バブル作家

2018-07-31 16:00:13

楊萍=文 砂威=イラスト

 何さんは商売をしていて、省都に仕入れに行く用事があったので、私はついでに作家協会に行き、作家協会の会員証を持って帰ってきてくれるよう、彼に頼んだ。何さんは二つ返事で引き受けてくれた。

 2日後、何さんが省都から戻って来た。彼は作家協会の会員証を私に渡してくれたが、手元にもう1冊持っていた。私がその証明書は誰のかと尋ねると、何さんは、「私のだよ。私も作家証を作ってみたんだ」と言った。

 私は、「作家協会に加入するには条件があって、あなたは一字たりとも作品を発表したことがないのに、作家協会へ加入させてもらえるはずがない。偽の証明書で騙されちゃダメだよ!」と言った。何さんは、「私はあのじいさんが判を押すのをこの目で見ていたんだ。この2冊は同じ印章だろ、もし俺のこれがニセモノなら、あんたのもニセモノだよ」と言った。

 私は何さんの証明書と自分の証明書とを比べてみたが、確かに二つの印章は同じものだった。私は何さんの証明書をテーブルに放り出し、「全くでたらめだ」と言った。何さんは自分の作家証を拾い上げ、「でたらめじゃないよ、あんたは文章を発表しているから300元を払い、私は文章を発表していないから3000元を払う。合理的じゃないか」と言った。

 「でも、文章を一字たりとも発表したことがない人が、どの面下げて作家といえるんだ」と私が言うと、何さんは「これから発表するんだ。結婚だって先に結婚証をもらってから、子どもが生まれるじゃないか。われわれは今やもう同じ船の人なんだよ、馬鹿にしないでもらいたいな」と言った。さらに二言三言やり合った後、私と何さんは不愉快な思いで別れた。私は300元を何さんが立て替えてくれていることすら忘れていて、返していなかった。

 数日後、心を落ち着かせてから、私はお金を持って何さんのところに行った。何さんはちょうどコンピューターの前に座っていたが、私が入ってくるのを見ると、原稿の束を私に見せた。私は「小学校すら出ていないくせに、何が著作だ」と思っていた。しかし、彼の作品を見ると、どの段落も生き生きとしていて流ちょうで、ただ各段落のつながりが悪かった。

 私はびっくりして、「あなたの文章は悪くないじゃないか」と言った。何さんは、「これは全部午前中に書いたんだ」と言った。「え、午前中だけでこんなにたくさん?少なくとも5万字はあるよ」と私はさらに驚いた。何さんは、「それは半分だけだよ、ここにまだある」とさらに大きな束を私に渡した。少なくとも7万字はあった。午前中だけで12万字書くなんて有り得ない。あまりに不可解である。

 私は何さんにどうやって書いたのかと聞くと、何さんは、「すごく簡単だよ。コンピューターの中には何でもあるから」と言った。彼がタタタといくつかキーを打つと、コンピューターのスクリーンに数節の文章が現れ、プリンターがシャッシャッと鳴ったかと思うと2ページの作品が出て来て、全てが3分もかかっていなかった。

 何さんは作文ソフトを買い、その中にはさまざまな物語と描写があって、キー一つで一段落が出て来るので、午前中に数十万字も問題ではないというわけだった。私はとても後味の悪さを感じ、300元を置いて立ち去った。

 この後、2、3カ月ごとに何さんは私に本を1冊送って来て、それらは全て長編小説で自費出版されたもので、内容は全て私が見たあのコンピューターの作品であった。1年余り後、何さんは6冊の長篇小説を出版し、評論家は何さんを作品量が多く速いだけでなく、跳躍式の叙述形式をとり、文壇に新風を送り込んだと称賛した。その年の終わりに省の作家協会が創作成果のチェックを行ったとき、何さんは特別貢献賞を獲得した。

 間もなく、省作家協会の改選が行われ、何さんが作家協会の理事に選ばれた。

 

翻訳にあたって

 中国には多種の証明書があり、それは多くがカード状あるいはパスポートタイプのもので、学生証はもちろんのこと、結婚証というものもある。この結婚証を受け取るのが日本の婚姻届けを出す行為にあたり、縁起のよい日には「結婚証の受け取り」に長い行列ができるようだ。文中に、「その証明書は偽物だろう」と疑う場面があるが、証明書の「偽物」も多く、その精巧さは疑わしいものの、頼めば何でも作ってくれるらしい。また、日本では400字詰め原稿用紙の枚数で数えられる文学作品の分量は、中国においては総字数で数えられるのが普通で、「3万字の本を出版した」などと表現される。(福井ゆり子)

 

 

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