武冨博信 武漢を支援し医療市場も開拓

2020-06-09 10:12:52

王衆一=聞き手

 

武冨博信 富士フイルム(中国)投資有限公司総裁

1986年に慶応義塾大学商学部を卒業、富士フイルム入社。米国や英国、中国と通算19年の海外勤務を経験。工場生産管理課や労働組合、新工場建設プロジェクト、営業本部、海外法人副社長、本社事業部長等を経て現在に至る。

 

 新型コロナウイルスによる肺炎の感染が拡大中の2月初め、武漢を支援する多くの企業や個人の中でも、富士フイルムは特に注目を集めていた。気管支電子内視鏡システムや携帯型の超音波画像診断装置など、新型肺炎感染の臨床診断をサポートする機材を湖北省に寄贈したからだ。医療機器などの総額は1億円以上にも上った。

 2月後半から、新型肺炎の感染拡大との闘いとともに、できる限りの操業再開を図り、1~3月の新型肺炎の影響を最小限にとどめ、今年の安定経営を図っている。

 新型肺炎が猛威を振るう中、富士フイルムの武冨博信総裁を取材した。

 

――3月6日現在、春節(旧正月)の休み期間中に帰省した従業員や、日本に一時帰国した社員が戻れないケースもある中で、生産の回復状況はいかがですか。

 

 武冨博信(以下、武冨) 生産面では、関連会社の蘇州富士膠片映像機器有限公司が2月10日に稼働を再開しました。デジタルカメラについては、引き続き部品調達から顧客配送までサプライチェーンの状況を注視して対応していきます。その他の中国にある工場は、2月17日までに稼働を再開しました。

 またオフィスに勤務する社員の健康を確保するため、弊社では勤務のフレックスタイム制を業務再開した2月10日から導入しており、業務の必要に応じてスタッフを在宅勤務と出社勤務に分けています。出社勤務スタッフには、感染症状がないことを確認の上、体温測定・マスク着用・手の洗浄を励行してもらい、勤怠管理でも余裕を持っています。さらに、全社員にハンドソープや消毒液、マスクなども配布し、健康第一に業務の再開をサポートしています。

 

――今回の新型肺炎の治療薬候補として、富士フイルム富山化学が開発し、

2014年に抗インフルエンザウイルス薬として日本で製造販売承認を取得した「アビガン錠」が挙げられましたね。

 

 武冨 「アビガン錠」の適応症は、新型または再興型インフルエンザウイルス感染症です。日本では、他のインフルエンザウイルス薬が無効または効果が不十分な場合に、国の判断をもとに患者への投与が検討される医薬品です。今回、厚生労働省により「アビガン錠」が新型コロナウイルス感染症の治療薬候補として言及され、国立の研究センターと医療機関が主導する観察研究の一つとして、新型コロナウイルス感染症の患者に対し投与されたとの発表がありました。

 

――新型肺炎の治療には御社の医療機器が多く使われています。

 

 武冨 武漢などの湖北省の都市に機器を寄贈しました。この他、各医療現場へのサポートとして、機器の設置・保守サービスの急増に応じ、迅速な対応を行っています。また、お客さまからの問い合わせに24時間体制で対応しています。当面こういった医療現場サポートを継続していく予定です。

 

――抗菌フイルムなど、御社はたくさんの関連製品を持っているそうです。

 

 武冨 富士フイルムの抗菌商材は銀系抗菌剤を使っており、菌に接触後わずか1時間で細菌の99・99%以上を除菌できます。また独自技術による持続除菌性能で、多くのお客さまから好評をいただいております。この他の抗菌商品として、抗菌クロスと抗菌スプレーもあります。

 今回の新型肺炎に対して、富士フイルム抗菌商品の除菌性能と持続性能に関する試験を展開する予定です。効果が認証できたら中国の感染予防に積極的に貢献したいと思っています。また今後、効果的で優れた製品が中国市場に確実に供給されるよう、中国での抗菌商品の生産も積極的に検討しています。

 

中国における新型コロナウイルス対策の支援のため、富士フイルム株式会社は肺炎の臨床検査をサポートする医療診断機器や物資などを寄付した(写真提供・富士フイルム(中国)投資有限公司)

 

――これから中国企業との連携を強めていく考えでしょうか。

 

 武冨 中国の医薬品市場の規模は、米国に次いで世界第2位にまで拡大しています。富士フイルム富山化学が創製したキノロン系経口合成抗菌薬「T-3811」は、中国で輸入医薬品の承認を取得済みです。今後、「T-3811」を同薬の中国の販売提携先で有力製薬会社の深圳万楽薬業有限公司を通して、今年度より販売していく計画です。

 

――新型肺炎の感染拡大による販売への影響はいかがですか。

 

 武冨 富士フイルム(中国)投資有限公司の12年から19年にかけての売上高・営業利益を振り返ると、全体として順調な増加傾向にあり、この8年間の年平均成長率は約7%です。今年度も、中国市場と顧客のために、カスタマイズする新製品の開発や、新組織とプロセスをつくることによって経営をさらに効率化・可視化させること、新規市場・顧客の開拓、新しい販売モデルの提案、これらを組み合わせて全社の全体強化を図り、これまで以上の成長を目指します。

 

総編集長のつぶやき

 富士フイルムは、急成長しているインスタントカメラやデジタルカメラ、シネマレンズ、インクジェット機材、超音波、内視鏡、抗菌製品、偏光板など多岐にわたる業務を展開している。新規事業としては、高機能材料や生化学クローズシステム(Wet Chemical System)、病院の委託業務・情報サービスなどに重点を置いており、中国での市場浸透と売り上げ向上が期待される。

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