法曹界のインフルエンサー

2021-07-02 11:07:26

鮑栄振=文

抖音(ティックトック)や快手(クアイショウ)といった人気ショート動画共有アプリ(1)で、「弁護士」をキーワードに検索をしてみると、たくさんヒットする。そのほとんどが、身近な疑問・質問について弁護士が法律の視点から解説する内容だ。どれも市民の日常生活と密接な関係のあるテーマで、入門級の法律知識で解説し、説明も分かりやすい。

例えば、「婚約の際、結納金や結納品を相手側に求めるのは合法か」「夫が給料を渡さないことを理由に妻は離婚できるか」「新型コロナの影響を理由に賃料の減免を求められるか」といった具合だ。また、ちょっと変わった疑問では、「死刑執行にかかる費用は」とか、「『一夜の過ち』は違法行為か」といった男女関係にまつわる疑問が取り上げられることもある。こういった内容は爆発的な人気となることもあり、フォロワー数も増えやすい。こうした発信者がインフルエンサーだ。

 

なぜインフルエンサーに

昨年5月、ある人がショート動画分析アプリで「弁護士」「法律」をキーワードに検索したところ、該当したティックトックのアカウントはそれぞれ8503件、7044件だったという。中国のおととしの弁護士登録者数は約42万人なので、弁護士100人に少なくとも3人はティックトックのアカウントを開設していることになる。

そんなティックトックで最もフォロワーが多い「インフルエンサー弁護士」と各種メディアで紹介されているのが、女性弁護士の劉佳さんだ。ある調査では、いわゆる「顔面偏差値」(2)が高く、頻繁にライブ配信を行っている女性弁護士ほどフォロワー数が多く、コメント投稿やフォロワーとの交流も活発だそうだ。そのためか、劉弁護士のプロフィール欄によると、個人投資家による損害賠償や民事・商事案件を主に取り扱う彼女は、今年4月までに既に491万5000人ものフォロワーを有している。

だが、実は劉弁護士を大きく上回り、1000万人近くのフォロワーを持つ超インフルエンサーの弁護士がいる。民事訴訟案件を取り扱う李叔凡弁護士だ。

李弁護士は2018年からティックトックで動画投稿を始めたが、当初はそうした活動にそれほど力を入れていなかったという。ところが、フォロワー数やフォロワーからの問い合わせが増えるにつれ、ティックトックが重要な顧客獲得の手段となることに気付いた。そこで李弁護士は、昨年5月からティックトックのユーザー向けに特化した内容の動画制作を開始。検索語のトレンドや、フォロワーから寄せられた疑問などを動画で取り上げるようになった。そうした努力の結果、7万人だったフォロワーは半年間で969万人に激増。毎日数百件もの問い合わせが寄せられるようになり、収入も大きく増えたという。

 

困難なSNSでの収益化

以上は、SNS(会員制のウェブ交流サービス)上で影響力を持つインフルエンサーとして成功した弁護士の話である。だがSNS全体を見渡せば、弁護士がインフルエンサーになるのは難しく、インフルエンサーとしての活動を収益化することも困難だ。これは、「いつも需要があるわけではなく内容も複雑」という法律サービスの特性と大いに関係がある。

専門家も、他の職業と比べ、弁護士がショート動画の分野でインフルエンサーとして成功することは難しいと指摘する。その理由として、まず弁護士業のハードルが高いことがある。成功のためには、セールスポイントとなる自身の専門分野の他に、ショート動画制作やライブ配信、収益化という異なる分野に精通していなければならない。しかし弁護士の場合、専門の弁護士業が非常に複雑なものであるためか、これらいずれにも精通している人は非常に少ない。

また、収益化の方法が少ないことも理由の一つだ。他の業種であれば、ネット投げ銭(3)や商品販売、広告、イベント出演などさまざまな方法で収益が見込めるが、弁護士の場合は難しい。なぜなら、弁護士の提供する法律サービスは無形のものであり、一般的に複数の人からなるチームによって長期間にわたり提供されるからだ。

 

ネット有名人の刑法学者

弁護士ではないが、法律分野のインフルエンサーと言えば、羅翔氏の名を挙げないわけにはいかないだろう。

中国政法大学教授の羅翔氏は、以前から名教師として学生に高い人気を誇っていたという。昨年3月にビリビリ動画で動画投稿を始めると、そのユーモアあふれる語り口でたちまち大人気となり、1年足らずの間に1000万人以上のフォロワーを獲得。動画の総再生回数は2億8000万回を超えるという。

羅氏が爆発的な人気を博したのは決して偶然ではない。羅氏の法律に対する考え方がネットユーザーの心をつかんだからだ。「法律は実社会から乖離してはならない。法律の根底にあるのは『人間本位』の考え方であり、人々がより良い生活を送れるようにするためのものだ。もし、いつか法律が人類の発展を阻むようなことがあれば、その時はためらわず法律を捨て去るべきだ」と羅氏は言う。

羅氏はこの考え方を、有名な「肥だめ事件」を例に説明した。この事件は正当防衛か否かが焦点となった事件だ。

今から30年以上も前のことだ。ある冬の日、一人の女性が自転車で帰宅途中、山中で暴漢に襲われた。女性は、腕力ではかなわないし、人里離れた山中で助けを呼んでも無駄だと素早く判断。機転を利かせ、ひとまず従うふりをして暴漢を近くの「平らな場所」――凍った肥だめのそばまで連れて行った。

女性が男に服を脱ぐよう促すと、男は喜んで脱ぎ始めた。まさに脱いだ服が男の顔に掛かったその時、女性は一瞬の隙を衝いて男を蹴り飛ばした。すると男は氷が割れた肥だめに見事に落ちたのだった。はい上がろうと伸ばした男の手を女性が踏みつけると、男は再び肥だめに落ちる。男はもう一度手を伸ばしたが、やはり踏みつけられ、また落ちる。これを3回繰り返すと、ついに暴漢は力尽き肥だめに沈んでいった。

当時、この「肥だめ事件」は多くの議論を巻き起こした。法学者の多くは、女性が暴漢の手を踏みつけたことについて、1回目は正当防衛だが、2回目と3回目は急迫不正の侵害が終了した後だから過剰防衛(4)との見解を示した。

しかし羅氏は、このような杓子定規の意見を痛烈に批判した。

「正当防衛の要件の『侵害の排除』や『一般人の基準』が何だ。この女性の身になって考えてみてください。もし皆さんだったら、何回踏みつけますか」。羅氏は、「私なら4回踏みつけ、頭にレンガをたたきつけてやるね」と声を上げ、多くの人から支持された。

この事件には典型的な「理性的判断」のわなが潜んでいる。この女性の行為を「過剰防衛」だと考えるのは、人はいかなる時でも理性を保ち、反撃がここまでなら正当防衛で、ここからは過剰防衛と正確に判断すべき――と考えるからだ。

だが、これが過剰な要求であることは明らかだ。危機に直面した被害者が、何回までなら反撃してよいか考える余裕などない。人間はロボットではないし、後知恵(5)は何とでも言える。

閑話休題。羅氏のように、興味を引く法律問題を分かりやすく解説する法律動画は、今後もますます多くの人にフォローされるだろう。同時に、動画制作や広告、イベント出演もこなす多才な「法曹インフルエンサー」もどんどん出て来るかもしれない。

 

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