伝統と現代、地域性から中国を見る
文=ジャーナリスト・木村知義
9月半ばから下旬にかけて、青海省、甘粛省を訪れる研究者やメディア関係者の「考察ツアー」に参加する機会を得ました。訪問・参観の現場に立って、中国を見つめる視角について、またあらためて考えさせられ、発見と触発がありました。今回の旅では、伝統と現代そして地域性という視角の大切さを知りました。この三つの要素が深く関わりながら躍動している中国を体感した気がします。すなわち、最先端のものと古くから守られてきたものが同時に存在する中国の奥深さと、その背後に、広大な中国における地域独特の歴史や風土が脈々と息づいていることを実感したのでした。
西域に現代の先端あり
甘粛省・敦煌の市中心部から有名な莫高窟に向かう道路を走っていたときのことです。はるか右手に望む砂丘の稜線の向こうに白く光る塔の先端がのぞいていることに気付きました。
甘粛省に来る前、青海省・西寧での「座談会」で、青海省の農業、農村振興や生態環境の保護政策の実際について、さらにクリーンエネルギーの取り組みと発展状況について、それぞれの担当部門の責任者から話を聴くことができたのですが、そのなかで、青海省エネルギー局の肖天理さんのお話にあった「太陽光熱発電」システムのタワーだと分かりました。青海省でもこの太陽光熱発電がすでに5カ所で稼働しているということでしたが、こちらは「敦煌首航溶融塩タワー式光熱発電所」でした。敦煌の「溶融塩タワー式光熱発電所」は、中国初の100㍋㍗級光熱発電所で、光るタワー先端部の遠望だけとはいえ、実際に目にして興奮しました。

この光熱発電所については、日本と中国の経済人の懸け橋になると同時に『中国経済新聞』の編集・発行人としても知られる友人のジャーナリスト徐静波氏がつい最近現場を取材して詳細なレポートを発表しています。それによると、「敦煌首航溶融塩タワー式光熱発電所」は、2016年に国家太陽熱発電実証プロジェクトの第1陣に選ばれ、首航高科能源技術股份有限公司が設計・投資・建設を担当、28億元をかけて18年12月に完成、送電網に接続したということです。「西電東送」(西部地域の電力を東部地域へ送る)プロジェクトです。バスの中から遠望した吸熱塔の高さは260㍍、24時間連続発電が可能で年間発電量は3億9000万㌔㍗時、年間35万㌧の二酸化炭素排出削減効果があるということです。発電の仕組みに分け入ると、1万2000枚を超える太陽追尾式反射鏡(ヘリオスタット)が太陽の光を中央のタワーに集め、タワー内の溶融塩を加熱し、この熱を利用して蒸気を作り、タービンを回して発電するというわけです。溶融塩に熱を蓄えることで、暗闇になる夜でも、曇りの日でもさらに雨の日でも安定した発電が可能だというのです。鏡の反射面積は計140万平方㍍以上だということで「スーパーミラー発電所」と言われる所以です。前述の西寧での「座談会」で映し出された画像に、広大な砂漠の中にまるで巨大な銀色のヒマワリが咲いているかのように反射鏡が並んでいるのを見て、その美しさというのか、なにか幻惑的な光景に引き込まれていくような感覚がありました。その中心に立つタワーをバスの中から遠望したというわけです。
そこで、何が現代の先端かです。もちろん、太陽光熱発電というシステムの開発も中国が世界に先駆ける先端的なものであることは言うまでもありません。しかしもう一つ、青海省の座談会で聴いた、われわれもよく知る従来の太陽光パネルによる発電のユニークさです。座談会で「ソーラー羊」という聞きなれない言葉に遭遇しました。青海省には世界最大規模の太陽光発電基地があるのですが、日本の私たちがイメージする太陽光パネル(ソーラーパネル)とは全く異なるコンセプトで設置されています。日本では、山の緑を削り、森を切り拓いて、そこにパネルを並べるというのが一般的で、それゆえに自然破壊が大きな問題として浮上しています。
