見知らぬ人

2021-07-02 14:48:13


趙向輝=文

鄒源=イラスト

私はこの町の大学に通っているが、彼女が数百㌔離れた別の大学にいるので、毎月最後の週末に汽車に乗ってその美しい女の子に会いに行く。一緒にいる時間を少しでも長くするために、私は夜に乗車し明け方に到着する列車を選ぶ。その二等席の価格も貧乏な私にはちょうどよかった。

今日、切符を見ると、今までの経験からして窓際の席であるに違いなかった。これは一晩列車に乗り続ける人にとって、悪くない場所だ。

23時、列車は定時に発車した。車両の通路を歩いていくと、多くの乗客がうとうとしているのが見えた。私の席には熟睡している中年の男性がいて、真ん中の席には2、3歳の女の子が座り、最も外側にいる中年の女性の胸にもたれてぐっすりと眠っていた。

私はその男を軽く押し、「すいません、ここは私の席なんですが」と言った。男性は眠そうに目を開くと、驚いて、「ああ」とむにゃむにゃと言って、体を起こした。

女性は外側に移動する男性を目で追いながら、「子ども抱くから、座ったら?」と言った。

「子どもは眠らせておくといい、俺は我慢するよ」と言って、男性は座席の下からパンパンに膨らんだナイロン袋を引っ張り出し、通路に座って背中と頭を座席の横に預けた。

私は座って頭を窓にもたれかけ、イヤホンをつけて、音楽を聴きながら寝ようとした。

30分ほど過ぎた頃、女の子が目を覚ました。お母さんが「おしっこ?」と聞くと、娘は「うん」と答え、お母さんは女の子を連れてお手洗いに行った。

男性も目を覚まし、水筒を取り出して水を飲んで、また眠った。

戻って来ると、女の子はまた半分横になり、お母さんの胸にもたれて眠り、男性は一言も口を利かなかった。私はひそかに「この父親はまったくひどいな。母親に疲れたかとも聞かず、代わりに抱っこしようかとか、子どもに水を飲むかとか何も聞かない」と思っていた。

夢うつつで、誰かが私の足を蹴るのを感じ、目を開けると、女の子の足が私の座席の下で揺れていて、規則的に私にぶつかっているのが目に入った。

母親を見ると、すでに背もたれに寄りかかって寝ていた。男性はちょうど通路に立っていて、私が彼を見たのを見て、彼もまた私を見た。

私はその男性が娘の足を引っ込めさせるのではないかと思った。でも待てど暮らせど彼は何の動きも見せなかったので、私は娘の足を指差して、彼に合図した。彼は娘の足を楽にさせてやり、またナイロンの袋の上に座った。

明け方5時、列車は私の目的地の前の駅、「恐竜の古里」自貢市に到着した。男性は荷物をまとめ、降りる準備を始めたが、女性と娘はまだ寝ていて、まったく降りそうにもなかった。

私は、やはりこの男性はいい人なのだ、なるべく長く寝かせておいてあげるために、駅に到着したら女性と子どもを起こそうと思っているのだと考えた。

駅に着くと、男性は荷物を持って外へと向かい、女性と子どもを起こさなかった。私の脳は素早く回転し、「わざとこの娘たちを置いてきぼりにしたのか、それとも本当に忘れたのか? どのみち、降りないわけにはいかないので、まず女性を起こそう」と考えた。

私が女性の腕を押すと、女性は目を開いた。「着きましたよ」と私が言うと、女性は「まだです」と答えた。私が「あの男性と家族じゃないんですか?」と聞くと、女性は、「見知らぬ人です」と答えた。

 

翻訳にあたって

日本では近年多くの夜行列車が廃止され、日本国内で夜行列車に乗る機会はほとんどなくなっているが、中国はとにかく国土が広いため、高速鉄道網が発達したとはいえ、車中で2泊というような長距離列車もいまだ少なくない。そういう列車にはもちろん寝台車があり、一般的には上下二段の4人用個室が「软卧」(一等寝台)、上中下三段の寝台が「硬卧」(二等寝台)となっている。さらに夜行列車であっても寝台ではなく普通の座席のものもあり、座席の柔らかさから、「软座」「硬座」という区別がある。中国の長距離列車では居合わせた見知らぬ人同士で話が弾むことが多く、外国人だと分かると質問攻めにされることも。しかし、中国語の勉強にはもってこいの場ともいえる。 (福井ゆり子)

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