肉(中)豚肉

2025-04-01 13:52:00

ニワトリ同様、豚も頭から尻尾まで無駄なく使える食材だ。台湾では黒毛種と白毛種が育てられており、黒毛の方が口当たりといい甘味といい明らかに勝っているが、値段も当然ながら白毛より高い。 

豚肉を使った料理でまず思い浮かぶのが煮込みだろう。脂と肉のバランスが良いところを選んで、弱火でじっくり煮込む。有名なのは、東坡肉、梅干菜焼肉(干した古漬けカラシナと豚肉の煮込み)、杭州肉(杭州風肉の蒸し煮)、醤猪肉(豚肉の醤油煮)あたりだろうか。いずれもこっくりと煮詰まった煮汁、ふくよかな香り、とろけるような食感が魅力で、白いご飯との相性は抜群だ。 

かつては豚肉尽くしの「焼方席」という宴席があり、フカヒレやアワビに次ぐ高級料理とされていた。例えば「炸響鈴」は皮付き豚肉を炭火で焼き、さっくりと焼き上がった豚皮をそぎ切りにして油で揚げ、小麦粉で作った皮に包んで食べるというものだ。皮を取ったあとの肉をそぎ切りにしてニンニクの芽と共に豆板醤で炒めたら「回鍋肉」に、そぎ切り肉を炒めずにニンニクと唐辛子油を効かせたタレをかければ「蒜泥白肉」になる。いずれも代表的な四川料理だ。 

豚皮は量が少なく手に入れにくいので、「炸響鈴」の豚皮は次第に杭州市富陽産の極薄湯葉に取って代わっていった。これはたたいて卵黄を混ぜた豚ロースを湯葉で包み、油でさっくりと揚げたものだ。揚げたてに甜麺醤(テンメンジャン)や山椒塩をつけてひと口頬張れば、香りとうま味が一気に広がる。テーブルに運ばれたときのパチパチと油のはじける音とザクザクとした食感が楽しい。 

わが家のお手伝いさんの得意料理は「焼大方」で、これは脂身と肉がきれいに3層になった皮付きバラ肉を甘辛く煮込んだものだ。バラ肉は薄い皮、厚すぎない脂、肉、脂、肉という構成のものが望ましい。これを大きな正方形に切って料理することから、この名が付いたという。おもてなし向きには周囲を干しナマコの紅焼(甘辛煮)で囲んでさらにその外側をチンゲンサイで彩れば良い。 

「紅焼蹄膀」(豚スネの甘辛煮)も、お手伝いさんの得意料理だ。彼女はスネがまるごと入る専門の鍋を持っていて、スネと調味料、香味野菜に少量の水を入れ、弱火でじっくりとたきあげる。醤油、氷砂糖、ネギ、ショウガ以外、何も特別なものを入れていないのに、彼女の手にかかるとスネが美しい絶品料理に変身する。おそらく素材選びがおいしさの秘訣(ひ けつ)なのだろう。 

彼女は市場のあらゆる精肉店と顔なじみで、生産地から飼料まで徹底的に聞く。鼻が利く彼女はまず生臭くないか匂いを嗅ぎ、弾力を指で確かめた上で、赤が鮮やかなものを選ぶ。肉を光に透かし、赤身と脂身の割合もチェックする。上手に煮込んだかたまり肉やスペアリブは包丁がいらないと彼女は言う。実際、彼女が煮た豚肉は大きいまま食卓に出しても箸で崩れるほど柔らかく、これも彼女のテクニックのたまものだ。かたまりのままの肉を揚げるときにはヒレ肉を選び、フォークをまんべんなく刺して繊維を断ち切る。ロースは包丁の背でたたき伸ばさないとおいしく揚がらないと彼女は言う。  

「甜焼白」という四川料理がある。ゆでた豚バラ肉に醤油と黒砂糖を合わせたものを塗ってしっかり色がつくまで揚げ、冷やし固めて薄切りにし、間にこしあんを挟んで碗の底に敷き詰める。そこに味付けしたもち米を詰めて柔らかくなるまで蒸す。最後にピーナッツの粉を振って皿の上で返して碗から抜けば完成だ。肉料理でもあり甘いがくどくない点心でもある、不思議な一品だ。 

