国歌「義勇軍行進曲」作詞者・田漢 波乱の人生 舞台で再現

2018-09-28 16:54:55

続昕宇  張瑜=文 「狂飙」チーム=写真提供

 高らかにトランペットが鳴り、「立ち上がれ!奴隷になりたくない人々よ」と勇ましい歌詞で始まる「義勇軍行進曲」が、中華人民共和国の国歌であることはよく知られている。そして、その作詞者田漢の名は、読者の皆さんなら一度は耳にしたことがあるだろう。

 中国の現代演劇誕生110周年を記念し、風のように駆け抜けた田漢の生涯を躍動感たっぷりに描いた芝居の再演版「風をおこした男――田漢伝」(原題「狂飙」)は、2017年に中国で上演されて以来、大きな反響を呼び、高い評価を受けてきた。

 

 中日平和友好条約締結40周年を迎える今年は、田漢生誕120周年でもある。これを記念して、日本の著名な演劇評論家の後押しと中日有識者の努力のもと、本作は10月6日と7日の両日、東京世田谷パブリックシアターで上演される。

 中国の国歌「義勇軍行進曲」の作詞者として名を知られる田漢は、中国現代演劇の創始者3人の1人とも称される。6年間の日本留学中、田漢は日本の新劇運動の指導者といわれる島村抱月と、新劇の名女優松井須磨子から深い影響を受ける。その後、田漢は劇作家、詩人として数多くの作品を残し、今回の記念公演の主催者でもある上海戯劇学院の校歌も手掛けた。

 

「義勇軍行進曲」の作詞者田漢(右)と作曲者聶耳(新華社)  

 来月、中国国家話劇院の一級演出家で、上海戯劇学院教授でもある田沁鑫氏は、同学院の卒業生や学生たちとともに、自ら手掛けた劇「風をおこした男――田漢伝」の日本初演を果たす。日本と深い関わりのある田漢を、斬新な理念と舞台設計によって描き出すこの芝居は、中国の芸術事業に生涯を捧げた「中国演劇の魂」へのこの上ない記念となるだろう。

演劇のために“心中”

 1898年、田漢は湖南省長沙県の農民家庭に生まれた。長沙県は、同省の伝統的な地方芝居の一つである湘劇や、影絵芝居が盛んなところで、彼は幼いころから叔父たちの肩に載せられては、遠くで開かれる縁日の野外芝居を見に行った。また、学生の軍隊に参加した後もよく京劇を見に行っていたという。勤勉精神を尊ぶ土地柄に加え勉強熱心でもあった彼は、わずか13歳で創作を始め、処女作「新教子」を発表した。

 1916年、田漢は日本の東京高等師範学校(現筑波大学)に留学する。6年間の日本滞在中、島村抱月や松井須磨子などによる新劇勃興期の多くの舞台に感銘し、その後の芸術活動に大きな影響を受けた。

 「日本の歌舞伎や新劇はあまり好きじゃなかった。でも、松井須磨子の芝居は何度も見た」と劇中の田漢が吐露する。松井須磨子が芝居で演じた“心中”が象徴するように、日本文化独特の感傷的な情緒や死への憧れ、極端な審美主義が、詩人として繊細でメランコリックな田漢に強烈な衝撃を与えた。そして、現実に須磨子が抱月の後を追って死んだように、東京に雨が降ったある夜、田漢は演劇のために“心中”することを決意したのだった。

風のように駆け抜けた人生

 田漢は創作に打ち込み、次々と作品を世に送り出した。その数は、演劇脚本63本、戯曲27本、歌劇2本、映画脚本12本、詩歌2000首以上に上った。早期の作品は、主に個性を宣揚して、五四運動の思想と個性の解放を訴えるものが多い。人間の自由と幸福を奪う当時の旧勢力の罪悪を暴くと同時に、暗い現実に悩み苦しみながらも明るい未来を熱望する人々を表現することに力を注いだ。

「風をおこした男――田漢伝」の舞台写真 

 2001年の初演当時の創作動機について、演出家の田沁鑫氏はユーモアを交えながら振り返った。「これまでの私の創作で、芸術家や演出家の物語を書いたのは初めてです。私たちは名字は同じ「田」ですが親戚ではありません。中国の現代演劇の基礎を築いた人が何をしたのかを知りたかっただけです」

 17年の再演版では、「田漢は個人の視点がはっきりした理想主義者だと思います。また、極端だがロマンチックなところもあり、感受性が豊かで純粋な一面も見逃せません。この再演を機に、より男らしく、より感情豊かな田漢像を再発見しました」と語った。

 新たに上演される「田漢伝」は、ロマンチックな感情のもつれを物語のメインラインとし、デジタルハイビジョンカメラを使って舞台上に映像や田漢の作品に関連する資料を映し出す。最新技術を駆使して、彼の人生に関わる4人の女性と、彼の演劇作品 「日本」「郷愁」「サロメ」「一致団結」「関漢卿」などを劇中劇として使い、才気と運命にもてあそばれた田漢の波乱万丈の人生を再現する。

 この芝居について田氏は、「本作品は極端な理想主義者としての田漢の伝記です。また、二度と同じものを作ることができない貴重な一作です」と語る。

 中国演劇の改革者として、田漢は風のように近代の演劇運動を推進し、中国左翼演劇家連盟を立ち上げ、中国の演劇事業の発展に大きな足跡を残した。

 「本作品が田漢生誕120周年という記念すべき年に日本で初演されることは、演劇界にとって大変喜ばしく、また中日平和友好条約締結40周年を祝う贈り物でもあります。中国の優秀な若手俳優や最新技術を駆使したこの芝居を通じて、一人でも多くの日本の皆様にわれわれの真心を感じていただくとともに、中日友好事業に新たな花を添えることを期待しています」と田氏は語った。

 

日程:2018/10/06(土)~2018/10/07(日)

会場:世田谷パブリックシアター

チケット一般発売開始: 2018/08/05(日)

お問合せ:世田谷パブリックシアター

TEL:03-5432-1515(10:0019:00)

 

 

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