中国の輸出守る「牙」

2022-10-14 17:00:42

鮑栄振=文 

先日、歯の治療を受けていた時、ふと「歯と牙は何が違うのだろうか」と思った。 

現代の中国語では、「歯」と「牙」に大きな意味の違いはない。ともに日本語でいう「歯」を指す。ただし、「牙」はより口語的で、日常的にはこちらをよく使う。遠い昔、両者にははっきりとした違いがあった。「牙」は人間や動物が持つ、食物にかみついたり引き裂いたりするための鋭い歯、すなわち犬歯を指した。一方の「歯」は、食物をかみ砕いたりすりつぶしたりするための臼歯を指した。軍隊に例えれば、「牙」は敵に真っ先に攻撃を仕掛ける先兵で、「歯」はその後に環境を整える工兵といったところか。 

そんなことをつらつら考えていたら、中国の「輸出管理法」の起草時(2017年)、ある専門家が「中国の現行の輸出管理に関する法令には『牙』が欠けている」と語ったことを思い出した。この専門家は、輸出規制をするための強制力や抑止力の暗喩として、「牙」という言葉を使ったのだ。 

しかし、「牙」がないというのはすでに過去のことだ。輸出規制のためのいくつかの重要な制度を新設した「輸出管理法」が、2020年12月1日から施行されている。「牙」を得た「輸出管理法」は、中国に進出している外資系企業や、中国と貿易関係がある幅広い業種の企業の関係者らから大きな注目を浴びた。同時に、一部からは懸念も出ている。 

  

「輸出管理法」の二つの「牙」 

「輸出管理法」が持つ輸出規制のための「牙」とは、再輸出規制とみなし輸出規制のことだ。 

再輸出とは、中国で生産・加工し、外国から輸入したものを組み込んだ製品を第三国に再度輸出することだ。「輸出管理法」では、こうした製品などが再輸出される場合、その製品がもともと中国からの直接輸出が規制されているものであれば、再輸出の際にも同等の規制を受ける――すなわち再輸出には中国政府の許可が必要と定めている。これが再輸出規制だ。 

かつて、中国で再輸出規制が導入された場合の影響について、ある日本の専門家が以下のような見解を示したことがある。「再輸出規制が導入されている米国の状況を見れば(その影響が)分かる。米国の規制では、米国から輸入した製品そのもの、または米国から輸入した部品などを一定の割合以上使った製品などを輸入国が再輸出する場合、米国政府の許可が必要となっている。このため、米国製品の使用はリスクとなり、海外の産業界では、その使用を回避する大きな要因となっている。従って、中国で再輸出規制が導入された場合も同様の問題が生じるであろう」 

結果として、これはやや考え過ぎだったと言わざるを得ない。「輸出管理法」では非常に広い範囲の貨物・技術・役務を管理品目と定めているが、注意すべきは、全ての管理品目が直ちに規制の対象となるわけではない、ということだ。中国ではリストによる規制を行っており、管理品目のうち規制品目リストに掲載されている品目のみが規制対象となる。従って、そういう品目を輸出または再輸出する場合に許可が必要となるのだ。 

一方、みなし輸出とは、中国の公民や法人などから中国国内の外国の組織および個人に輸出管理規制品目を提供することを指す。例えば、中国において就業・留学している外国人または臨時に訪中した外国人に対し、関連設備や技術資料の調査・閲覧を許可することや、外国人と口頭でのコミュニケーションを許可することなどだ。 

これについても、日本の専門家から、みなし輸出に対する規制が厳しく行われると、実務においてさまざまな支障が生じる可能性があるのではないか、との疑問が呈された。例えば、外国の本社からの出向者を含め、中国で外国人従業員を交えた企業内の日常的な技術的打ち合わせ、データベースへのアクセスなどは、許可がないとできなくなってしまうのではないか、という懸念である。 

だが、これも誤解がある。そもそも全てのみなし輸出が規制の対象となるわけではない。実際に規制対象となるのは、やはり規制品目リストに掲載されている品目に限られる。 

以上を整理すると、輸出入業者が「輸出管理法」違反で処罰されるのを避けるためには、リスト規制についてしっかりと理解することが重要だ。 

  

日本も採用するリスト規制 

日本もリスト規制を採用している国の一つであり、「輸出貿易管理令」別表などが定めるものについては、輸出する際は原則として経済産業大臣の許可を必要としている。このため、日系の輸出入業者はリスト規制についてある程度理解しているだろう。 

以前、輸出入を行うある日系企業から、「当社の事業が中国の輸出管理規則による規制の対象となるか。規制への対応について何かアドバイスはないか」という問い合わせを受けたことがある。そこで筆者は、▽(民生と軍事の用途がある)両用品目および技術輸出入許可証管理リスト▽核輸出管制リスト▽軍需品輸出管理リスト▽輸出禁止・輸出制限技術リストなど現行の規制品目リストを提供し、これを参考に取り扱っている貨物が輸出の許可が必要かどうかセルフチェックを行うよう勧めた。 

  

輸出規制品を申告せず処罰 

「輸出管理法」が施行された20年12月から今年6月下旬までの間、「輸出管理法」違反により行政処罰が下された事例は7件ある。そのうちの代表的な2件を紹介する。 

一つ目は、天津新港の税関が昨年9月、広西チワン(壮)族自治区の貿易会社に行政処罰を下した事例である。この会社は一般貿易の名目で、黒鉛化石油コークス200㌧の輸出申告を行ったが、通関時の検査によって実際の貨物は人造黒鉛であることが判明した。人造黒鉛は規制品目リストに掲載されている両用品目で、輸出に際しては両用品目および技術輸出許可証が必要だったが、同社はこの許可証を取得していなかった。この貨物は約94万元の価値があり、天津新港の税関は「輸出管理法」違反で、この会社に11万元の過料を科した。 

二つ目も、昨年12月に起きた同じ天津新港税関による摘発事例だ。河北省石家荘市のある貿易会社が一般貿易の名目で、リュックサックや男性用ベスト、工具セット計490点の輸出申告を行った。ところが、通関時の検査によって、これらの貨物はいずれも迷彩柄で、規制品目リストに掲載されている軍需品目であることが判明した。同社は、軍需品目の輸出に必要な軍需品目輸出許可証を取得せず、一般貨物として輸出しようとしていた。天津新港税関は同社に7万元の過料を科した。 

この2件を含み、今年6月下旬までに公表された処罰事例7件は、全て規制品目リストに掲載されている品目なのに、必要な輸出許可証を取得せずに輸出しようとした事案だ。こうした事実からも、規制品目リストをしっかりと確認し、輸出しようとする貨物を正確に分類した上で、必要な輸出許可証を取得することの重要性が分かる。輸出入事業に携わる業者は、この点でいっそうの注意が必要だ。  

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