では「ソーラー羊」って一体何でしょう。これは、荒れ地にソーラーパネルを設置してその下に草を植え緑の牧草地帯としていく、つまり緑化して、そこで羊を放牧して育てるというわけです。こうした環境で飼育されている「ソーラー羊」は2万頭を超えるというのです。日本の太陽光パネルの設置とは全く逆の発想です。ですから太陽光発電プロジェクトが自然エネルギーとして「エコ」であるだけでなく、緑化を進めていくという意味で、より能動的なグリーン化の取り組みとなっています。太陽光パネルの下が緑化されて草を食む羊の群れの画像を見て、発想においても縦横無尽と言える創造性を発揮して前に進む中国の現代化の最前線だと痛感したのでした。まさしく、西域に現代の先端ありでした。
気候変動問題で世界をリード
この稿の筆を進めているとき、習近平主席が国連気候サミットでビデオ演説したことが報じられました。習主席は「今年は『パリ協定』採択10周年に当たり、新たな『国が決定する貢献(NDCs)』を提出する重要な節目でもあり、世界の気候ガバナンスは重要な段階に入っている」として、「第一に、決意を固める必要がある。グリーン・低炭素へのモデル転換は時代の潮流だ。特定の国が逆行しているが、国際社会は正しい方向を把握し、信念を揺るがせず、行動を止めず、力を弱めずに堅持し、NDCsの策定と実施を推進し、世界の気候ガバナンス協力に、より多くのプラスのエネルギーを与えるべきだ。第二に、責任を全うしてコミットする必要がある。公平・公正を堅持し、発展途上国の発展の権利を十分に尊重し、世界的なグリーン・トランスフォーメーションを通じて、南北格差を拡大ではなく縮小すべきだ。各国は『共通だが差異のある責任』の原則を堅持すべきであり、先進国は率先して排出削減義務を履行し、発展途上国により多くの資金と技術支援を提供すべきだ。第三に、協力を深化させる必要がある。グリーン技術と産業の国際協力を強化し、グリーン生産能力の不足を補い、質の高いグリーン製品を世界で自由に流通させ、グリーン発展が真に世界のあらゆる場所に恩恵をもたらすよう努力する必要がある」と指摘するとともに、「2035年までに、中国の経済全体の温室効果ガス純排出量をピーク時から7~10%削減し、さらに優れた成果を目指す。非化石エネルギー消費がエネルギー消費総量に占める割合を30%以上にし、風力・太陽光発電の総設備容量を2020年の6倍以上にし、36億㌔㍗に到達するよう努める。森林蓄積量を240億立方㍍以上にし、新エネルギー車を新車販売の主流とし、全国の炭素排出権取引市場で主要な高排出産業をカバーし、気候適応型社会をほぼ完成する」と語りました(「人民網日本語版」9月25日)。
世界的にも気候変動による影響が深刻化する一方です。青海省、甘粛省で、現場に立って、見て、聴いて得た知見が、習主席から語られた政策論とつながって、今や世界をリードする中国の最前線に触れたことを、あらためて知ることになりました。
息づく伝統に触れて知る奥深さ
今回の旅では、青海省、甘粛省両省でチベット仏教の神髄に触れる機会を得て、この地に暮らす人々の精神性について目を見開く思いがしました。また、社会主義の国・中国のイメージが実にしなやかに広がることを知ることになったのです。
青海省では同仁市にある仁俊画院を訪れました。「同仁」はチベット語では「熱貢(レゴン)」となり夢がかなう金色の谷を意味すると教えられました。ここでは漢、蔵(チベット)、土(トゥ)族など多民族の文化を融合した民族工芸の創作、創造活動が行われていて、とりわけタンカ(チベット仏教の仏画)の制作と人材育成の現場をつぶさに見学することができました。また、西寧市にある青海西蔵医薬文化博物館ではギネス世界記録に登録されている長さ618㍍のタンカの傑作を目の当たりにして圧倒されました。この作品は、400人の作家が4年をかけて制作されたといいます。宇宙をどう捉えるのか、人類の誕生から青蔵高原の成り立ち、チベット仏教から広く仏教について、さらに医学、文化、芸術、民俗など森羅万象の全てが精緻かつ色彩豊かに描かれる巨大な歴史絵巻で、チベット文化の精髄を一望にできるものとなっていました。
