くハスの花はそのあでやかな姿が魅力的なだけでなく、葉から種、根茎まで食用価値がある。 

南宋の詩人楊万里は、レンコンの食感をこう表している。「雪よりふわふわし、絹よりなめらか。軽くつまむだけでほろほろと崩れ、かまずとも溶けるようだ」 

レンコンはまた薄切りにして生で食べることもでき、明代の漢方医学書『本草綱目』は「霊根」と呼んだ。唐代の思想家韓愈も「雪や霜より冷たく蜜より甘い、一切れ食べれば重い病も治す」と賞賛した。中国人はレンコンの食べ方を知っていただけでなく、それが止血や血管を健康に保つ作用があることも分かっていた。 

ハスの実はデザートによく使われる。江蘇省廟港のハス池で見た蜂の巣状のハスの花托は独特で、美しいその姿に見とれてしまった。ふわふわのハスから取り出した実は、新鮮で苦味がなかった。その池の持ち主によると、泥には養分となるヤギのふんを入れ、人が池に浸かって全体をかき混ぜるという。こうすればレンコンもよく育つ。 

レンコンはあえ物としても、骨付き肉と一緒に煮込んでスープにしてもおいしい。「氷砂糖レンコン」も多くの人に愛されるスイーツの一つだ。その作り方は難しくない。まずレンコンの穴にもち米をいっぱいに詰め、リュウガンとナツメと共に水を加えて煮込む。もち米が煮えたら鍋から出し、残った煮汁に氷砂糖とキンモクセイを加え、とろみがつくまで煮た後、つけダレとして使う。 

レンコンは、水に溶かして飲む伝統的な健康食品「藕粉(オウフェン)」(レンコンのでんぷん)の原料でもある。台湾の藕粉は全て台南県の白河鎮で生産されている。ここの気候はレンコンを育てるのに適していて、農民協会(農協に相当)が常に栽培の方法と技術を提供しているため、地元の多くの家族経営の農家では、夏にハスの実を収穫し、冬はレンコンを採っている。 

藕粉の原料となるレンコンは、小さく水分の少ない物を使う。きれいに洗ったらミキサーにかけて細かくし、それをまた水で洗う。流れ出た水とレンコンが混じる白い濁った水を静かに置いて沈殿させ、ろ過した後、さらに沈殿と乾燥を行う。地元では、作業中に出たかすを有機肥料として利用している。こうした作業を経て固まった藕粉を短冊状に切り分け、乾燥するまで天日干しする。 

200のレンコンからできる藕粉はわずか1~3で、その作業の順序は実に複雑だ。藕粉はお湯または水に溶かして飲むが、それ自体はあっさりして味はなく、ナツメやキンモクセイなどと一緒に煮ることが多い。藕粉で冷菓を作ることもできる。まず藕粉をだまができないように冷水で溶かし、湯を加えかゆ状になるまで混ぜ、さらに少量のトウモロコシ粉を混ぜて形を整える。中のあんには緑豆やアズキ、サトイモなどを使い、きめ細かで軟らかく滑らかな口当たりで、とてもおいしい。 

 

『伝家』とは 

台湾の女性作家姚任祥さんが7年の歳月をかけて書き上げた力作。春冬の全4冊からなり、それぞれ六つのコーナーに分かれ、優雅な文体と美しい写真により、中国人の生活様式と伝統文化を季節ごとに描き出している。著者は、自身の家に代々伝わる「家伝」を通して、この本を読んだ人一人一人が自分の家に「家伝」を持つことを願っている。同書は、中国人なら誰もが持っておきたい伝統文化の百科全書であり、外国人が、古今を通じた中国人のライフスタイルとそこに宿る知恵を知る良き入門書である。 

 

著者プロフィール 

姚任祥Yao Renxiang) 

1959年生まれ。著名な京劇女優顧正秋(19282016年)の末娘で、国学の巨匠南懐瑾(19182012年)の弟子。16歳で芸能界にデビュー、初期の学園アイドル歌手の一人。現在、台湾を代表する建築家姚仁喜の妻で、3人の子の母親でもある。宝飾デザイナーで、美をこよなく愛し、20年来、さまざまなジュエリー作品のデザインを手掛けている。また作家としても活躍し、海外に留学する子どもたちが中国の伝統文化を忘れないようにと、『伝家』を出版した。 

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