野生動物の食用、全面禁止へ
2020-06-23 17:06:01
鮑栄振=文
美食家? それとも悪食?
日本で最も親しまれている中華料理と言えば、私の見たところ、広東料理ではないだろうか。広東料理の最大の特徴は、その食材の豊富さだ。犬はもちろん、猫、ヘビ、猿、タヌキ、ネズミ、トカゲ、虫などバラエティーに富んだ食材を使う。広州市内の市場に行けば、肉一つとっても、おなじみの牛・豚・鶏・羊からハト・カエル・ロバ・犬・猫といった日本人なら食用としてはいささか抵抗を感じるような生き物まで並んでいる。
「広東人は四つ足なら机と椅子以外、飛ぶものは飛行機以外、なんでも食べる!」という例え話を聞いたことのある人もいるだろう。もちろんこれは冗談だが、こう評されるほど広東人は食欲旺盛で、野生動物を含めたさまざまな食材を口にする。
実のところ、中国で野生動物を食べるのは広東人だけではない。他の地域にも、少ないとはいえ、そういった人々は確かにいる。そうした地域の市場では、一般的な動物の肉や野菜、魚介類のほかに、やはり野生動物が並んでいるのを目にする。
今回の新型コロナウイルスの感染が拡大し始めると、中国の衛生当局と専門家らは調査を行い、新型コロナウイルスは野生動物から人に感染した可能性が高いと指摘した。このため中国社会では、野生動物を食べることは「時代遅れの悪習」という論調が強まっている。
法の抜け穴突く商業利用
「明天和意外,你永遠不知道哪个先来」という言葉が中国で流行して久しい。日本語に訳せば、「明日と不幸、どちらが先にやってくるかは分からない」といったところで、今を精一杯生きることの大切さを説いている。
また日本でも、戦前の物理学者で随筆家だった寺田寅彦が言ったと伝えられる、「天災は忘れた頃にやって来る」という警句がある。果たしてこれらの言葉の言うとおり、重症急性呼吸器症候群(SARS)の大流行から17年、人々がその苦痛を忘れかけた頃、突如として今回の新型コロナウイルスの世界的なまん延となった。
中国でSARSが大流行した2003年、この時すでに一部の人々は、当時の「野生動物保護法」を改正して、野生動物を食べることを全面的に禁止すべきだと主張していた。流行の終息後、関係当局は野生動物の違法取引を禁じる法令を制定したが、結局、野生動物の取引を根絶することはできなかった。SARSの苦い記憶からしっかりと教訓をくみ取る(1)ことができず、立法・行政のどちらにも抜け穴があったためだ。
中国の「野生動物保護法」は1988年に制定され、2018年に改正された。同法は、希少野生動物、絶滅の危機にひんしている野生動物や生態的・科学的・社会的に価値の高い野生動物を保護対象としている。しかし、コウモリやヘビ、ネズミなど、希少でもなければ絶滅危惧種(2)でもない野生動物は、同法による保護の対象外だ。結果として、これらが「食用野生動物」の主な供給源となり、狩猟や捕獲、取引や加工の川上・川下産業まで生み出すことになったと言えるだろう。
また1991年に制定された野生動物の飼育や繁殖の許可・管理に関する法律には、国の重点保護対象である陸上生活の野生動物であっても、経済的な目的のために飼育・繁殖を認める旨の規定が設けられた。このため、希少動植物を保護すべきとする憲法とも衝突。逆にこの規定によって、「野生動物保護法」が定める科学研究や展示のための飼育・繁殖という「野生動物の合理的な利用」の範囲が拡大され、野生動物の取引にお墨付きを与えてしまった。おかげで、上記の規定を守って野生動物を飼育・繁殖した上で販売する業者もいたが、捕獲した野生動物を飼育・繁殖したものと偽って販売する業者も現れるようになった。結果として、この91年の規定は裏目に出た(3)。
動き出した全面食用禁止
今回の新型コロナウイルスによる感染症の大流行によって、中国経済は大きな打撃を受け、国民の日常生活にも大きな支障が出た。大きな被害を受けた今だからこそ、これまでの中国の野生動物保護に関する法令や公共政策を見直さなければならない。
中国政府はすでに、具体的な行動をスタートさせている。習近平国家主席は、今年2月に開かれた中央政治局常務委員会の会議で、「野生動物を食べることは非常に危険な行為であると認識している」とした上で、「野生動物の食産業は規模が大きく、公衆衛生リスクの温床となっている。今後は対策を打ち出していく」と語った。
今年2月24日に開かれた第13期全国人民代表大会常務委員会の第16回会議では、「野生動物不法取引の全面禁止、野生動物食の悪習の排除、人民の生命・健康の安全の適切な保障に関する全国人民代表大会常務委員会の決定」(以下、「決定」という)が採択された。この「決定」は、「家畜・家禽(4)遺伝資源リスト未掲載の陸上生活の野生動物は一律食用禁止」という基本原則を打ち出した。また同時に、「野生動物保護法」の規定を踏まえた上で、国の保護対象である希少野生動物、絶滅危惧種の野生動物、生態的・科学的・社会的価値の高い野生動物およびその他の野生動物について、人工的に飼育・繁殖させられたものも含めて、食用を一律に禁止することを明確化した。
また「決定」では、関連する違法行為に対して、加重処罰を行うとしている。加重処罰とは、犯罪行為から重い結果が生じた時に通常より重い処罰を与えることだ。刑事事件を例にとれば、ある犯罪について通常は「5年以下の懲役」が言い渡されるところ、結果が重大ならば「懲役5~10年」が言い渡されるように、より一段と厳しい処罰が課せられる。
ただし、野生動物の商業的利用については、「決定」でも従来の方針が踏襲され、引き続き利用することができるとされた。野生動物は食用以外にも、皮革・獣毛製品の製造や標本の作成、アニマルショーでの利用など、数多くの商業的な用途がある。「決定」によって食用が全面禁止されたとはいえ、商業的利用が全面禁止されてはいない。このため、今後も今回と同様の事態が発生する恐れはゼロではない。
全人代の常務委員会としては、「野生動物保護法」の全面改正を早急に完了させることが難しいため、まず「決定」を発令することで、法律レベルでの野生動物の食用の全面禁止に向けた布石を打った(5)ものと思われる。今後、立法機関によって、「野生動物保護法」および「動物防疫法」の改正、「生物安全法」草案の審議および修正、「伝染病予防治療法」などの法令の改正、国家公衆衛生応急管理システムに関連する法制度の整備などが行われると思うので、引き続き注視していきたい。
(1)吸取教训 教訓をくみ取る
(2)濒危物种 絶滅危惧種
(3)事与愿违 裏目に出る
(4)畜禽 家畜・家禽
(5)打基础 布石を打つ
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