「壮大さ」と「きめ細かさ」 両国製造業の特長を生かす道は

2018-03-05 15:50:16

文=陳言

 日立(中国)有限公司産業系統事業統括本部の佐々木一彰総経理は中国に赴任して半年余りになる。彼と中国、日本、ドイツのそれぞれの生産の特長について意見交換した際に、日立の製造部門の一線で30年余り勤務してきた彼は、筆者に、日本とドイツが製造の面では大きな違いはないが、日本と中国の違いははっきりしている、と語った。

 中国語の「博大(壮大さ)」と「精深(きめ細かさ)」という言葉を使えば、中日製造業のそれぞれの特長を形容するのにぴったりではないだろうか。今日、中国製造業の生産規模は壮大で、範囲は幅広く、おそらくどの国とも比較できないだろう。一方、日本企業は「きめ細かさ」という特長によって、世界の製造業強国の中で抜群の地位が保証されている。技術面で中日協力が実現すれば両国企業は中国語で言えば「如虎添翼(虎に翼をつける」、日本語で言えば「鬼に金棒」に変身する。これは考えれば誰でも導き出せる簡単な結論だろう。

 

大規模生産から新段階へ

 三菱ケミカルに勤務している馬氏は、日本の主な電解アルミ工場を見学したことがあり、電解アルミの生産プロセスを熟知している。ところが、山東魏橋アルミ工場へ行って見学した時、その規模の大きさは想像をはるかに超えていると感じた。

 「おそらく私が見てきたアルミ工場の数倍はありました」と馬氏。日本のアルミ工場の生産現場は長さが数百あればかなり大きい方だが、魏橋アルミ工場は長さが数あり、端から端まで休まず急いで歩いても30分はかかり、しかも見学した設備は例外なく新設だった。日本の電解アルミ工場は1980年代に、エネルギー価格のせいですでに生産を停止しているが、山東で馬氏が見たのは、紡織工場の余熱を利用して発電し、またアルミ工場が独自の発電所を持っていた。その上、発電所は何十も離れた場所に位置しており、これと同規模の工場を日本で見つけるのは難しいだろう。

山東魏橋創業グループアルミ電解新材料有限公司の工場で作業中の従業員(東方IC

 馬氏は福建省へ行ってリチウムイオン電池の生産ラインを見た。中国勤務8年になる馬氏だが、想像を絶するという感覚はすでになかった。「生産ラインの長さを言うまでもなく、実験設備や測定装置をちょっと見れば、すぐにどれほどの大きさか分かります」と語る馬氏は数十個の実験設備や測定装置が作業場と一緒に建設されているのを見た。普通の電池工場は一、二カ所の実験室、測定室があって、基本的に工場が稼働している時に使用できるが、福建の工場は生産ラインが自動化され、数千の実験測定人員が生産プロセスを監視し、新材料を開発している。工業生産では、多くの場合、量的変化から質的変化がもたらされるが、中国の質的変化はまず規模でブレークスルーを実現している。

 現在、中国で3年間に生産されるセメントの量は米国が20世紀に使用した量に匹敵している。これは土木工事、都市建設などの面で、中国の建設速度が米国より速く、規模もより大きいことを意味している。鉄鋼も現在、中国の1年の生産量は世界の総生産量の半分に達している。日本の経済団体は中国を訪問するたびに、中国の鉄鋼生産量が世界の鉄鋼業を圧迫している点を指摘する。しかし、今後、おそらく鉄鋼だけでなく、アパレル帽子などの軽工業製品でも、家電でも、重工業の鉄鋼、造船の方面でも、さらに自動車製造や多くの新産業分野でも、世界は中国の存在を意識せざるを得ないだろう。

 中国が産業の製造規模を世界の工業の新しい段階に押し上げた。今後、中国より大規模で、発展速度が速い国はなかなか現れないと思う。

 

驚くべき1億人の同質性

 経産省で、製造産業担当者とモノづくりの特長について話を聞くと、自信たっぷりに日本製品の「きめ細かさ」を強調する。

 中国、米国、欧州各国を問わず、各国の製品にも「きめ細かさ」はあるが、1億人がそろって完全に承認する「きめ細かさ」は簡単に見つけられないだろう。ドイツは当然、「きめ細かい」工業生産能力を保有しているが、人口は日本の3分の2にすぎず、しかもその中に大量の移民が含まれている。ドイツは規模の面で日本より小さく、言語、文化の面でも日本より多様性を持っている。中国のいくつかの省の人口は1億前後だが、省内の文化、生活水準が同質性を持っているところは多くなく、現代化しつつある農業、工業と商業面での省内の格差は非常に大きい。人口の基数が大きく、国土が広いので、国内需要を満足させるためには、まず大規模生産が必要であり、目下の大規模生産は中国の需要にマッチしている。

 日本の匠の精神、「きめ細かな」企業管理、豊富で多彩な飲食生活は日本が工業の現代化を実現して以降、初めて他国の注目を集めるようになった。日本の「きめ細かさ」には1億の人口基礎があり、現代化した工業生産が背景にある。

 中国の「壮大さ」と日本の「きめ細かさ」が結合すれば、中国の「壮大さ」の質的な向上を図ることができ、日本の「きめ細かさ」を飛躍的に量的拡大させることができる。

 

特長の連携に長い道のり

 日本の「きめ細かさ」に対して、多くの中国人は日本旅行や日本製品の購入を通じて知ることが多いが、日本と中国の経済、文化交流に従事している人々は、この中に中日関係改善の道や、両国交流増進の機会を見いだしている。

 政治、外交面で、中日は東中国海、南中国海で対峙しており、解決の端緒を探すのは簡単ではないが、これで経済的、文化的な往来を邪魔してはならない。静岡県で40年近く日中交流事業に従事してきた細美和彦氏は今年1月、上海を訪れ、東京、静岡、北京、天津、上海のさまざまな分野の人々に声を掛け、中日の「壮大さ」と「きめ細かさ」の結合をテーマに議論する場を設けた。

 情報の伝わり方がスムーズでないことは、依然として中日経済交流を妨げる最大の問題点だ。文化的な交流には、数十年の基礎があり、ルートは整備されているが経済交流は中国側の一方的な願望にとどまっている。つまり、中国の企業と地方政府は相互交流を望んでいるが、日本側の企業は必ずしも中国を理解しておらず、また地方自治体も現地企業のために中国企業を誘致し、中国資本を導入する切実な必要性を認識していない。

 細美氏は今のところ、中国の「壮大さ」に日本の「きめ細かさ」をドッキングさせた成功例にお目にかかっていない。どのように中日両国企業がそれぞれの特長を生かして連携していくか。その道の模索には一定の時間が必要であり、その道のりはかなり遠いかもしれない。

 

 

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