イノベーションを支える教育

2026-07-27 15:59:00

導体は、スマートフォンや自動車から、最先端のAIシステムやデータセンターに至るまで、あらゆる電子機器を動かすために必須の部品であり、現代の「産業の米」と呼ばれる。 

今年5月25日に、電気電子情報工学などの分野における世界最大の技術系専門家組織IEEE(正式名称は Institute of Electrical and Electronics Engineers)が上海で開催した学会において、中国を代表するハイテク民営企業であるファーウェイ(華為)の半導体事業部を率いる何庭波氏が基調講演を行い、半導体さらには電子システム全体の開発の新たな指針として、回路線幅などの幾何学的な尺度ではなく情報を処理するのに要する時間を採用する「τ(タウ)の法則」を提唱した。「τ」は、物理学で時間定数などを表すギリシャ文字である。

 

半導体の開発は、米国を代表する半導体製造企業のインテル(Intel)の共同創業者の一人であるゴードンムーアが、1965年に、最先端のマイクロチップに搭載可能な素子数が今後10年間、およそ毎年2倍になるだろうという、後に「ムーアの法則」と呼ばれるようになった予測に基づいて、半導体の微細化が追求され、法則の通りに素子数は増えていった。この「法則」は75年からは「2年ごとに2倍になる」と修正されたが、半導体開発は微細化を求めて行われ、新たな法則の通りに素子数は増えた。 

しかし、半導体の微細化が進み、回路線幅が10に達した頃から、「ムーアの法則」は限界に達してきた。微細化を進めるほど半導体の設計費用も製造費用も莫大なものとなるのに対して、半導体の性能はそれに見合うほどには向上しなくなった。その上、電子を含む原子の大きさが約0であるため、回路線幅が10未満となると、量子トンネル効果などが生じることで電子の流れを制御するのが次第に困難になる「量子力学的限界」が明確に意識されるようになってきた。 

そのため、10未満の回路線幅は、先進的なイメージ定着を狙ったマーケティング用語にすぎない。「7」や「5」といった指標は、2018年頃から回路線幅の実寸法と乖離するようになってきた。実は半導体回路のどこを測定するかについて国際基準はなく、TSMCとサムスンが量産中の「3」も売り手側の「言い値」にすぎない。実際、インテルの10はTSMCの7当たりに相当し、TSMCの7はサムスンの5くらいに相当し、TSMCの5と3は、サムスンの4と2当たりに相当する。 

こうして「ムーアの法則」が限界に達しつつあることが明らかになってきている今、ファーウェイが新たな視点を電子技術の専門家の国際会議で提案したことは、専門家たちの注目を集めた。 

「ムーアの法則」の下では、半導体の2次元的な回路の物理的な短縮が半導体開発の主な目的である。それに対して、「タウの法則」の下では、3次元的な回路の情報処理時間の短縮が主な目的である。前者が露光装置など特定の技術に依存するのに対し、後者は総合的な技術を要する。半導体の構造の3次元化は、半導体製造企業のそれぞれが構想していたが、ファーウェイは自社の10年計画を前倒しして6年で実現した。 

これは単一のチップのブレークスルーではなく、産業のルールの転換である。中国が初めて世界の半導体技術の方向を定義する能力を獲得したのである。ファーウェイは「タウの法則」を提案することで、半導体の競争の舞台を「回路線幅のナノメートル数」から、システムエネルギー効率+信号遅延+フルスタックアーキテクチャという新たな次元へと引き上げた。世界各国の半導体企業は、ファーウェイに追随するか否かという戦略的な岐路に立たされている。「回路線幅の短縮」に固執し続けるか、それとも、「時間の微細化」へ転換するか、6~12カ月以内に戦略的な対応を示さなければならないだろう。 

これほど衝撃的な「タウの法則」を提唱し、実行できるのは、半導体の設計から大量生産に至るまでを一国内でカバーできる厚みのある技術力が中国にあるからである。その源泉は、中国に優秀な技術者が膨大に存在していることである。 

中国の教育部によると、分野に限らず中国の高等教育機関を23年に卒業した学生の数は1158万人に達した。一方で、日本では、22年3月に大学を卒業した学生の数が59万139人である。中国は詳細な大学卒業者数を公表していないが、それでも日本との差は依然として大きい。 

集積回路とその関連分野に限ると、中国の高等教育機関の卒業者の数は20万人以上ある。日本の理学系卒業生1万7786人と工学系卒業生8万7923人との合計10万5709人の2倍以上である。また、米国の電子工学系卒業生2万5000人の9倍以上である。 

中国は技術者の人数が多いだけでなく、学力が高いと考えられる。中国も日本も米国も学校制度は類似しており、小学校中学校高等学校大学大学院の5段階の構成である。 

しかし、授業時間は大きく違い、中国は日米両国を大きく凌駕りょうがしている。知人の中国人によると、その子どもが通った中学校は始業が午前7時30分で、終業が午後5時30分であり、高等学校は始業が午前7時30分で、終業(夜の自習を含む)が午後9時である(当然、地域や学校によって異なる)。日本でも1960年代から70年代前半の高度経済成長期に、地方のごく限られた進学校で、同じような授業体制を取っていたところがあったものの、現在では全くあり得ない。 

中国では、中学校を卒業前に全国統一学力試験を全員が受験し、成績の上位約8割が普通高等学校へ進学する。普通高等学校を卒業前にも全国統一学力試験(普通高等学校招生全国統一考試、「高考」と略称される)をほぼ全員が受験し、その成績に応じて進学先の大学が振り当てられる。日本でも大学進学のための類似の統一試験があるが、その受験を必要としない大学は少なくない。また、大学が統一試験の受験を必要としない合格枠を特別に設けていることもある。 

高考における数学の問題は、出題範囲が日本では理学部や工学部で出題される入試問題を超える上に、難易度は日本で最高峰とされる東京大学の理系コースの入試問題をも超えるとも言われる。高考を受験する高校生の全員が、こうした高い水準の数学の問題を解くことが求められるから、中国の数学教育の水準は日米をはるかに凌駕していることになる。実際、高校生などを対象とする国際数学オリンピックにおいて、中国は世界最多の25回も優勝している。 

徳川時代(16031868年)の日本は、二次方程式の解の公式が庶民の間ですら常識であった、世界に冠たる数学強国であった。高い数学的知識が高い識字率と相まって日本がアジアで最初に近代化することを支えた。世界に冠たる数学大国となった中国が半導体などの最先端技術分野でも目覚ましい成果を見せるのは文化的に当然だと思われる。 

人民中国インターネット版

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