「一帯一路」の現在と日中協力の扉

2022-09-07 10:01:52

ジャーナリスト・木村知義=文 

日中国交正常化50年を記念するさまざまな行事が全国各地、各界で重ねられています。日中関係が決して安穏とは言えない状況にあるだけに、国交正常化の歴史的意義と私たちが忘れてはならない日中間における原則への認識をしっかりしたものにすることが何にもまして大事だということを、改めて読者の皆さんと共有しておきたいと思います。そして、このような時だからこそ「光」に目を向けて歩みを前に進めなければならないと考えます。 

『人民中国』今年8月号で「新たな世界をめざす胎動」という視界から「一帯一路」を挙げました。今回は「一帯一路」の現在について少し掘り下げて考えてみます。 

  

6月30日、天津新港駅で発車を待つ中欧班列。天津発の中欧班列は昨年の同時期に比べて173本多く、70%以上の増便となっている。主な積荷は自動車、機械装置、日用品(新華社) 

  

目をみはる「一帯一路」の躍動 

「日本の名古屋と中国天津、それにカザフスタンのアルマトイを結ぶ中国初の海運と鉄道輸送を結び付けた定期列車が霍尔果斯(ホルゴス)税関を経由してカザフスタンに向かった」というニュースを中国CGTN-AFPBB Newsで目にしました。8月下旬のことです。 

この列車には自動車99台(約1000万元=約2億円)が積載されていて「日本の工場から出荷された後、船で名古屋港に運ばれ、そこから国際RO-RO船で中国の天津に送られ、さらに輸送会社・中鉄の専用列車に載せられて西に向かい、ホルゴス税関を経由して」カザフスタンへと運ばれるもので、「貨物輸送の時間は従来の60日余りから20日程度に短縮され、物流コストを大幅に節約し、輸送効率を向上させた」というのです。 

「一帯一路」は片時も休むことなく動いていることを実感するとともに、日本からの物流にも深く関わる展開を見せていることに驚きました。 

ところで、日本のメディアでは「巨大経済圏構想『一帯一路』」という表現で語られることが多いのですが、果たしてこれで「一帯一路」を正しく捉えることができているのだろうかという疑問をずっと抱いてきました。英語表記では「The Belt and Road Initiative 」「一帯一路」イニシアチブとなります。もちろん経済が基幹にあることは間違いないでしょうが、すでに経済という範囲を超えて、また地理的空間でも地球をぐるりと取り巻く展開を見せていて、世界のあり方を大きく包み込んで新しくしていく広がりと深まりを持っていると感じます。世界各国の、とりわけ途上国にとって、新たな発展モデルを開き、けん引する原動力として「一帯一路」イニシアチブがあるということなのでしょう。それゆえに、米国はじめ西欧、日本の、旧来の世界秩序を墨守したい人々からことごとく「やり玉」に挙げられるのではないかと思うのです。 

  

「債務のわな」という「わな」 

その象徴的な問題は、メディアで繰り返し語られる、いわゆる「債務のわな」でしょう。ちょうどこの稿の筆を執る前、日本華人教授会議が主催して東京大学グローバル中国研究拠点共催のオンラインによる緊急討論会「スリランカ情勢と『債務の罠』の罠―『一帯一路』の行方を合わせて考える」を聴講しました。日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の荒井悦代さんの詳細な経済データに基づいた報告によって、スリランカの債務問題は中国からの借り入れによってではなく、スリランカ政府自身の経済運営に問題があったことで引き起こされていることが示されました。「債務のわな」というイメージが作られたものであり、これこそが「わな」だということなのです。 

また、別の報告では、中国招商局港湾持株会社が運営権を持つことになったスリランカ南部のハンバントタ港は軍事目的には使用しないことが契約に明記されている、つまり中国が軍事拠点にするに違いないという論調がいかに的外れであるのかも明らかにされました。 

もう一つ、今年6月にロサンゼルスで開催された米州首脳会議をテーマに、駐日ボリビア、キューバ、ベネズエラ大使館によるオンライン会合が催され参加する機会を得ました。この米州首脳会議は、バイデン大統領が「専制主義と民主主義」の線引きを盾にキューバ、ベネズエラ、ニカラグアを排除したことからメキシコなど6カ国と米国の制裁を受けているエルサルバドル、グアテマラの首脳が参加を取りやめ大きなニュースになり、「米国の誤算、中南米で『地域の盟主』の地位揺らぐ」と伝えた日本メディアもありました。3国の駐日大使(代理大使含む)の報告に続いて質疑の時間が設けられましたので、中南米における「一帯一路」イニシアチブの受け止めについて質問してみました。 

「米国は覇権を押し付けてくるが中国の『一帯一路』はウインウインの協力関係だ。ラテンアメリカ、カリブ海諸国の多くの国々が参加していて、この地域の新しい秩序の可能性を開くものだ」 

「米国は身近な『同盟国』というべき国々が『一帯一路』に加わっていくことを押しとどめることができなくなっている」 

「米国は、中国の支援は危険で、債務で手足を縛るものだ、民主主義を破壊するものだと言うが、それこそ米国自身が100年かけてこの地域でやってきたことだ」  

各大使からはこんな答えが返ってきました。米欧の帝国主義による植民地支配を体験してきた国々からの発言はまさに本質を突いたもので、実に新鮮な知見となりました。 

  

日中協力の扉を開くために 

「中国はすでに149カ国および32の国際機関と『一帯一路』共同建設協力文書に調印し、3000以上の協力プロジェクトを形成して、投資規模は1兆㌦近くに達している。中国は昨年末までに、『一帯一路』を共同建設した84カ国と科学技術協力関係を構築し、1118件の共同研究プロジェクトを支援して、農業、新エネルギー、衛生、健康などの分野で53カ所の共同実験室の建設を開始した。国際定期貨物列車『中欧班列』はすでに欧州二十数カ国190以上の都市に通じている」 

これは中国外交部の定例会見で汪文斌報道官が「『一帯一路』イニシアチブを打ち出してから9年余りで、実り豊かな成果を上げてきた」と述べて示した7月段階での実績データです。「一帯一路」は日々進化していることが分かります。 

こうした「一帯一路」イニシアチブへの再認識の上に、今こそ日本の私たちも「一帯一路」に参画し、日本と中国の協力プロジェクトを多様に構想して実地に移していく努力が大事になってきていると考えます。特に、日本には、ODAはじめ途上国援助についての経験の積み重ねがあります。途上国の人々のために貢献できる支援のあり方はどんなものか、痛い負の教訓も含め、経験を積んだ専門家が数多くいます。中国と手を携えて、各国の人々との協働の中で、真にウインウインの発展戦略を根付かせていくフィールドが広がっているはずです。まさに「国交正常化50年」から次の50年に向けての日中協力の新たな時代を開く扉が目の前にあると言うべきでしょう。あとは扉を開く勇気を持てるかどうかです。 

世界は新しい時代を待っています。「実事求是」の精神を忘れず、時代に果敢に立ち向かうわれわれでありたいと切に願うばかりです。 

 

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