成功の秘訣本ではなく、人生哲学読本

2022-11-23 17:58:21


劉檸=文 

稲盛和夫の『生き方』は、出版されてから18年間で、中国語版だけでも500万冊を売り上げている。彼のファンには王石、任正非、馬雲らビジネス界の大物だけでなく、すでに亡くなっている前世代の学者、季羡林もいる。私がこの本を読んだのには二つの理由があって、一つは稲盛自身の伝奇的な人生に興味を持ったためで、もう一つは、かなり前に東京の書店で立ち読みしたとき、その文章に、誠実・質朴で、堅苦しくなく、人生の道理を物語の中に溶け込ませているという第一印象を持ち、間違いなく私の今までの日本式経営学に対する印象を新たにしてくれたからだ。文系と理系、経営と管理、日本と西洋、科学と宗教、ひいては有機物と無機物との垣根を取り払い、人と社会、生命と知恵に関する超越的な思考を行っていて、分かりやすく言えば、まるまる一冊が人生の哲学読本である。この小さな本は私に、単なる読書の快感だけでなく、長く残る感動を与えてくれた。感動した後、私は長いこと考えさせられた。『生き方』は稲盛自身の自伝ではないが、読み終わった後、私の心の中の稲盛和夫像がより立体的なものとなった。おおざっぱに言うと、主に以下の三つの側面を持つように思う。 

大企業家である。ゼロからスタートし、京セラとKDDIという二つの大企業を育て上げた。京セラは創立以来53年間、KDDIは創立から28年間、いまだかつて赤字を出したことがなく、利潤率はどちらも10%以上を保っている。さらに稲盛は、従業員を解雇したことがない。航空界の巨大組織である日本航空の存亡の危機に際し、78歳という高齢にもかかわらず、使命を受けその破産・再生を主導し、1年で起死回生を遂げ、再度上場させた。日航はその年、世界の727社の航空企業の中でも最高利潤を記録し、利潤率は日本のもう一つの航空大手である全日空の3倍となった。このような実力を備え業績を誇る人が、世界に何人いるというだろうか。大企業家と言うのはこのためだ。 

崇高な人である。若くして起業した稲盛は創業当初、知識も経験もなかった。しかし彼は、企業経営と人としての道理を同列に扱い、「人としてやるべき正しい事を、正しい方法でやり抜く」ことで、たゆまぬ努力により、最終的に平凡を非凡に変えた。京セラが技術と製品により成功を収めた後、多くの人が彼に不動産投資を勧めた。しかし稲盛は、「額に汗し、自分の努力により稼いだお金だけが本当の利潤だ」と考えていたため、京セラはバブル崩壊によるマイナス影響を受けなかったごくわずかな大企業の一つとなった。 

仏教者である。稲盛は陽明学と江戸時代中期の思想家、石田梅岩が創始した石門心学の信奉者であり、「利他の心は本来商売の原点である」と考えていた。DDI(KDDIの前身)とauの成功はまさにこの信念を体現したものと言える。また、こうした「利他」の心により、稲盛は積極的に各種の社会公益・慈善活動に身を投じた。1985年、彼の寄付により創設された「京都賞」は、今や極めて大きな影響力をもつ国際的な賞となり、日本のノーベル賞とも呼ばれている。「利他」の心とは、キリスト教では愛、仏教では「善意で人を助ける」ことである。稲盛はふだんから「世のため人のために尽くす」という通俗的な表現を好んでいたが、彼にしてみれば、この点が実際には彼と仏教との強いつながりでもあり、天台宗の中にもいわゆる「忘己利他」(己を忘れて他を利する)という教えがあって、稲盛は本物の仏教者でもあったと言えるだろう。 

 

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