飛行機で赤ちゃんは泣いてはいけないのか

2018-09-17 11:23:09

 文・写真=須賀 努

  先日成田から台北行きの台湾系航空会社のフライトに乗った。運よく前から2番目の席が取れたのだが、一番前に座ったのは赤ちゃんを抱えた二組の若夫婦だった。離陸の時、その二人の赤ちゃんは大声でよく泣いたが、誰も不満を表明する人はいなかった。正直これが日本のフライトだったら、どうだろうか。実際日系航空会社の機内でスーツを着た男性が「うるさいから静かにさせろ」と言ったのを聞いたことがあり、こういう場面ではちょっと緊張してしまうのである。

実は若い頃、海外赴任に際して、会社は家族にもビジネスクラスのチケットを用意してくれることがあった。いわゆるバブルの時代である。その時幼い我が子を抱えた妻に「悪いけれど、エコノミークラスにして欲しい」と懇願されたのが忘れられない。その理由はビジネスクラスの乗客は、スーツを着た偉いビジネスマンが多く、子供が泣くと睨まれるので、とても嫌な思いをするからだった。

正直筆者も以前はそう思っていたかもしれないし、そんな行動をとってしまったことがあったかもしれない。ただアジアを旅していて、赤ちゃんが泣いてトラブルになったり、いやな感じになることは殆ど見たことがなかった。なぜ日本のビジネスマンはそうなのだろうか。自らの反省も含めて考えるとやはり「子育てへの参加が少ない」ことが挙げられるのではないかと思ってしまう。実際に常に赤ちゃんに接していれば、当然分かるべきことが、何となくしか分らないからではないだろうか。

機内で赤ちゃんをあやす男性

以前息子に言われたことがある。彼らは幼い頃、タイのプーケットやインドネシアのバリなど、アジアの一流リゾート地を何度も旅行していたが、「そんな旅は全く覚えていないし、覚えていてもいいことはなかった」と。親としては良い経験になると思い、連れて行ったのだが、「突然機内のあんな狭いところに押し込まれ、シートベルトで固定され、気圧も変わり、不安定になる。そんなことを赤ちゃんや幼児が望むわけがないだろう」と言われてみれば当然のことかもしれない。旅に連れだしたのは、親の勝手、自分たちのエゴだったかと反省してももう遅い。

アジアで飛行機に乗っていて、もし赤ちゃんが泣いていたら、周囲の多くの人が泣き止むように協力している姿を見ることがよくある。客室乗務員は規定で赤ちゃんを抱っこできないことが多いようだが、女性の乗客は率先してお母さんを補助するなど、見ていてすがすがしい。周囲の暖かさが人を育てるのだな、と思えるのだが、日本では明らかに迷惑な雰囲気になってしまう。

中国でも昔は赤ちゃんをあやす人が多かったが、今はどうだろうか。筆者が見ている限り、中国社会も忙しくなり、イライラしている人も増えていき、赤ちゃんに対する寛容度も以前ほどではないのかなと思ってしまうことがある。むしろ電車などでは皆が小学生ぐらいの子供に気を使い、席を譲っている姿に、「一人っ子」を感じてしまう。

ミャンマーの子守

タイなど東南アジアでは、赤ちゃんや幼児に対する対応が実にスムーズで、特に子供が赤ちゃんをあやすのが上手いと思うことが多々ある。これは兄弟が多い、親戚が多く、周囲にあやす相手が常にいて、慣れている、ということが一番の要因ではないだろうか。自分の幼い弟や妹の世話をすることは、ある意味では人間の原点の一つではないか、と感じる瞬間があり、日本や中国ではこの部分が欠け始めている。

中国も昔は対応がスムーズだったが、今は一人っ子が増え、特に都市部では幼い兄弟の面倒を見ることもなくなってきた。日本でも核家族化の進行の中で、周囲から赤ちゃんが消え、子育て中の母親の負担も増え、相談できる相手もなく、苦しんでいるケースが社会問題化して久しいが、その寛容度はどんどん下がっており、危険だと感じる。

日本では出生率の改善、子供を増やそうと政府が声を挙げているが、様々な理由から結果が伴っていない。その大きな理由は「周囲に大勢の子供がいる環境に慣れていない」からではなかろうか。そして中国も一人っ子政策を転換したが、出生率はそれほど改善していないという話も聞く。単に補助政策などを打ち出すだけでなく、子供に慣れる環境を作り、そして子供を縛り付けないで自由にする感覚を人々が持つことは大切なのであろう、と飛行機の狭い機内で勝手なことを考えてしまった。

 

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