『巨浪下的小学』
リチャード・ロイド・パリー(英)著
尹楠 訳
文匯出版社 2019年10月 68元
劉檸=文
9年前の東日本大震災は世界の観測史上4番目となる巨大地震だった。この地震に伴い巨大な津波が発生し、沿岸域の広範囲を地獄に変えた。
この甚大な災害で、宮城県石巻市立大川小学校の児童・教員計84人が犠牲となった。数字だけを見ると、全被災者数の260分の1にも満たないごく小さな問題だが、司法制度を含む日本社会の現実と国民性の特徴を浮き彫りにした。当時英国ザ・タイムズ紙の記者で現東京支局長のリチャード・ロイド・パリー氏がこの事件に注目し、取材を行い、同書を執筆した。
著者は取材中、全ての遺族たちが真相解明を望んでいるわけではないと気付いた。実際、子どもを亡くした50余りの家族のうち、法を武器に立ち上がり、学校側および石巻市教育委員会の責任を追及しようとしたのは亡くなった児童23人の19家族だけだった。そしてこの19家族も何度も迷いながら、最終的に民事訴訟の時効直前に訴訟を起こした。
裁判が進むにつれ、真相がだんだんと明らかになり、「人災」によるものだと発覚した。原告側は校長や市教育委員会の過失責任だけではなく、職務怠慢の問題も追及しようとしたが、被告側は監督不十分だったことだけを認め、ほかは一切否定した。
この訴訟は仙台高裁の控訴審まで続いた。日本国内外の世論の支持の下、原告側が勝訴したが、判決は納得できるものではなかった。「地震(津波)発生時の危機管理マニュアル」の抜け穴に対して責任を取る人がいなかった。市教委が責任を逃れたことや証拠を隠蔽したこと、唯一の生存者である教務主任が偽の証言をしたことについて、裁判所は沈黙を守った。事件後、石巻市役所や市教委の中でこの問題によって正式に解雇・処罰・批判された人は一人もいなかった。生き残った子どもたちの証言のメモを破棄した人物は翌年、同市のほかの小学校の校長となった。
これに対して著者は、「日本の民事司法システムは民主主義と同じで、表面上は特に何も問題はないように見える。裁判官は独立しており、賄賂を受けることや脅かされることもほとんどない。しかし、このシステムの中核は現状維持およびこのシステムを支持する人と公的機関を守るのに偏っている」と述べている。
50年前に、政治学者・思想史家の丸山眞男氏が日本の社会構造、いわゆる「無責任の体系」という問題を見通し、以下のように指摘した。近代の自由で独立的な判断を持つ個人は、自らの行為で引き起こした結果に対して責任を取る「主体的意識」が不足している。そして、この主体的意識はまさに近代の国民形成における精神的な基礎となっている。「無責任の体系」が引き起こした結果の一つは、「抑圧の移譲」だ。つまり、上からの圧迫感のはけ口を下に求めることで順次に移譲し、全体のバランスを保持するという構造的な体系だ。戦争を起こしたことや福島第一原子力発電所の事故など、こうした近代日本における一連の問題から、多少なりともこの「無責任の体系」が垣間見える。
ある意味、石巻市立大川小学校の事件もこれと似たようなもので、津波が社会を打ち砕き、現実が露呈したといえる。
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