ネットショッピングと「エセ稲荷寿司」

2021-11-26 15:45:45

劉徳有=文

 

買い物はネットに切り替えキャッシュレス

便利も便利吾したり顔

 

中国はいつ頃からネットショッピングを始めたのだろうか?

調べてみたら、どうも1998年頃かららしい。2000年に入ってから次第に盛んになり、今では一般家庭にとってネットショッピングは買い物の主な手段の一つになり、当たり前のことのように見なされている。

筆者がネットショッピングを始めたのは3年ほど前の19年からで、どうやら20年も遅れてノコノコと後から付いてきたようなものだ。

言うまでもなく、ネットショッピングには、どうしてもパソコンの使用が先決になる。パソコンを操作できないのでは、話にならぬ。パソコンは、1996年春、筆者が勤務先の中国政府文化部(日本の省に相当)を定年になるとき、自前で1台買って、使い方を若い人に教えてもらった。筆者にとって、パソコンの用途は三つ――一番頻繁に使われるのは原稿づくりで、たまにではあるが、電子メールのやりとりに使い、さらには、過去の長いジャーナリスト生活の影響からか、日々の内外ニュースがいつも気になり、それを追うのもパソコンである。

どこの家庭もそうだが、毎日の生活には買い物が欠かせない。齢を取り足腰が弱る前まで、買い物はスーパー通いで解決していたが、齢を重ねるにつれて外出がおっくうになり、スーパーに電話で注文して配達してもらったりしたのだが、やはり満足のいかない時がある。そこで登場したのが、パソコンを通じてのネットショッピング。初めはなかなか踏み切れず、迷いがあったが、周りの人の勧めもあり、ついに自らこの「難題」に挑むことになった。この道に明るい人に頼んで、まずパソコンにアプリを設定してもらい、使い方を教えてもらった。せっかく教えてもらった操作方法を忘れるといけないので、要点を記録し、自分なりのマニュアルを作って、「座右の銘」のように、パソコンの横に置き、それを見ながら操作した。

最初は、探し当てた商品を恐る恐るクリックし、間違いが無いか何度も何度も確かめて「カート」に入れたものだ。筆者の記憶では、最初に購入したのはメリヤスのような衣類だった。支払いは、銀行預金のキャッシュカードが連動によってパソコンでも使える仕組みになっており、結果的には「キャッシュレス」で、利用者にとって便利といえば便利だが、長い間、現金を使って物を買う習慣が身に付いているせいか、なんとなく不安な感じがしたものだ。

 

有名なネットショッピングサイト「淘宝網」のトップページ(写真・籠川可奈子/人民中国)

ネットショッピングは主に食品を買うのに使うようにしているが、使っているうちに新しい発見をした。何か新大陸でも発見したような気持ちだった。その新しい発見とは日本食を作る材料を見つけたことだ。若いころ日本で新聞記者をした経験を持つ筆者は、家内もそうだが、時たま日本食を食べたくなるときがある。そんなとき、以前はスーパーなどで材料を購入していたが、齢を取ってあまり表へ出なくなってから、食べられなくなり、少々困っていた。それがどうだろう、この問題はネットで解決できるのだ。ネットで調べてみると、品数がかなり多く、「なんでもござれ」ではないが、サンマがある、納豆がある(大粒のも小粒のも)、ポン酢がある、油揚げがある、すし酢がある、ちくわがある、かまぼこがある、ノリもある。これだけあれば、しめたもんだ。

例えばサンマだが、98年の春、国際交流基金のフェローシップに招かれ、家内と二人で東京神楽坂の「緑風公館」にお世話になったとき、生活は自炊だったため、近くのスーパーによく足を運び、3尾200円のサンマを仕入れて夕餉のおかずにした。あのとき食べた焼き立てのサンマの味が懐かしく、今でもときどきネットで購入して食べている。原産地は日本もしくはロシアとのこと、もちろん冷凍である。配達するときは、摂氏5度の保冷箱に入れて運んでくれるので、心配はいらない。

魚介類では、刺身もネットショッピングができるのだが、しかし、鮮度のことを考えると、なかなか踏ん切りがつかず、敬遠して購入したためしがない。というわけで、握り寿司や刺身は諦めているが、油揚げとすし酢が手に入るのだから、「いなり寿司」なら何とかなるだろうと考え、家内が挑戦してみることにした。油揚げは、一応「日本製」となっているが、どうやら広東あたりで生産されているものらしい。購入すると、運送に3日間かかる。「いなり寿司」は家内が日本にいたころ、友人の奥さんから手ほどきを受けたことがあるものの、いざ本番となると、やはり心細い。炊いたご飯にすし酢と炒めたニンジンのみじん切りを混ぜて。団扇で冷まし、ネットで手に入れた油揚げにご飯を詰め込んで、何とか「いなり寿司」らしきものを作り上げたが、これこそ「見よう見まね」というものだろう。うちではこれを「エセ稲荷寿司」と呼んでいる。そこで、和歌(これも「らしきもの」)を一首。

 

手に入れし日本製品油揚げ

妻の真似事「エセ稲荷寿司」

 

ネットショッピングでは、おでんのだしの素も手に入るので、ちくわ以外は、卵やこんにゃく(ときには糸こんにゃく)、大根、昆布などをスーパーで調達して、おでんを作ることもある。このようにして、代わる代わる日本食らしきものを食卓に乗せて生活を楽しんでいるわが家である。

齢九十に及んでネットショッピングしていると知って、周りの人たちは皆びっくりするやら、羨ましがるやら……。

今や世界はすでにネット経済の時代に入り、市民の新しい購買方式として、ネットショッピングが発展し、人々の生活様式まで変えつつある。その中で、中国のネット経済の発展ぶりには目覚ましいものがあると言えよう。2000年当時、中国のネット使用者は890万人しかなかったが、06年には十数倍に伸びた。現在では、約10億人に増え、20年のネットショッピングによる売上高は約11兆8000億元に達した。このようにネットショッピングが急増したのは、消費者にとっていうならば、わざわざ店舗まで足を運んで品物を選ぶ暇とロスが省かれ、現金を紛失したり、だまし取られたりする危険がなくなり、安全性が確保されるからであろう。もちろんリスクが全然ないとは言えず、また衣類や履物などは現場で試せないという欠点もあるが、総じて言えば、広い範囲でお気に入りの品物を選ぶことができるという利点があるからであろう。

もちろん、ネットショッピングの発展には、速達のシステムが完備し、配達員がいなければならない。中国ではいま全国で年間約830億件の小包が配達されているが、配達網は農村部にまで広がっており、年間300億件余りの小包が農村で消化され、5億に上る中国農民がその恩恵を受けているというから驚きである。

 

毎日大量の小包を消費者の手元に届ける配達員(写真・劉徳有氏提供)

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