敦煌の莫高窟では世界的にも貴重な仏教壁画の数々に感動しました。インド仏教美術の影響が色濃く見られる初期のものから、仏の姿や色彩に中国の文化や芸術的な要素が反映されていく時代の変遷、そこに東西文化の交流が加わって、それぞれの仏画の前で思わず手を合わせてしまいました。

こうして、チベット仏教はじめチベット文化の奥深さに触れて、この地域に暮らす人々の精神性に深く根差す伝統の重みに感じ入ったのでした。こうした心の平安と世の安寧を願い、人を大切にする心のありようが、まさしく中国の歴史、伝統、文化に根差す、新時代の中国の特色ある社会主義の目指すものに通じるのだと思い当たりました。そして、多民族がお互いを尊重し合いながら暮らしてきた歴史の重みも伝わってくるものでした。中国の人々の伝統に根差す精神性を理解することが、今の中国を理解する上でも大事な要素だと、あらためて知らされました。まさに、息づく伝統に触れて知る中国の奥深さでした。
シルクロードが織りなす魅力
敦煌、シルクロードといえば、井上靖さんの小説『敦煌』、平山郁夫さんのシルクロードに関わる作品群などで日本の私たちにとっては夢をかきたてられる憧れの地です。敦煌は、古代シルクロードの要衝であり、中国の漢代以来二千年余りにわたる長い歴史の流れの中で、中華の伝統文明を基礎としながら、遠くペルシャや欧州など他の地域と民族から文明の精華を吸収して、特色ある文化風土を作り上げてきました。
今回の旅では「シルクロード(敦煌)国際文化博覧会」開幕式に参席しました。8回を数える「博覧会」には97カ国と国連教育科学文化機関(ユネスコ)など八つの国際機関から1200人余りが参加して、「文化交流を強化し、文明間の相互学習を促進する」ことを掲げて開催されました。開幕式と合わせ「文化遺産保護モデル事例と敦煌学研究シンポジウム」「人類文化遺産の保護とクリエーティブ産業の知識共有」などのフォーラムはじめ、文化展示会、文芸公演、さらに企業誘致に関わるプログラムなど実に多彩なイベントが繰り広げられました。
国際色豊かな開幕式の会場に座って、あらためてシルクロードが東西の文化、文明の交流において果たしてきた歴史的役割について思いをはせました。開幕式から昼食のためにホテルに戻ったときのことです。エレベーターの前で女性から「どこから来たの」と聞かれたので「ジャパン」と答えたのですが「ワタシはハンガリーからだけど、今とてもハングリー!」とおなかを押さえて言うのには笑ってしまいました。「そりゃ、とても素晴らしいギャグだね」と返したのですが、はるかハンガリーからも参加していることを知り、シルクロードは現代も生きていると実感しました。西域といわれるこの地域が今も人的、経済的交流はじめ広く東西の文明の相互交流において重要な位置を占めていて、シルクロードの歴史が脈々と今に息づいていることを実感できたのでした。さらに、「一帯一路」イニシアチブが豊かに展開していることを、身をもって知ることにもなりました。
伝統と現代、そして地域性という視角から中国の今を見つめてきましたが、今回の旅では、まだまだ語るべきことが多く残されています。それらの知見や触発は、また機会をあらためて、本稿で生かしていきたいと考えます。

木村知義 (きむら ともよし)
1948年生。1970年日本放送協会(NHK)入局。アナウンサーとして主にニュース・報道番組を担当し、中国・アジアをテーマにした番組の企画、取材、放送に取り組む。2008年NHK退職後、北東アジア動態研究会主宰。
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