広大な介護市場で提携を――中国 65歳以上35年に3億人超

2021-09-06 09:43:11

陳言=文

高齢化問題、特に日本の高齢化問題を取り上げる場合、中国のメディアはおばあさんが歩行器を押して、狭い路地を歩いている構図の写真を使いたがる。これは日本の農村か小都市の日常的な光景をイメージしているのだろう。しかし、日本の高齢者は実際にはかなり活力にあふれている。1998年に出版された赤瀬川原平著『老人力』では、高齢化のマイナス面ではなく、高齢者には高齢者の生き方があることをテーマにしている。

一方、中国では農村に行くと、かつては子どもたちがにぎやかに遊んでいたものだが、今は様変わりして、高齢者が黙って木の下に座っているイメージだ。中国の農村でも同じような高齢化問題が顕在化し始めている。

国の政策であれ、企業の経営戦略であれ、今後、高齢者介護産業への傾斜が強まり、中日企業提携による高齢者市場開拓が進むべき方向になることは確実だ。

 

複雑な中国の高齢化問題

国連経済社会局人口部が発表した『世界人口推計2019年版』の予測によると、中国の60歳以上の人口(中国の高齢者の定義は60歳以上)は26年前後に3億人を上回り、35年には4億人超となり、55年にはピークの4億8800万人に増え、全人口に占める割合は35・6%に達する。65歳以上では、35年に3億人を超え、50年には3億6600万人になり、60年に3億9800万人に達してピークアウトする。その時の全人口比は29・83%に達する。

中国の高齢化問題は人口の多寡に限らず、日本に比べてさらに複雑だ。地域別に見ると、上海などの東部地域では大量の若年労働力が絶えず流入しているにもかかわらず、1970年代末にはすでに高齢化社会に入っていた。若年労働力の流入は高齢化の進行を鈍化させただけで、高齢化自体に歯止めはかからず、高齢者人口は依然として増え続けている。上海は他省からの外来人口を戸籍の面から厳格に規制したため、流入可能な外省若年労働力は急減していた。今世紀に入って、上海などの沿海都市の高齢化現象はますます深刻さを増している。これに比べると、大量の若年人口が西部地域から東部に移動しているが、西部地域の高齢化現象が特に目立っているわけではない。

中国は長期間、計画生育政策(一人っ子政策)を実行してきたため、大部分の世帯に子どもは一人しかいない。経済が東部地域から発展し、大量の西部地域若年層が東部に移転し、東北部の若年層も東部に移転したために、西部、東北部の一部地域では、高齢者だけが後進地域に取り残されることになった。こうした地域の高齢者の相対貧困化問題を抱える中国は日本に比べて深刻だ。

東部地域や大都市の高齢化問題が顕在化してから、高齢化対策「健康中国2025」を打ち出し積極的な対応策を取り始めている。企業経営上でも高齢化問題に対応する内容を盛り込んでいる。日本から学べ、日本企業と提携を_という声が中国各地で急に盛んになり、一つの風潮となりつつある。

 

パナソニックと雅達が提携

日本商工会議所に相当する中国企業連合会の朱宏任常務副会長と筆者は、中国社会の高齢化と企業の社会的責任について、何度も意見交換した。彼は今こそこの問題を重視すべき時であり、実際に高齢社会が到来する前に、企業は従業員の福利、社会発展の角度から積極的に向き合うべきだという認識を示した。

彼は「日本は高齢化問題の先進国であり、日本企業の手法はわれわれに手本を示してくれるので、中日企業は良く提携すべきだ」と筆者に語っていた。

今年7月19日、筆者は江蘇省宜興市で開催された「雅達・松下社区メディア発表会」に参加し、中日企業提携の実例を取材した。この社区(コミュニティー、町会)はパナソニックと中国健康事業大手の雅達集団が共同開発している。

パナソニックの社内カンパニー、中国・北東アジア社の本間哲朗社長は19年以降、中国戦略の見直しに着手し、健康・介護面でのソリューション(解決策)を重視する方向に転換し、企業向けのB2B業務を、消費者向けを含めたB2B(2C)に拡大し、パナソニック本来の消費者直結サービスの特長を強化することにした。しかも、市場で消費者にサービスを提供する方式を維持するだけでなく、中国企業(B)を通じて、膨大な中国の消費者に(2C)連携して、パナソニック製品の普及を図ることにした。

この「社区」で筆者は、計1170戸の住宅で照明、システムキッチン、収納ラック、空調を含む各種家電にパナソニック製品が多数採用されているのを見た。しかも、単にパナソニック製品を購入するだけでなく、高齢化社会の需要に基づき、各種製品は健康・介護の概念と有機的に統一が図られていた。

筆者は取材した際に、今後さらに多くの日本企業、中国企業との「高齢者タウン」開拓を考えているか質問した。これに本間社長は「その通りです」と明言した。

さらに彼は「われわれは他社と提携して、中国の消費者に年間1万棟の関連住宅を提供することを目指しています」と付け加えた。パナソニックが中国で行う健康・介護を主要なコンテンツとする住宅建設業務は今後、現在に比べて数倍規模の可能性が広がっている。

 

雅達・松下社区の一角(写真提供・パナソニック)

 

19年比25%増が目標

本間氏は「われわれの中国における事業の成長目標は、会計年度比で21年を19年の25%増にすることです」と語った。20年比ではなく19年比なのは、20年に新型コロナウイルス感染症の影響があったからだ。正常だった19年比で25%増という目標はパナソニックにとってはかなり高い努力目標といえる。

中国の高齢人口の増加速度、社会資本の蓄積などの状況から見て、今日、中国東部地域の宜興などで推進されている住宅建設など高齢化関連サービスはまさに絶好のチャンスが到来している。日本で実践証明済みの介護サービス、関連設備は中国で広大な普及空間が待ち受けている。中国経済は急速に発展してから次第に成熟期に入っているが、日本などに比べると、依然として成長速度が速く、その規模も数倍、数十倍に達している。

筆者は、パナソニックに限らず、情報技術(IT)の日立(中国)公司、NEC公司などが、自らのITソリューションを使って中国の介護事業に参入していると聞いている。

中国の高齢者介護市場は半導体や電池と違って、中米貿易摩擦の焦点でもなく、また一部政治家が行っている中国けん制政策の攻撃対象にもなっていない。この分野の提携には中日企業間に広範な発展空間が広がっている。

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