肉(下)と魚

2025-04-17 15:19:00

 

牛肉の食べ方として一番高級なのはやはりステーキだろう。最も柔らかいのはフィレで、サーロインの内側にある。サーロインは腰椎に接する腰の部分で、フィレに比べると肉のしっかりとした食感が楽しめる。肩ロースとサーロインの間にあるリブロースはサシが入りやすいため脂が多めで、かむとじわっとにじみ出る脂のおいしさが魅力となっている。 

その他の部位も、例えば筋が多めのばら肉はあっさりと湯炊きにするか紅焼(醤油煮)に、肩ロースは薄切りにして火鍋にといった具合に、それぞれに適した調理法がある。肩肉はみっちりした食感で、ゼラチン質が多いスネは長時間煮込むか滷味(香辛料入り煮込み)に向いている。脂が少ない赤身のモモやランプは、細切りや薄切りにして炒め物にすることが多い。スジは紅焼に向いていて、長く煮込むほどおいしくなる。関節が16個あるテールはゼラチン質が豊富で、スープや紅焼に向いている。 

わが家の料理上手なお手伝いさんは、「牛肉は高温で火を入れるよりも低温調理がいい」と言う。最近すっかり真空低温調理にはまっている夫の仁喜は、加熱に40時間もかけている。低温でじっくり加熱すると硬い組織がすっかり壊れるので、とろけるような食感に生まれ変わる。 

台湾地区ではビーフジャーキーが大人気で、プレーン、五香、麻辣などさまざまなフレーバーがある。牛肉団子は子どもたちの大好物だ。米国に留学した台湾の人が初めての自炊で作るのは牛肉を使ったチンジャオロースと言われているが、牛肉をタマネギとニンジンで煮込んだシチューやビーフカレーも、鍋いっぱいに作れば1週間は料理をしなくてもよいので忙しい学生向けメニューだ。 

台湾では牛肉を食べない人も多い。牛はかつて田畑を耕す家族同然の存在だったため、豚肉ほど常食していなかったからだ。だから牛の内臓も豚ほど人気はないが、最近はゆでて薄切りにした牛の内臓をトウガラシソースであえた四川名菜の「夫妻肺片」が、人気を呼び始めている。この料理は、成都のある夫婦が食肉処理場で捨てられていた牛の内臓を使って作ったのが始まりと言われている。ゆでたハツ、タン、センマイ、肉などをごく薄く切って麻辣味の調味料であえたもので、料理名の肺は使わない。最初は籠を下げて細々と売り歩いていた夫婦は、商売が繁盛するにつれて屋台を持ち、ついには店を構えるまでになったという。作り方は、よく洗った肉や内臓をハッカク、サンナ、ウイキョウ、ソウカ、ケイヒ、チョウジなどの中薬や香辛料で香り付けをした調味料で煮込み、冷まして薄切りにしたら皿に盛る。煮汁を回しかけ、トウガラシ油、花椒粉、コショウ、塩、すりごま、ピーナッツの粉、中国セロリのみじん切りを乗せて出来上がり。食卓で調味料とよくよくあえてからいただく。 

山羊 

後漢の文字学者許慎が編さんした字書『説文解字』によると、「美」という漢字は「羊」と「大」に分けることで、「羊大なるは美なり」と解釈できるという。食文化研究家の朱振藩氏によると、北宋の文豪蘇東坡の名前を冠した「東坡肉(ドンポーロウ)」は、左遷され生活に困窮する蘇東坡が貴族の食べ物であった羊に憧れ、それに匹敵する料理をという創意工夫から誕生したと言われている。 

台湾の冬の定番「羊肉爐」は、スタミナたっぷりの鍋料理だ。これはヤギ肉(台湾の伝統料理で羊はヤギを指す)をニンジン、ダイコン、凍豆腐、黄ニラ、ヤマイモ、ハクサイと共に煮込んだもので、食べると体の芯から温まる。冷え性や貧血の人にはぴったりだが、風邪の最中や炎症や発熱があるときには避けたほうがよい。「羊肉」(羊のしゃぶしゃぶ)は鍋料理の代表格だが、去勢した羊を使うため、羊独特の臭みがない。羊肉の臭みが気になるときは、赤ワインで煮るのも効果的だ。 

