ちまきの香りが漂う水郷 漢服まとって古鎮を散策
日常に溶け込む伝統文化
漢服愛好家の盛会
嘉興市の嘉善県にある西塘古鎮は、「春秋の水、唐宋の町並み、明清の建造物、現代の市民」とたたえられる悠久の歴史をもつ町だ。同古鎮は江蘇省、浙江省、上海市の境界に位置し、複数の支流を介して運河とつながっている。ここで最も有名な景観は、水辺に沿って築かれた、長さ約1000㍍にも及ぶ廊棚だ。その廊棚の後方には、保存状態の良好な明・清代の古建築群があり、赤いちょうちんがたくさんつるされている。夜になれば、その光りが水面に映ってとても幻想的だ。
11月の西塘古鎮では、まだ川の水は青く、柳は優雅に風になびいていた。水路を進む小舟は花で飾られ、川岸はそれを見物する人々でにぎわっている。舟上では、巻物を携えた「書生」が拱手の礼をして、錦衣に身を包んだ「公子」が扇子を軽く振っている。鳳冠を戴いた「貴妃」は花を摘みとってほほ笑み、「楽師」は抱えている琵琶で顔の半分を隠している。全国各地より集った漢服愛好者が各時代の多彩な漢服を身にまとい、まるで時空を超えたような盛会に参加していた。
有名な作詞家の方文山氏が2013年、西塘で第1回「漢服文化ウイーク」の開催を提唱した。当時、漢服は中国国内において、まだ一部の愛好家たちの間でのみ流行しており、街中で漢服を着ている人がいたら、必然的に周囲の注目を浴びるという状況だった。ところが、西塘で開かれた漢服文化ウイークは、「最も多くの参加者を集めた伝統的な地方の飲酒儀礼イベント」として、世界記録に認定された。その後、毎年10月末から11月初めに西塘で漢服文化ウイークが開催されることによって、漢服文化はより多くの人々の関心を引き付け、一般にも広く認知されるようになった。
世界へ進出する古鎮
「いらっしゃいませ。どうぞ中に入って、ご試着してください。ブラウスとマミアンスカート(馬面裙)の組み合わせが大人気ですよ」。西塘古鎮の漢服体験店に足を踏み入れると、イエメン出身の店主・ナビルさんが、少しなまりのある中国語で、観光客に漢服とそのコーディネートを熱心に薦めていた。
1986年、20歳だったナビルさんは留学のために中国に来た。30年後、妻と共に西塘の漢服文化ウイークに招待されたナビルさんは、漢服を着て古鎮を散策した。その体験が強く印象に残り、彼は西塘で漢服店を開業することにした。
「嘉善県の発展は目覚ましいものがあり、毎日新たな変化が起こっています」。ナビルさんは嘉善県で9年の歳月を過ごし、西塘古鎮の急速な発展と、漢服文化ウイークが毎回成功を収める様子を目の当たりにしてきた。
第1回の参加者数千人から、現在では、韓国、マレーシア、南アフリカなど20以上の国・地域から10万人超まで増え、漢服文化ウイークの影響力は不断に拡大し続けている。漢服愛好家同士が使う呼称を「同袍」という。今では漢服を身にまとった国内外の「同袍」たちが西塘を共に遊覧し、この千年を超える古鎮の日常風景の一部となっている。
普段、ナビルさんの漢服店には外国人も来店する。そのたびに彼は英語やアラビア語で中国の漢服文化を紹介する。
「着替えて『昔の人』になって、中国の伝統衣装を着て現地の民俗行事を体験することは、私たちが西塘に来たら必ずやらなきゃいけないことです」。イタリアから来た留学生の孟月煕さんは、昨年の春節期間中、同級生と一緒にナビルさんの店に来て、好きな漢服を選んできれいにメイクアップし、まるで古代にタイムスリップしたかのような体験をした。
「西塘古鎮を散策していると、住民の方々から『遠慮しないでね』とよく声を掛けられます」と孟さんはうれしそうに話す。龍舞や中国の伝統的な結婚式を見学し、「福龍」のチャイナボタン作りなどを体験した彼女は、「これらの素晴らしい伝統文化は世界に広める価値があります」と強く感じている。
古鎮は、嘉興市の最も特色あるシンボルの一つだ。市域内には、大小合わせて18の古鎮が川沿いに点在している。西塘の漢服文化ウイークのほか、毎年10月中・下旬に桐郷市内で、1300年の歴史を持つ烏鎮を舞台に開催される演劇祭も、世界各国の演劇愛好家の注目を集めている。竹馬に乗った赤い鼻のピエロ、漢服をまとった「パンダマン」、派手な髪型の「ハートの女王」、仮面をつけた儺舞の祭司、拱手の礼をしたり茶を入れたりできる操り人形など、国内外のさまざまな芸術団体が隊列を組んで、にぎやかな通りをパレードする。古鎮全体が不思議な童話の世界へと変わる。
桐郷の濮院時尚古鎮は、嘉興市街地を流れ出た大運河が最初に通る古鎮だ。昨年12月初め、2024国風大典がここで開催された。観光客は中国風の定期市で、吹糖人(あめ細工の人形)、唐傘作り、つぼ投げ、切り絵といった伝統文化を体験したり、船上で宋代の水上結婚式を見学したり、舞台で繰り広げられる華麗な漢服ショーや武術パフォーマンスを楽しんだりすることができる。嘉興の古鎮は、常に新鮮な驚きとともに数え切れないほどの魅力を秘めている。
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近年、嘉興の古鎮は中国のSNSで頻繁に登場し、若者たちにとって休暇を満喫するのに絶好の場所となっている。古鎮の真の魅力は「古さ」だけでなく、そこに時間がたつほど新鮮に感じられる力があることなのかもしれない。今日の嘉興では、漢服をまとった人々が自信に満ちあふれながら古鎮を散策する姿をあちこちで目にすることができる。漢服をはじめとする数千年にわたる伝統文化の数々が現代の日常生活に自然と溶け込み、新たな生命力をほとばしらせている。
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