世界的に有名な台湾の「担仔麺」と「滷肉飯」の決め手は、肉そぼろに尽きる。担仔麺の肉そぼろは通常豚バラと肩ロースにニンニク、小粒のエシャロット、干しエビ、干し貝柱、五香粉、氷砂糖を加えて煮込んだものだが、滷肉飯には肩ロースだけを使う。他の材料と作り方は担仔麺とほぼ同じだ。 

子どもたちが大好きな肉団子は、ひき肉の赤身と脂身の比率を7対3または8対2にすることが多い。機械でひいた肉は、買って帰ってきてから包丁でさらにたたいて粘り気を出すとよい。そこに片栗粉またはサツマイモの粉を混ぜて団子状に丸め、たたきつけて空気を抜いてから沸騰したお湯に入れ弱火で煮る。 

子どもの頃、私の実家ではコックさんを雇っていた時期があるが、彼が作るすね肉の「肴肉(豚の煮こごり)」は脂身があっさり、肉はしっとりで、小さな正方形に切り分けるとえんじ色の肉と煮こごりの透明な部分のコントラストが素晴らしく、鎮江の黒酢と針生姜を添えた姿がとても美しい前菜だったと母は言う。「風光無限数金焦、更愛京口肉食饒。不膩微酥香味溢、嫣紅嫩凍水晶肴。(景色が限りなく金色に焦がれる頃、都の肉料理がことさら好まれる。しつこくなく口当たり良く香りにあふれる鮮やかな紅の柔らかな煮こごり、それが水晶肴肉だ)」(作者不詳)という詩は、最も的確な描写といえよう。 

水晶肴肉には硝水(硝酸カリウムまたは硝酸ナトリウムを含む溶液)が必須だが、摂りすぎると有害なので、用量をしっかりと守らなければいけない。洗って水気を切った肉に小さな穴をたくさん開け、硝水、塩、花椒を混ぜたものをしっかりともみ込む。それを綿布で包んでつぼに入れ、板を置いてから重しをして3日から5日ほど置いて水分を出す(出た水は取っておいて煮汁に使う)。漬かった肉はきれいに洗って半日ほど水で塩抜きしてから表面についた硝酸をこそげ落とす。再び綿布で包んで鍋に入れて重しをし、漬け汁を加えてしばらく煮る。煮上がったものは鍋から出し、再び重しをかけて冷まし、冷えたものを切って皿に盛りつければようやく完成だ。非常に手間がかかり技術もいるが、そのぶん美しく味も最高だ。ただし化学物質を使うので、食べすぎにはくれぐれも注意だ。  

豚は内臓、足、尾、爪先の腱なども用途が多く、おいしい料理法が数多くある。レバーのスープにごま油と生姜の千切りを加えたものは、台湾ではごくポピュラーなストリートフードで、麺を加えたものも人気が高い。産後に腎臓の機能を補うためにマメ(豚の腎臓)を食べる女性も多い。細かく格子状に包丁を入れ、ごま油と生姜の千切りで炒めたりスープにしたりしたものに滋養効果があるとされている。血のスープと猪血(豚の血ともち米を合わせた餅)は、台湾でとても人気だ。豚の内臓と血の加工品は、重慶の麻辣火鍋でもよく使われる。 

「滷豬脚」には、骨が小さく赤身が多い若い豚の前足を使う。調味液で煮込み、冷やしてから食べやすい大きさに切ると、脂も少なくもちもちとした食感が楽しめる。尻尾を使った薬膳の「豬尾杜仲」は、腰骨に良いとされている。前述の爪先の腱は透明な薄黄色で「虎掌」とも呼ばれ、ナマコと合わせると江浙(江蘇省と浙江省)料理の「虎掌烏參」になる。「虎掌」は大根と一緒に煮込んで熱々を食べると、体の芯から温まる。 

豚足の煮凝りは、豚足と豚皮を煮崩れるまで煮込んでから冷やし固めたものだ。豚足や豚皮に含まれるゼラチン質の作用で、流した型の形にそのまま固まる。 

豚皮はゼラチン質が豊富で、豚一頭当たりの皮約4~5から、約200のコラーゲンが取れる。豚皮100当たりのタンパク質量は25で、肉部分の25倍と非常に豊富だ。逆に脂肪は3未満で、肉部分の半分にすぎない。コラーゲンは肌の保水保湿機能を高める効果があるので美容に不可欠とされ、需要が高まる一方だ。 

 

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