 

台湾は四方が海のため、新鮮な魚介類が豊富にそろう。日頃食べられている魚だけでも200種類はあるそうなので、魚市場を歩けばまるで海洋生物の授業を受けているような気分になれるだろう。 

台湾の漁師は、魚の内臓のおいしさをよく知っている。例えばボラ。ヘソは卵巣で作るカラスミよりも珍重されるし、豆腐のような白子の醤油煮は、とろける食感がたまらない。台湾でポピュラーなクロマグロは成長するまで8年もかかるので、漁獲後は貴重な肉の鮮度を損なわないようすぐに内臓を取り出し、お腹に氷を詰めて保存する。その時に出る白子はめったに市場には出回らない。漁師だけが知る究極の美味だ。 

クロマグロの中でも最も価値があるのは、眼窩、下顎、頭骨の下の肉だ。市場ではいつも品切れなので店主に聞いてみると、高級レストランが全部持っていってしまうという。脂が乗った腹身は、可食部のわずか8分の1という希少部位だ。 

魚介の主な料理法としては、清蒸、紅焼、グリル、甘酢、豆瓣(ピリ辛の揚げ煮)、刺し身などが挙げられる。台湾式の清蒸は、ネギ、ショウガ、ニンニク、破布子(スズメイヌジシャ)などで味や風味付けをすることが多いが、蒸しタラには豆酥(揚げたおからを醤油とごま油で味付けしたもの)が付き物だ。食感がパサつく魚は、網脂(豚の内臓を覆う網状の脂)を敷いた上で蒸すとしっとりと仕上がる。 

魚の蒸し時間は厚みで決まる。清蒸(中国式の蒸し魚)は尾頭付きの魚を細長い皿に置き、たたいたネギと薄切りショウガを乗せたら酒を振りかけ、湯気が上がった蒸し器で八分通り蒸す。蒸し器から取り出して香味野菜と水分を捨て、改めてみじん切りのネギと香菜(パクチー)をたっぷり乗せて煙が出るまで熱した油を回しかけ、最後に醤油と砂糖を混ぜたタレをかけたら出来上がりだ。 

私の母が作る魚の頭の土鍋煮は、淡水魚のハクレンの頭を使う。まずは約170度の油できつね色になるまで揚げて水分を飛ばすのだが、ハクレンの頭は大きいので、両面をきれいに揚げるにはコツがいるし、なにより大鍋がないと揚げられない。薄切り肉、タケノコの薄切り、ネギを炒めて酒と醤油で味を付けて土鍋に入れ、その上に揚げた魚の頭を置いて湯をさし、沸騰したら弱火にして1時間ほど煮込む。仕上げにコショウとサンショウを加え、少量の酒を垂らす。テーブルに出す直前に斜め切りのニンニクの葉、豆腐、粉皮(サツマイモの粉で作った幅広の春雨)を加えれば出来上がりだ。 

市販の魚団子にはホウ砂が入っていることが多いので、カジキやサメを使った自家製がおすすめだ。まず、魚肉をミキサーですり身にするが、タンパク質の変質を抑えるために氷を入れると良い。次に塩、コショウ、片栗粉かコーンスターチを加えてよくたたいて粘り気を出す。団子に丸めたら沸騰した湯でゆで、冷水に取って10分ほど冷やす。そのままでもおいしいが、すり身に他のものを混ぜてもおいしい。例えば冷凍した肉あんを芯に包めば福州風魚団子になるし、すり身を型に入れて蒸して油できつね色に揚げれば、台湾風さつま揚げの「魚片」になる。 

低コレステロール高タンパクの魚は、動物性タンパク質の中で最もヘルシーとされている。他の肉類と比べて身体への負担が少ないし、必要な栄養素が充分に含まれている安心食材だ。 

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