「人類運命共同体」を実感 新型肺炎対策に臨戦態勢

2020-03-19 18:08:54

江原規由=文

 庚子(かのえね)のねずみ年の今年は、1月に元日が2回ありました。1月1日の新暦元日と1月25日の旧暦元日(春節、毎年異なります)です。

 中国経済、伝統、文化の国際化が急速に進む中、特に今年は、春節を意識した国家、人々は少なくなかったのではないでしょうか。こんな見出し――「春節是中国的,也是世界的(春節は中国と世界のものだ)」――が紙面(注1)を飾っていました。

 この点、例えば、在ニューヨーク中国総領事館とナスダックOMXグループが、ニューヨークのナスダック証券取引所で祝春節の「打鐘セレモニー」を共同で行ったことや、BREXIT(英国の欧州連合離脱)で注目される英国で、中英両政財界から500人余りのゲストが参加した春節パーティーが盛大に開催されたこと、日本で「東京スカイツリー」が「チャイナ・レッド」にライトアップされたことなどが指摘できるでしょう。

 中国では、新年といえば春節というイメージが強いわけですが、1月の2回の元日もさることながら、今年は「うるう日」と「立春」がそれぞれ2回(注2)あること、さらに、偶数、左右対称を好む中国人にとって、今年の4月4日、6月6日、8月8日、1010日、1212日がいずれも土曜日となっているなど、2020年は例年にない「巡り合わせ」の多い1年のようです。

 

小康社会の全面的実現の年

 習近平国家主席は、春節祝賀会の演説で、「ねずみ年は干支(えと)の初年であり、新たな始まりを象徴している。(中略)この新たな一年、小康社会(ややゆとりのある社会)を全面的に築き上げ、貧困脱却の難関攻略戦を制し、一つ目の百周年を節目とした奮闘目標を実現し、働きづめの人民が小康生活を送れるという、中華民族が千年以上待ち望んできた社会を現実のものにしよう」と強調しました。今から千年前といえば、中国の宋代に当たります。その宋代と小康社会の一端を現代のわれわれに伝えてくれるのが、当時(北宋時代)の首都開封の清明節(注3)のにぎわう様子を描いた「清明上河図」ではないでしょうか。10年前の上海万博では、ハイテクを駆使し生き生きと動く「清明上河図」が参観者を魅了して、当時の小康社会の一端をうかがわせてくれました。今年は中国にとって小康社会の全面的実現の最終年です。

 今年の春節報道では、「春節経済」の「4文字」が例年になく目立ちました。中国経済における春節のプレゼンスが高まっていることにほかなりません。「春節経済」を一言でいえば、春節になると世界の珍品、高級品などの品々が続々と市場(ネット市場を含む)に並び、お目見えするなど、中国で春節市場が形成されること、さらに、国内外観光に出かける中国人が急増することなどが代表的といえます。そんな春節期間の衣・食・住・行(観光などの外出)・用(消費など)の盛んな様子や高品質化などに、現代の小康社会到来の一端が見え隠れしているようです。このことは、昨年の春節期間に全国小売・飲食業の売上額が初めて1兆元(約16兆円)の大台を超えたこと、観光収入が5000億元(約8兆円)を突破したことなどからも明らかでしょう。

 

現代風「清明上河図」は……

 ところで、現代風の「清明上河図」が描かれるとしたら、どんな絵巻になるのでしょうか。中国経済の発展状況から見てみましょう。国家統計局の発表(1月17日)によると、昨年の国内総生産(GDP)成長率は6・1%増(99兆1000億元=約14兆4000億㌦)と想定内の成長率となったとしています。要点は、1人当たりのGDPが1万㌦の大台(1万276㌦、日本は4万㌦超)に乗ったことでしょう。これについて、「今年の小康社会の全面的実現に向け、さらなる強固な基礎固めとなったことは言うに及ばず、世界の経済発展にさらなる積極的影響をもたらす」(『経済日報』1月18日)などの論評が少なくありません。

