不確定な世界情勢に 中日、協力強化で対応

2019-03-19 14:10:54

=()国際貿易投資研究所(ITI)チーフエコノミスト江原規由

 

 保護主義や反グローバリズムの台頭、中米貿易摩擦の発生などの影響もあり、世界経済は先行きに不透明感が漂っています。世界銀行の最新の予測(1月8日)によれば、2018、1920年の世界経済の成長率は、それぞれ30%、29%、28%と年を追って減速しているほか、いずれも昨年6月の予測値をそれぞれ0下方修正しています。国別では、世界第1位の経済規模を持つ米国は、それぞれ、29%、25%、17%と減速幅がより大きく、第2位の中国は65%(中国側発表66%)、62%、62%と、米国に比べ変動幅はほぼ横ばいとなっています。昨年、中国は改革開放40周年を迎えましたが、同期間の年平均経済成長率95%と比較すると、その成長率は鈍化していることは明らかですが、世界経済が停滞する中でも、中国の想定する65%前後の成長目標は実現されていることが分かります。ちなみに、第3位の日本はそれぞれ08%、09%、07%です。

 この予測の注目点は、総じて先進国の成長率が低下しているのに対し、新興国、途上国の成長率が伸びている点です。この点、今後、特に新興国が世界の経済成長を支える、すなわち、やや大胆に言えば、国際経済ガバナンスの形成で新興国、とりわけ中国の発言力が強まると見られる点です。

 今、世界は大きな変化の時を迎えつつあります。習近平国家主席が述べた「世界を見渡せば、われわれは今、この100年、見たことのない大きな変革を迎えている」とのメッセージが思い起こされます。

 

公正で客観的なガバナンス

 そんな状況下で、目下グローバルガバナンスの形成で世界をリードする米国と、世界最大の途上国、新興国の中国との間で、未曽有ともいえる貿易摩擦が発生しているわけです。その貿易摩擦の背景原因には、膨大な米国の対中貿易赤字、中国の知的財産権保護、非関税障壁(技術開示等)などが指摘されていますが、突き詰めると、世界は今、グローバルガバナンスの改革の時を迎えつつあるということに尽きるのではないでしょうか。今や、中国は世界最大の貿易生産大国など多くの分野で大国の地位にあります。米国は超大国ですが、むしろ世界最大のソフトパワー大国(注1)として、その時々のグローバルガバナンスの形成に大きく関わってきました。中米貿易摩擦が長引けば、1998年のアジア通貨危機、2008年の世界金融危機に続く10年に1度のゆゆしき事態になりかねないといっても過言ではないでしょう。今年1月、スイスで開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、王岐山国家副主席が、「一国主義や保護貿易主義が広がり、国際的な多国間の秩序が大きな課題に直面している」と述べている通りです。

 さて、中米貿易摩擦の行方ですが、昨年、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたG20(主要20カ国地域)首脳会議での中米首脳会談で、今年1月1日に中国製品2000億分に対する追加関税を10%から25%に上げることを見送る一方、3月1日を期限とする協議を始めることで一致しました。協議がまとまらなければ米国は追加関税を25%に上げる構えを見せています。この点、昨年11月、中国は上海で第1回国際輸入博覧会を開催するなど、米国のみならず、世界との均衡ある貿易拡大の道を模索しつつあることは世界の知るところでしょう。実際、昨年の中国の対外貿易の黒字幅は前年比183%も減少しています。今年1月には、中米貿易協議は次官級と閣僚級協議が実施されています。期限の3月1日までには、貿易協議で中国の指導者がよく言及する「中国の知恵(注2)」と米国のソフトパワーがコラボし、今年の中米国交樹立40周年に花を添えてほしいものです。

 

1月24日、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム年次総会でデジタル技術に関する研究成果を報告し、各国もいち早くデジタル技術を普及するように呼び掛けた阿里巴巴集団(アリババ)の馬雲(ジャックマー)会長(新華社)

 

対米黒字減、対中輸出は増

 経済規模で世界第3位の日本は、現下の中米貿易摩擦にどう関わり、どんな役目が期待されるのでしょうか。財務省の発表によれば、昨年の対外貿易(円ベース)は15年以来3年ぶりに入超となり、対米貿易は出超となっているものの黒字幅は前年比81%減となりました。注目点は、対中輸出が17年比で伸び率こそ鈍化しているものの、それでも68%増となっている点です。

 今や、日本の対世界貿易において、中国は輸出入総額、輸入額で最大の貿易パートナーであり、輸出額でも昨年上半期ベースで見ると、それまでの第2位から第1位になっています。

 昨年の経済実績を前年同期比で見た場合、日本への中米貿易摩擦の影響は、対米より対中のほうが少ないといえるでしょう。この点は、日本の対外投資における対中と対米にも当てはまると見られます。

 

CPTPPは拡大の可能性

 中米貿易摩擦が本格化した昨年に日中関係が大きく改善したことは承知の通りです。この偶然の一致を、世界における新時代の新たな日中関係の構築への伏線と見たらどうでしょうか。

 今年2月1日、昨年末に調印された日本欧州連合(EU)経済連携協定(日欧EPA)が正式に発効しました。13年、日欧は自由貿易協定(FTA)の交渉をスタートさせましたが、食品や自動車の輸出を巡り両者の溝は埋まらなかったところ、昨年、米国が対日、対EUにも鉄鋼、アルミ製品に追加関税を課すと発表したことから、その対応策として日欧EPAの締結が早まったとされています。さらに、昨年1230日には、日本が先導的に推進してきた「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)」が発効(注3)しました。このCPTPPには、17年1月に米国が離脱した「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」の残り11カ国が参加しており、国内総生産(GDP)で世界全体の13%を占める新経済圏の誕生が期待されています。加えて、CPTPPにはタイ、インドネシアと、EU離脱交渉が難航している英国が参加の意向を示しているとの報道(参考消息網昨年1231日)もあり、今後、拡大の可能性が高いといえます。

 さらに、米国不在で日中両国が主導的立場にある「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」では、日中両国が早期締結を強調しているほか、すでに100カ国余りが支持参加する「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」構想では、李克強総理と安倍晋三首相の相互訪問(昨年5月と10月)の成果ともいえる日中両国の第三国市場協力の主要展開先になるとの期待が高まっています。

 日欧EPA、CPTPP、RCEP、「一帯一路」などで日中両国が連携協力強化すれば、新時代の国際経済ガバナンスの形成、そして、中国の提起する公正で客観的なグローバルガバナンスの改革も現実味を帯びてくるのではないでしょうか。

 昨年11月、G20開催時の日中首脳会談で、習主席は安倍首相に対し、「安倍首相はこのほど中国訪問を成功させ、中日関係は新たな段階に入った」とし、「中国は来年(19年)の日本でのG20サミットの開催を支持する」と強調しています。日本でのG20開催は日中連携協力強化にとって「天の時」といえるのではないでしょうか。

 

1 自国の価値観や文化などによって他国を魅了し影響を与え得る能力。

2 中国のソフトパワーが込められている(筆者)。

3 参加11カ国が締結後、参加6カ国の議会の承認をもってCPTPPは発効する。

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