「中国・中央アジアサミット」とG7後の世界

2023-08-14 16:55:00

木村知義=文

月号で「G7後の世界と中国」について考え、「変わる世界」という視座の重要性について述べましたが、大事な「半分」について深める紙幅がありませんでした。すなわち、前号で述べた世界の大局の中で中国はどう動いているのか、それがどんな意味を持っているのかを把握してはじめて、世界の動向の全体を構造的に理解できるのだと思います。今回は「中国中央アジアサミット」に焦点を当てて考えてみます。 


5月19日午前、習近平国家主席(左から4人目)は陝西省西安市で行われた第1回中国―中央アジアサミットを主宰。カザフスタンのトカエフ大統領、キルギスのジャパロフ首相、タジキスタンのラスルゾーダ首相、トルクメニスタンのベルディムハメドフ大統領、ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領が参加した(新華社)

対照的な二つの国際会議 

広島で開催されたG7サミットと時を同じくして5月1819日、西安で「中国中央アジアサミット」が開催されたことはご存じの通りです。カザフスタンのトカエフ大統領、キルギスのジャパロフ大統領、タジキスタンのラフモン大統領、トルクメニスタンのベルディムハメドフ大統領、ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領が出席し、習近平国家主席が議長を務めて、中央アジアにおける協力と発展、さらに、この地域と世界の平和と未来の在り方について話し合い、「中国中央アジア西安宣言」を発出しました。 

日本のメディアには「G7」への対抗という報道があふれました。見出しを挙げてみると、「中国と中央アジアの首脳会議きょう開催、米などけん制の思惑も」「中国、中央アジアと『サミット』、G7に対抗、習氏が進める独自外交」「中国版サミット、G7に対抗、中央アジアを束ね、影響力誇示」さらに、「G7の裏番組、『中国中央アジアサミット』が国際秩序に与える衝撃波」という論評を書いた北京駐在経験のある元記者もいました。 

そこで、あらためて「中国中央アジアサミット」における習主席の「基調演説」と「西安宣言」を読み込んで、日本の報道と比較してみました。すると、いくつもの重要なポイントが見えてきました。 

その第一は、「G7」はもっぱら中国を対象にした対抗と対決の会同だったのに対し、「中央アジアサミット」は、他者に対する非難や対決、対立をあおるところが一切ないという違いです。つまり、「G7」は後ろ向き、「退嬰的」と言わざるを得ないのに対して「中央アジアサミット」は、前に向いて「進取発展的」という、まったく正反対のベクトルにあるのです。これは中国がどう動いているかを見る上でとても重要なポイントです。 

軸足は地域に、目は世界へ 

第二に、「基調演説」や「西安宣言」を読んでみると分かるのですが、中央アジアという地域にしっかりと軸足を置きながら、目は広く世界に向けて、世界の平和と発展のためにどう手を携えていくのかという視点が貫かれていることです。「先進主要国」の利益を守ることが全てとなっている「G7」とでは、将来とても大きな違いとなっていくことは間違いないでしょう。 

さらに、「G7の裏番組」という言説の背後にある認識についてです。この「元記者」がG7を「表」、中国中央アジアを「裏」とすることに潜む根深い問題と言ってもいいでしょう。日本においても長く「裏日本」という表現がありましたが、その表現と認識を正していく過程で、実は「裏」とされてきた日本海側こそが、中国大陸、朝鮮半島、さらにはシルクロードを通じてはるかかなたの西方世界との国際交流の「表舞台」だったことを私たちは学ぶことになりました。また、旧来の地政学において、中央アジアは「ハートランド」と語られ、この地域こそが世界の戦略的「心臓部」と位置付けられてきた歴史があることも知っておく必要があります。世界を見る際、旧来の「地政学」的発想に立つものではありませんが、「G7の裏番組」と書くことに潜むおごりと虚ろさを知ることは、世界の構造的認識の本質に関わる問題と言うべきです。 

発展の道と統治モデルの選択 

もう一つ押さえておかなければならない重要なポイントは、「西安宣言」にある「発展の道と統治モデルの自主的選択は一国の主権であり、干渉は許されない」という宣明です。すなわち、世界各国の「行き方」「立ち居振る舞い」は、それぞれの自主的な判断と選択に委ね、他者に対して「押し付ける」ことはしてはならないという認識の重要性です。 

考えるために幾つかの「動き」を挙げてみます。 

すでに触れたことですが、G7の構成国でありながらフランスのマクロン大統領は中国訪問で「台湾問題」では米国とは一線を画することを明らかにしました。その後ドイツ訪問時に「同盟国であることは下僕になることではない。自分たち自身で考える権利がないということにはならない」と語り世界に衝撃が走りました。さらに、「8月に南アフリカで開催される新興5カ国(BRICS)首脳会議にオブザーバーとしての出席を希望している」とAFP通信が伝えた(6月20日)のを目にして、事態はここまできたかと驚きました。 

「中国に対してどのような立場を取ったらよいのか、ドイツと中国の政府間協議でこの問いが再び浮かび上がりました」。ドイツのテレビ局ZDF6月20日午後7時のニュースのオープニングのキャスターのコメントです。李強総理がショルツ首相の招きでドイツを訪問したことを伝えるニュースでのことです。ドイツと中国の貿易が年を追って拡大、成長しているグラフを背にして、キャスターは、中国と経済関係を深めるドイツ国内の産業界の動きについて伝えました。ドイツが米国とは微妙に異なる立ち位置にあることを問わず語りに示したことは見逃すことができません。 

インドネシアのジョコ大統領は広島での「G7」に招かれる際に「私はバイデン米大統領と対話できるし、習近平国家主席とも対話できる。インドネシアはどの国の代理人にもなりたくはない。平和と協力が存在し、皆が繁栄することが必要だ」と語りました(朝日5月19日)。 

挙げれば切りがありません。世界の国々は、それぞれが自分の目で世界の大局を見据え、自らの判断に基づいて、絶妙なバランスを取りながら、それぞれの利益を追求していくのです。他国に号令をかけない、同盟関係で縛らない、そんなパートナーシップによって、共に手を携え、共に前に進む関係を地球規模で多様に生み出し、活力を吹き込んでいく中国の存在が大きな意味を持ってくるのです。 

現代世界の構造的把握と中国 

「G7」と「中国中央アジアサミット」を対比させながら現代世界の構造について考えてきました。ここに述べた世界の構造的把握と認識が「G7後の世界と中国」を捉える上で欠くことのできない大事なポイントになると思います。 

世界は多様、多極化しながら、次の世界のありよう、すなわち、次の世界秩序に向けて一歩々々歩みを進めています。「中国中央アジアサミット」はその鼓動のほんの「一拍」に過ぎませんが、世界で何が大切で、何が人々の琴線に触れるのかを語りかけていると言えます。 

中国の動きから片時も目が離せません。ますます感性を研ぎ澄まし、頭脳をクリアにして、中国を見つめ、中国からの「音」に耳をそばだて、世界の「地殻変動」を知らなければと、これは本欄の筆を執る者としての自戒です。

関連文章