上田敏裕 最先端ガラス工場に期待

2020-06-15 11:26:55

王衆一=聞き手

 

 

上田敏裕(うえだ  としひろ) AGC執行役員、同グループ中国総代表

慶応義塾大学卒、ボストン大学ロースクール修士。1998年旭硝子株式会社法務室主任、2008年広報・IR室長、14年法務室長、17年1月からAGCグループ中国総代表。18年から旭硝子株式会社(19年に社名をAGCに変更)執行役員。

 

 ポスト・コロナウイルスに備え、中国は新たな産業政策、経済刺激策などを次々と打ち出している。3月から消費を促進する買い物券を各地で導入。4月にはいち早く雇用を確保する政策を講じた。5月以降は、第5世代移動通信システム(5G)や自動運転、人工知能(AI)、ビッグデータなどの新しいプロジェクトが続いている。こうした積極策のおかげで、中国経済は世界に先駆けて正常軌道に戻っている。

 世界最先端のガラス製造技術を持つガラスメーカーAGC(旧旭硝子)は、昨年、中国で9億元(約135億円)を投資し、大型3D・複雑形状の車載ディスプレー用カバーガラスを生産する蘇州工場の建設を開始。さらに、49億元(約730億円)を投資し、第11世代TFT液晶用ガラス基板を生産する深圳工場を建設する。コロナショックの影響を受けても両工場は建設を中断せず、工事を進めている。

 再スタートにかけるAGC中国総代表の上田敏裕氏を取材した。

 

――2月以降、コロナウイルスが中国で猛威を振るいましたが、蘇州工場は万難を排して建設を継続していますね。

 

 上田敏裕 旧正月(1月25日)が明けてから、人手不足、物流や通関難といった難題を抱えながら、AGCは蘇州工場の建設工事を再開し、他の工場も操業を再開しました。

 再開に当たり、中国国際貿易促進委員会(以下、貿促会)や商務部など、多くの政府部門の手厚いサポートをいただきました。例えば、中国の貿促会は積極的にAGCの課題をヒヤリングした後、関連部署と連携してスピーディーに問題解決に尽くしてくれました。多くの産業のベースとなる素材企業の重要性や、AGCグループの社会的必要性を、中国政府の関係者に理解してもらい、コロナの初期段階から尽力いただいたことは大変ありがたかったです。

 

――人の移動は一時ストップしましたが。

 

 上田 2月の中国ではそうでしたが、3月以降、日本もコロナウイルスで一連の移動制限策が発出され、その結果、日中双方の人的交流が実質上、凍結状態になりました。

 一方、世界最先端の工場を建設するには、最先端の人材の指導が必要です。AGCが、建設に必要な多くの技術者を日本から中国へ派遣しようとしたところ、中国への入国ビザが発給ストップになるという大変な状況に陥りました。しかし、中日両国の大使館や中国の商務部、貿促会の皆さんが温かい手を差し伸べてくれました。最終的に、AGCの技術者の派遣申請は、こうした関係者の皆様の支援を受け、「特例」としてグリーンライトを出していただきました。その際の、「中国が必要とする会社ですから応援します」という言葉は忘れられません。2カ月半以上に及ぶコロナウイルスとの闘いのさなかの、総力を挙げての支援には感謝しかありません。

 

――4月以降、中国は新インフラ関連の経済政策を続々と打ち出しました。

 

 上田 中国政府が唱えている新インフラ投資に関してAGCは、例えば5Gや軌道交通、EV(電気自動車)など、その周辺の関連技術を多く持っています。われわれは世界最先端の素材プロバイダーであり、非常に多くの産業に高品質で安全な素材を提供し続けています。

 ポスト・コロナでは、「消費グレードダウンの中のグレードアップ」が迎えられると予測する中国の経済学者がいます。AGCグループの中国戦略は、ポスト・コロナでも「中国の発展と共に成長する」ことです。

 AGCグループの島村CEOは、「事態が鎮静化した暁には、人々の価値観も大きく変わるものと確信しています。『ビフォー・コロナよりも良い世界を実現したい』。世界中の皆さんのこの夢を、私たちの素材の力で実現するために、AGCグループはチャレンジを続けます」とメッセージを発信しています。われわれの気持ちもまさにその通りです。

 

広東省恵州市にある工場に建設した第11世代TFT液晶用ガラス基板製造窯のくわ入れ式(2017年8月、写真提供・AGC)

 

総編集長のつぶやき

 中国の新インフラ政策の中で、自動車やディスプレーの進化に最も必要とする素材は、AGCが蘇州で建設中の工場や深圳で建設予定の工場から供給される。深圳工場は世界最大の液晶ガラス基板を初めて中国で生産し、蘇州工場には各種の光学薄膜コーティングから装飾印刷、複雑曲面の一体成形に至るまで、最先端技術による一貫生産ラインが入る。両工場ともポスト・コロナのさらなる経済発展に寄与するだろう。

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