動き出す? 「灰色のサイ」 春節が映す新たな変化の予兆

2019-02-02 13:30:34

文=陳言

今年の春節(旧正月)は2月5日だ。中国人はこの日を迎えて初めて、年を越したと感じる。もちろんここ数年、中国人も西暦に倣い、にぎやかにクリスマスを楽しみ、世界の多くの人々と同じように1月1日の正月を迎える。だが筆者の友人たちは、それだけでは新しい年を迎えた気分にはなれない。春節にならないと新しい年が始まらないのだ。

今年も、中国経済界やメディアが中国経済を展望する際に、「ブラックスワン(黒い白鳥)」=確率は低いが、起きたときに市場に甚大な影響を及ぼす想定外の問題と、「グレーリノ(灰色のサイ)」=高い確率で存在し、大きな問題を引き起こすにもかかわらず軽視されがちな想定内の問題を例に、リスクを形容するのが習慣になるようだ。黒い白鳥も灰色のサイも見慣れない動物なので、筆者は今年もこうした言葉を使って中国経済を分析することにいささか隔靴掻痒の感がある。

 

30億人の大移動

「春運」と呼ばれ、「民族大移動」に例えられる春節特別輸送態勢は、今年は1月21日から始まり、3月1日前後まで約40日間続く。国家発展改革委員会などの関連機関が共同発表した「2019年春運業務に全力で取り組むことに関する意見」を読むと、今年の春節期間中の旅行者数は延べ29億9000万人に達し、そのうち、自動車利用者数は同24億6000万人(前年同期比08%減)、鉄道利用者数は同4億1300万人(同83%増)、航空利用者数は同7300万人(同12%増)、水運利用者数は4300万人(前年並み)になる見込みだ。

 

15日、全国の鉄道が列車運行ダイヤを改正した。新しいダイヤによる運行で、輸送能力が約10%向上するとともに、時速35017両編成の復興号が北京-上海間の京滬高速鉄道を走る(東方IC)

鉄道および航空利用者数の急激な増加は、高速鉄道(日本の新幹線に相当)と飛行機がますます中国人の主要な交通手段になっていることを物語っている。とりわけ、高速鉄道の輸送量は現在の約4億人を基礎にますます増加し、1%増加するごとに、他国の年間輸送量に匹敵する延べ400万人ずつ増えることを意味している。もし、高速鉄道という交通手段がなければ、中国で古里に帰って春節を迎えるのは難しくなるだろう。

中国人は毎年、春節が来るたびに古里で新年を迎えるが、その交通手段や荷物から中国経済の側面をうかがうことができる。かつては古里で2、3日を過ごすために、列車で何日も夜を明かすこともあったが、今はそのような状況が減り、多くの人々は当日中、長くても2日あれば帰省できる。昔は大小の荷物を抱えて帰郷し、仕事先に戻るときには古里の土産を持って汽車に乗ったものだが、今ではキャリーバッグ一つだ。スピードアップした交通機関や物流ネットワークの構築によって、中国人の旅行問題は大幅に改善された。今年の春節ではこの変化がもっとはっきり分かるだろう。

 

まだ怒り出していないが…

昨年から、不動産価格の上昇は一部の都市で落ち着きを見せ始めたが、中国のネットメディアが好んで使う表現を借りれば、今年、「灰色のサイ」が現れるのは不動産部門だろう。中米貿易の長期的な見通しは不透明で、このサイはすでに動き始め、人々を脅かしている、と考える人もいる。民間企業家の投資に突然生じる失敗、消費動向の変動、起業熱の減退など、どれも日常的な現象だ。しかし、そのいずれも怒り出す可能性があるサイであり、ひとたび暴れれば、中国経済に巨大な変化を及ぼす。

昨年暮れに北京や上海などで開催されたフォーラムで、たびたび「灰色のサイ」の話が出てきてぞっとしたことがある。中国では野生の「灰色のサイ」を見ることはないが、周囲の人々が一瞬で「灰色のサイ」の被害に遭えば、われわれの周りから信じられるものが一切なくなってしまう。

スマートフォン(スマホ)でタクシーを呼び、勤務時間中に微信(ウイーチャット)で友達と会話し、出前を注文し、遠方のメーカーが制作した商品を買う時、「灰色のサイ」はすでに自分のそばから離れたと感じるかもしれない。民間企業―特に情報技術(IT)分野の企業―が、国民の生活の隅々にまで浸透し、いかなる国営企業も対抗できないことなど、かつてはあり得なかった。不動産企業の中で純粋な国営企業は何社あるだろうか? 不動産が最大の「灰色のサイ」と見なされていた昨年末に中国70の大中都市で調査した結果を見ると、北京、上海、廈門(アモイ)のみ住宅価格が下がり、その他67都市では依然として上昇していた。この現象を「灰色のサイ」が暴走する前の静けさと見るべきか? 状況はそれほど単純ではないかもしれない。

 

中国民間企業を新しい目で

中国経済関係の書籍や論文を読むと、「黒い白鳥」や「灰色のサイ」という単語の前に、「支柱産業」「重点産業」という言葉が繰り返し使われていることに気が付く。筆者の経済学的な理解に基づけば、従来の支柱産業の大まかな範囲は電力、鉄鋼、セメント、金融、エネルギー、通信、土地開発であり、しかも、その主なものは国営企業だった。しかしここ数年、顕在化している生産能力の過剰問題はこれらの分野に集中している。

IT革命が始まって以降、支柱産業の内容は大きく充実し、情報データ、電子商取引(Eコマース)、物流、個人向けサービス、モバイル決済が大きな役割を果たし、かつての金融は現代的なモバイル決済に取って替わられてきている。生活への影響でいうと、モバイル決済が発揮している役割はますます拡大し、より広がる余地がある。これらの産業分野の主な担い手は民間企業であり、彼らは消費のニーズに敏感に反応し、より強大にしたいという衝動をますます高めている。国営企業がこうした非国営企業に対抗し、今後彼らに取って替わるのは容易ではない。

中国の民間企業は今年も発展を続けるのか? その発展の方向は? 中国では政府がすでに多くの分野で民間企業に国営企業と同等の待遇を与えることを明確にしている。言い換えれば、民間企業は以前よりさらにゆとりのある経営環境が与えられるということだ。日本の中国経済研究者や経営者は全く新しい目で中国民間企業の発展の新状況を観察し、分析すべきではないだろうか。

中国人が西洋の人々と異なり、毎年春節を過ごすように、中国には独自の行動様式や発展の道筋がある。春節は毎年巡ってくるが、交通手段は変わりつつあり、行き来する帰省客の手荷物にも変化が現れているように、中国経済にも巨大な変化が起きつつある。

 

陳言(Chen Yan)

日本企業(中国)研究院執行院長。1960年生まれ、1982年南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書多数。現在は人民中国雑誌社副総編集長。

 

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