陳楊秋 中国における「創新」を加速

2020-09-28 10:21:10

王衆一=聞き手

 

陳楊秋 Chen Yangqiu)  日立(中国)研究開発有限公司総経理

吉林大学技術経済学修士号、清華大学EMBA取得。中国機械工業部(省に相当)などの政府・研究機関を経て、1998年に日立(中国)有限公司入社。2014年から現職。北京中関村外資系企業協会副会長や世界経済フォーラム(WEF)中国未来理事会メンバー、日立清華大学未来イノベーション連携推進委員会主任など兼務。

 

近年、中国の科学研究の実力台頭は衆目の一致するところだ。人的資源・社会保障部によると、今年の中国の大学新卒者は874万人に上るという。これは、日本の今年の新卒者と比べ10倍以上だ。日本の文部科学省の科学技術・学術政策研究所がこのほど発表した集計では、中国から発表された自然科学系の論文数は、米国を抜いて世界1位となっている。中国の材料工学や物理学、コンピューターおよびエンジニアリング分野の研究開発能力は、すでに世界トップクラスにある。

改革開放の初期に、中国が、日本も含めた国外からの導入技術の助けを得て工業生産能力の進歩を果たしていたと言うならば、近年ますます増える中国の技術と製品の研究開発は大きな役割を発揮していると言えるだろう。日系企業は、基礎研究と新製品の開発でユニークな経験を持つ一方で、中国企業が自国の市場ニーズを満足させる面で巨大な力を注いでいる点をますます重視している。

日立(中国)研究開発有限公司は、中国のスタートアップ企業(新たなビジネスモデルを開発する企業)や、大学などとの連携による研究開発(協創)を積極的に模索・開拓し、オープンイノベーション(自社内外の技術やアイデアを活用しイノベーション効率を最大化する方法)の歩みを速めている。同社の陳楊秋総経理に話を聞いた。

 

――御社は今年に入ってから多くのアイデアソン活動を行っており、注目されていますね。

 

陳楊秋 日立は2015年から研究開発の変革と組織再編を行い、「協創」のコンセプトを打ち出しました。私たちが中国で「協創」を進める重要な手段とは、まさにオープンイノベーションの拡大です。政府や大学、研究機構、イノベーションのホットスポットと、さまざまな形の連携を行います。アイデアソンは、私たちとイノベーションホットスポットが連携する効果的なモデルの一つです。

 北京の中関村や広東省の深圳市は、最も代表的なイノベーションホットスポットです。北京の中関村は中国の知的資源が集中し、ユニコーン企業(評価額10億㌦以上の未上場ベンチャー企業)を含むスタートアップ企業が集結する地域です。私たちは政府系インキュベーター(起業支援を行う組織)であるZ-Innoway(中関村創業大街)と連携し、ここ数年で何回かアイデアソンやハッカソンなどのイベントを開催しました。その主な目的は、新しいビジネスやニューテクノロジー開発に関連するアイデアと技術を得るためです。またスタートアップ企業に外資との協力を拡大する機会を提供しました。

 このアイデアソンとは、主にイベント形式で参加者がチームに分かれて競い合いながら、新たなソリューションやビジネスアイデアを創出するものです。またハッカソンは、よりテクノロジー開発に重点を置き、課題を解決するニューテクノロジーを素早く創り出すものです。

 例えば私たちは、エレベーターサービスに関連したアイデアソン活動を行ったことがあります。その目的は、日立のエレベーター製品のデジタル化・サービス化に向けたアイデアを得ることです。アイデアソンにより、デジタル技術によるエレベーター利用上のセキュリティー保証や、利用客とのコミュニケーション強化、デジタルメンテナンス、サービスロボットの導入などのアイデアが数多く生まれました。さらに、都市のセキュリティーなどに活用されるビデオ分析技術向けのハッカソンを開催したこともあります。こうした活動は、私たちのイノベーションの視野を大きく広げ、各種テクノロジーとソリューションの開発を加速させます。

 

日立と北京の中関村創業大街が共催した昨年のアイデアソン(写真提供・日立(中国)研究開発有限公司)

 

――ここ数年、深圳は製造分野で飛び抜けた能力を示していますね。

 

 深圳には、珠江デルタ地帯の製造能力とサプライチェーンの強みを生かした独特のイノベーティブな特色があります。特にスマート製品の迅速な開発が顕著です。日立は、深圳市の衆創空間(パブリック・イノベーション・スペース)協会と協力し、「日立深圳イノベーションスポット」を作りました。

 これは、深圳のイノベーション能力を活用するプラットフォームです。これを通して私たちは深圳の企業と連携し、主にスマート製品の素早い開発を行っています。例えば、サービスロボットのプロトタイプの開発です。また、私たちはこの連携プラットフォームを通し、スマート介護分野で多くのパートナーと知り合い、技術面での強みを相互に補完する協力を進めています。

 

――北京や深圳の他に、上海は製造業分野で先進的な技術を持っていますね。

 

 日立は、上海とその周辺都市に多くの製造拠点を作りました。上海に作った研究開発チームの最初の狙いは、中国現地の材料製造技術を開発し、日立のグループ企業に貢献することで、例えば、中国現地材料の分析評価や生産プロセスの改良などの技術開発を通し、製造コストの削減をサポートしています。

 また同時に私たちは、未来に向けた先端材料や製造技術の開発にも注力していて、優位技術を持つ上海交通大学などの有力大学と連携を進めています。例えば新エネルギー車関連材料や制御分野などです。

 

――中国各地で日立の力点の置き方はそれぞれ違うのですね。中国業務のR&D(研究開発)責任者として、日立のR&Dの全体的な戦略とは何でしょう。

 

 日立の研究開発の使命は、イノベーションを通して日立の発展をリードしていくことです。現在、グローバルに三つの面でイノベーション活動を進めています。それは①未来トレンドを見極めること②顧客との協創により新たな事業を開拓すること③先進的な技術を開発することです。中国でも同じ方針で全面的にイノベーション活動を展開し、中国における日立グループの研究開発のハブ機能を発揮しています。

 現在、日立の中国におけるコーポレート研究開発部隊として、私たちは清華大学などのパートナーと中国の未来洞察プロジェクトを進めています。また、スマートシティーやヘルスケアなどの分野で、各地の顧客・パートナーと協創を展開し、新事業創生を進めています。同時に人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)などのデジタル技術、材料製造技術などの分野でも大学や研究機構と連携しながら優位技術の開発を推進しています。

 私たちは、中国がイノベーション型国家という大きな方向を推し進めるトレンドの中、各分野におけるオープンイノベーション・エコシステムに参画して、共同発展を実現できると信じています。

 

編集長のつぶやき

   日立が中国で常に市場を開拓し続け、商品やサービスの面におけるニーズを満足させるには、オープンイノベーションが不可欠だ。多くの中国のイノベーション企業が同社との協力によって、アイデアとテクノロジーを発揮している。 
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