「創新(イノベーション)」の力強さに触れて

2024-12-23 15:42:00

「失敗を恐れない」が力の源泉 

参観に回っているとき、昔のある記憶がよみがえりました。もう7、8年前のことです。日本で仕事をする中国人の友人から、中国から視察に来たという青年2人と引き合わされ食事を共にする機会がありました。 

「視察って、どこに行ったのですか?」「今日は有明のがん研究会病院に行って大変勉強になりました」「何のために病院など回っているのですか」「中国の医療はまだまだいろんな課題を抱えています。どうすれば患者にいい医療を提供できるのか、どんなシステムを作ればいいのか、そのためにはどんな投資が必要なのかを考えているのです」「えっ、投資?!あなた方はどんな仕事、いやどんな立場なの……」と、まあこんなやりとりがあって、彼らが、中国で若く有望なスタートアップを見つけ出して投資家とつないで発展させるという仕事に取り組んでいることが分かりました。こうした世界で実務に携わる人に会ったことがなかったので、聴く話は全て新鮮でした。中でも今もくっきりと記憶に残っている彼らの言葉があります。「中国では、私たちのような若者が何度失敗しても、何度でもチャレンジできるのです。いろんな政策があって支えてくれます。だから失敗を恐れることなく何度でも新しいことに立ち向かえるのです。中国とは、今そういう社会なのです」と確信に満ちて語るのでした。 

今回杭州での参観で何が分かったかと言えば、この「失敗を恐れずチャレンジできる」環境が整えられていることが中国のイノベーションの力強さの源泉となっているということでした。卵の「孵化(ふか)器」とか「保育器」を意味するインキュベーターが制度的に構築されていて、アイデアを持って創業を目指す高度人材がチャレンジできる実験場といえる環境が整えられているのです。なるほど「失敗を恐れずチャレンジできる」、これこそが中国のイノベーションの「秘密」というわけかと得心がいったのでした。そして、そのシステムが杭州などの先進地だけでなく、いまや中国の隅々にまで広がりつつあると言っても過言ではない構図となっているのだと思います。 

「創新」と今後の日中関係 

「大会」には欧米、とりわけ欧州各国からの参加者が圧倒的に多かったのですが、数少ない日本からの参加者の中で福岡県から参加していた方と言葉を交わす機会がありました。 

「中国が高度人材の交流にかける意気込みが分かるだけに、日本側が何を準備できるのか、中国が求める高度人材をわれわれが用意できるのか、あるいは逆に日本のどういう場において中国が求める人材の育成に協力できるのか、日本にとっては難題ですね。加えて、中国の進化、発展のスピードが速く、日本はどんどん置いていかれてしまい、協力できる分野が細っていくのではないかと思います」と語り掛けたのに対し「本当にそうですね」という答えが返ってきました。同時に、この方は「介護」分野に従事している立場で参加したということで、日本は中国に先駆けて高齢社会に入ったので高齢者問題あるいは介護については一日の長があるということ、さらに「介護は座学や書物の知識だけでは解決できない、個別具体にかかわる現場での体験、研修が欠かせないので、介護においては高度人材の交流の可能性はあるのだが……」という話でした。 

このように、高度人材という視点に立って日本に何ができるのかを考えることが、今後の日本と中国の交流、協力を構想する上で非常に重要な視点、テーマになるという示唆を得たのですが、そのためには、いま、改めて、日本の「優位性」はどこにあるのか、どういう頭脳、人材が中国との協力関係構築において力を発揮するのか、意味を持つのか、これを洗い直し、整理してみる必要があるのではないかと感じました。つまり、中国がイノベーションにかける時代的トレンドを的確に読み取って、具体分野、領域にわたって、何が日本として提供、連携できるのか、きめ細かく、一つ一つ吟味検討していく調査研究が大事な課題となっているのではないかと痛感したのでした。 

それにしても中国が「創新」(イノベーション)という言葉を使う背景にどれほどの深く、厚みのある、そして熱い取り組みが重ねられているのか、まさに現在進行形の現場で体感できたことは、これからの日中関係を考える上でとても大きな学びとなったのでした。 

 

 

木村知義 (きむら ともよし)   

1948年生。1970年日本放送協会(NHK)入局。アナウンサーとして主にニュース・報道番組を担当し、中国・アジアをテーマにした番組の企画、取材、放送に取り組む。2008年NHK退職後、北東アジア動態研究会主宰。  

人民中国インターネット版 

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