会食

2021-10-29 18:32:03


安諒=文

鄒源=イラスト

春節前、明人は数人の幼なじみと集まる約束をし、家の近くにある、高くも安くもなく、いつも客でにぎわっているレストランを予約した。

明人が先にレストランに到着すると、結婚披露宴をやっているらしく、とてもにぎやかだった。明人が予約したのは個室だったので、にぎやかな中でも静かなところだった。

人がそろい、宴会をスタートしようとした時、突然、謝兄貴の大声が聞こえた。「スマホをいじっているやつは、絶対に写真や動画を撮るなよ」。彼はとりわけ厳しく言い渡した。

「少し大げさじゃない?」と言う人がいた。

「まじで油断するなよ。俺たちのところの処長が元日に外でメシを食い、その席にいた誰かがミニブログにその様子をアップしたんだ。撮ったのは料理だったんだけど、彼の顔と目の前にあるマオタイ(注 : 高級酒)の酒瓶も写っていたんだ。その写真がどういうわけかインターネットで拡散して、上級官庁の調査が入り、経費で落とした飲食代を全て返さなければならなくなっただけでなく、処分を食らってしまい、最近はすっかりしおれて、メシに誘っても悪態をつかれてしまうんだよ」と言った。

謝兄貴もある官公庁の処長で、このような注意はとても効果的だった。果たしてみんなスマホをポケットに入れたり、傍らに置いたりして、それを意味もなく取ろうとする人はいなかった。

酒を2杯飲み干した時、酒をつぎ回っていた劉金が突然顔をこわばらせた。レストランのウエートレスがスマホを取り出したのだ。ウエートレスは、メッセージに返信するだけで、写真は撮らないと慌てて説明した。劉金は「もしまたスマホをいじるなら、外に出て、終わってから来てくれ」とあからさまに言った。ウエートレスは申し訳なさそうに「じゃあ、外に出ます」と言った。

ウエートレスが外に出るなり、劉金は神経質過ぎる、言い過ぎではないかと言う人がいた。劉金は、自分はこれでひどい目にあったことがあると言った。半年前、同僚と食事をし、食べ終わると、地方の番号から電話がかかってきて、彼らが公金で飲み食いした様子を写真に撮ったので、1000元よこせ、もしよこさないなら……と脅されたという。

劉金と同僚は、そのレストランの従業員がこっそり写真を撮ったのだろうと考えた。大してお金は使っていなかったものの、彼らは裁判所で仕事をしており、やはり一歩譲って事を起こさないほうがいいだろうと、要求通りお金を送ったのだという。

「そんな払う必要のないお金を出したのか?」とある人が言った。

劉金は「金で災いを帳消しにしたんだよ、面倒を避けるためだ」と言った。

その場にいた大半が公務員だったので、宴会の雰囲気が少しあやしくなってきた。明人が、今日は個人的な集まりで、自分のおごりだと再三強調しているのにもかかわらず、みんなやはりぎこちなかった。

酒が3回全員につがれた。明人の上着のポケットに入れていたスマホが鳴った。彼は振り返って上着掛けに取りに行った。すると、突然誰かが「撮影しているやつがいるぞ」と叫んだ。

背後はたちまち大騒ぎとなり、彼はまた振り返るとあぜんとした。謝兄貴はうろたえながらテーブルの下に潜り込み、劉金はあっという間にトイレに逃げ込んでいた。さらには手で自分の顔を隠したり、両腕で頭を抱え込んでいたりする者もいた。混乱の極致だった。明人が顔を上げると、個室の扉が開いており、外のホールで高々とビデオカメラを掲げている人がいた。

扉の内側では、ウエートレスが料理を持って呆然と立っていた。

  明人が外に出てみると、ホールでは結婚披露宴が今まさにクライマックスを迎えていた。そのカメラマンはちょうど婚礼のハイライトを撮影するのに夢中になっていて、自分が他人を驚かせていたなんて全く知らないでいた。

 

翻訳にあたって

文中の「ミニブログ」、すなわち「微博」は中国語版ツイッターともいえるもので、LINEに当たるのが「微信」。

中国では、公務員の汚職防止や風紀粛清のために、公費による宴会の取り締まりなどがとても厳しく行われており、この文章では処分対象にならないよう、みんながびくびくしている状況が風刺されている。裏を返せば、それまで公務員は公費で盛んに飲み食いしていたということでもあり、これは日本でも同様の風潮が存在するため、理解しやすいだろう。

日本の披露宴がホテルなどを会場にすることが多いのに対し、中国は大きいレストランが比較的多いため、大きめのレストランを会場として結婚披露宴をすることが多い。また、レストランの個室数も多く、個室の中に手洗い所やトイレがついているものもある。(福井ゆり子)

12下一页
関連文章