 小康社会の視点から昨年の経済・社会実績を見てみましょう。エンゲル係数(消費支出に占める食費の割合)が過去8年連続低下し、前年比0・2㌽減の28・2%(日本は25・7%)となったこと、また、都市人口が全体の60・6%と初の6割台へ、1人当たり可処分所得がGDP成長率を大きく上回る前年比8・9%増の3万1000元(約50万円)となったこと、さらに、都市部新規就業人口が7年連続の1300万台(1352万)となり、登録失業率は前年を下回る3・6%となったこと、農村脱貧困人口が1109万になったことなど、総じて、消費の多様化、庶民生活の改善と、上海万博のテーマでもあった都市化が進んでいることが分かります。習主席が春節祝賀会で言及した「千年以上待ち望んできた社会」の実現に、大きく近づきつつあるといえるのではないでしょうか。 

 

上海万博中国館の動く清明上河図の一風景(写真提供・筆者)

 

一段と進むグローバル化

 今年の春節には、多くの進展、変化、新傾向、そして、大きな巡り合わせがありました。例えば、「舌の上のグローバル化」(アメリカンロブスターなど海外モノ、高級品の飲食が増えたこと)、高品質・優良デザインの国産品ブランド(スマートフォン、白酒、スマート製品など)の消費が正月用品の中で大きなプレゼンスを占めるようになったこと、「逆方向春運」(従来の春節時と異なり、故郷にいる両親が子どもの働く都市部にやって来て一緒に春節を過ごすこと)の増加、春節聯歓晩会(春晩、中国の国民的年越し番組、日本の紅白歌合戦に類似)などでの次世代移動通信システム(5G)やバーチャルリアリティー(VR)といった第4次産業革命を担う新技術の多用、そして、家族水入らずで楽しむ海外旅行が目立つようになったことなどが、今年の春節を飾ったといえます。総じて、今年の春節は消費のグローバル化、多様化、個性化が一段と進みつつあったといえるでしょう。現代に「清明上河図」がよみがえったとしたら、こうした光景が随所に配置されているのではないでしょうか。

 

春節経済への影響を懸念

 さて、今年の春節は、新型コロナウイルス肺炎の国際的拡大というこれまでにない事態に直面し、春節経済をはじめ各方面への影響が懸念されました。この事態に世界保健機関(WHO)は「緊急事態」を宣言しながらも、「中国は並外れた効果的な措置を取っており、多くの面で感染封じ込めの見本となっている」としました。報道などから見て、各国とも今回の新型肺炎の抑制に向けた厳しい措置を採り、中国はまさに臨戦態勢(注4)にあることが分かります。中国は「人類運命共同体」を世界と共に構築しようと提起していますが、今回の新型肺炎に対する中国の対応を見ていると、その必要性が実感できるようです。今後、事の大小はともかく、新型肺炎同様、人類が共同して当たらなくてはならない事態が発生しないとも限らないでしょう。中国の提唱する人類運命共同体とは、一言でいえば、「我中有你你中有我(あなたの中に私が、私の中にあなたがいる)」です。新型肺炎対策との関連でいえば、中国の臨戦態勢と各国の措置を連携させ、どう協力体制を構築していくかということになるでしょう。

 急速に国際化する春節の時期と国際的な拡大が重なったことが、新型肺炎への世界的懸念を増幅させたといえますが、春節時期と新型肺炎との「巡り合わせ」は、目下、世界に台頭しつつある「一国主義」「保護主義」か「多国間主義」「開放主義」か、という問題意識を改めて世界に投げ掛けているともいえるのではないでしょうか。

 

(注)『経済日報』1月29日。

(注2)新暦と旧暦の違いによる。

(注3)春分の日から15日後、日本のお盆に類似。

(注4)例えば、「武漢市長、全力で疫病ストップ戦に勝利する」(新華社通信1月23日)」など臨戦態勢にあるとの報道が目立つ。

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