中国・ラテンアメリカ関係に見る新たな世界への胎動

2023-11-30 18:26:00

木村知義=文

十月17、18日、北京で第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが開かれましたが、今号では、「一帯一路」とも密接な相関関係を持つ中国とラテンアメリカ諸国の関係に目を向けて考えてみます。 

「G77+中国」が目指す新時代 

中南米やアフリカの新興国、発展途上国による国連の枠組み「77カ国グループ(G77)プラス中国」が、9月、キューバの首都ハバナで首脳会議を開きました。「G77」は1964年の国連貿易開発会議総会時に、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの77カ国によって発足したグループで、発展途上国の首脳や閣僚が集まって共通の課題を議論したり、先進諸国への要求をまとめたりする活動を重ねています。現在の参加国は130カ国を超えていて、今回の首脳会議には議長国キューバのディアスカネル大統領やブラジルのルラ大統領のほか114カ国の首相や閣僚らが出席しました。 

中国は「主導的な支援国」という位置付けで、習近平国家主席の特別代表として李希中央政治局常務委員が出席しました。会議における李希氏のあいさつに中国の立場が端的に語られているので引いておくと、「現在、世界の発展途上国は絶えず力強く成長しているが、同時に、一部の国が一国主義やデカップリングを実行しているため、発展途上国の正当な発展の権益と空間が深刻に損なわれている。『G77プラス中国』は独立自主を守り、自らを高めるという初心を重ね合わせ、全人類の共同の価値を守り、国家間の食い違いや紛争の平和的解決を堅持し、世界の平和と安定を共に守るべきだ」とした上で、「公平・正義、平等・包容の精神を発揚し、国連の各議題が発展途上国の発展の利益に合致するよう推進し、共に話し合い、共に建設し、共に分かち合うグローバルガバナンス観を堅持し、発展途上国の発言権と代表性を拡大せねばならない」と述べています。さらに、「中国はどんなに発展しても、永遠に発展途上国の大家族の一員である。77カ国グループのメンバーと共に『一帯一路』などの公共財の共同建設の効果を最大限に発揮させ、発展の難題を解決し、共同発展の新時代を共に創り上げていきたい」と語り掛けました。 

CELAC」へバージョンアップ 

言うまでもありませんが中国は、新中国成立以来一貫してアジア・アフリカ・ラテンアメリカ諸国の人々と共にあることを鮮明にしてきました。これらの地域の多くの国はかつて帝国主義による植民地支配によって抑圧、収奪され自立的な発展の道を阻害され苦しんだ歴史を経験しています。それゆえ中国はこれらの地域の人々との連帯、協力を外交の重要な柱に据えてきました。このことを、まず、前提として知っておく必要があります。 

その上で、2008年は中国の中南米政策を大きく画する年となりました。この年、中国政府はラテンアメリカに関する最初の包括的な政策文書「中国対拉丁美洲和加勒比政策文件」(中国のラテンアメリカとカリブに関する政策文書)を発表し、中国とラテンアメリカ、カリブ諸国との間に対等な立場、相互利益、共通の発展に関する包括的な協力パートナーシップを確立し平和的繁栄を目指すという目標を提唱しました。文書の中で「中国とラテンアメリカは遠く離れているが、中国とラテンアメリカの人々の間の友情には長い歴史がある。現在、双方は同じ開発課題に直面しており、理解を深め、協力を強化したいという共通の願望を持っている」と述べて、経済貿易、エネルギー、環境、平和・安全保障、科学技術、文化、教育など広い分野を網羅して協力を推し進めることを示しました。 

そして14年、「中国・ラテンアメリカ・カリブ共同体フォーラム」(「中国・CELACフォーラム」)を設立して、中国とラテンアメリカ、カリブ諸国の協力のための新しいプラットフォームを構築し、中国とラテンアメリカの関係を新たな段階に進めることになりました。さらに16年には、08年の「政策文書」をバージョンアップして、中国とラテンアメリカ、カリブ諸国の包括的な協力パートナーシップを新たなレベルに押し上げ「共同発展の未来を共有する共同体」を目指すことを掲げました。 

こうした展開の中で中国とラテンアメリカ、カリブ諸国との貿易、経済関係が急速な拡大を見せることになり、ラテンアメリカ諸国が次々に「一帯一路」への参加を表明することになりました。 

今年1月、「CELAC」の第7回首脳会合がアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開催されました。習近平国家主席はビデオメッセージを通じて、「CELACはすでに南南協力に不可欠な推進力となっており、地域の平和維持や共同発展の促進、地域の一体化の推進に重要な役割を果たしている」と述べるとともに「中国はCELACと共に、中国―CELACフォーラムの建設を絶えず強化し、中国とCELACの関係が平等、互恵、イノベーション、開放、そして国民の福祉増進をもたらす新時代に入ることを推進していく。ラテンアメリカおよびカリブ海地域のますます多くの国が、中国と協力して質の高い『一帯一路』共同建設を推進し、グローバル発展イニシアチブとグローバル安全保障イニシアチブを支持して参加し、中国と手を携えて中国―CELAC運命共同体を構築していくだろう」と述べました。 

ラテンアメリカ関係の歴史的意義 

こうして中国とラテンアメリカ、カリブ諸国の関係について見ていくと、今回の「G77プラス中国」の成功が偶然ではないことがわかります。 

いま、メディアをはじめ、「グローバルサウス」という言葉を用いて盛んに語る状況になっていますが、昨日、今日の問題ではなく、時間をさかのぼって、世界の構造的認識、とりわけアジア、アフリカ、ラテンアメリカの諸国とそこに住む人々との関係をどう構想し、具体的な努力をどのように積み重ねてきたのかをしっかり見つめてみると、「G77」という国連の下でスタートした枠組みが、なぜ「プラス中国」なのか、しかもそれが、なぜ、130カ国を超える各国の協力と共同発展のプラットフォームとして発展してきたのかの解の一端が見えてきます。 

「中国は最大の発展途上国として、常に発展途上国の側に立ち、発展途上国の共通利益を断固として守り、互恵・ウインウインの実現に努める」と、中国は繰り返し語り続けています。今年6月、「中国の『発展途上国』としての地位をはく奪する法案」を全会一致で可決した米上院外交委員会の「所業」は、深刻ではあっても噴飯ものというべきですが、新中国が成立以来一貫して「発展途上国と共に立つ」という立場を貫いていることと対を成す、自身を「発展途上国」と語ることへの深い理解がいかに重要かを、中国とラテンアメリカ、カリブ諸国との関係を学んでみると痛感します。 

中国がラテンアメリカ、カリブ諸国と積み重ねてきた関係を見つめてみると、世界がどう動き、どう変わっていくのか、新たな世界の在り方に向けての胎動がここにもあると、強く感じるのでした。 

現地時間2023年9月15日、キューバのハバナで開催された「G77プラス中国」首脳会議で演説する、アルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス大統領。世界人口の80%を占める発展途上国と新興国による「G77プラス中国」首脳会議は、新たな世界経済秩序の推進を目指している(vcg)

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