提携の新ビジョン描こう ワンヘルス、電動自動車、脱炭素

2021-10-20 15:19:12

陳言=

南京・禄口国際空港で7月下旬、新型コロナウイルスの感染者が確認され、数カ月続いていた中国社会の平穏が破られた。筆者は毎月のように南京に行っていたが、しばらく簡単には行けなくなった。南京在住で、筆者とほぼ同年齢の60歳過ぎの女性―中国メディアは「南京老婦人」と称している―が南京から東の揚州に行ったことから、あっという間に揚州の感染者が3桁に増えた。上海や北京、河南などでも感染者が確認された。中国メディア流に言えば、筆者のような「北京じいさん」が北京から出るのはかなり難しい。

幸いなことに、中国の感染症対策は非常に的確だ。筆者が住んでいる団地には感染者は1人もいないので、個人の感染状況を示すスマートフォンの健康コードはグリーン(安全)だ。上海などに行く時に、事前に電子地図で行き先の地域の色を確認しておけば、上海のグリーン地域に行くのは差し支えない。

南京などで感染が下火になったり再燃したりしていた数週間、筆者は上海などを訪ね、数十社の中日企業の経営陣にインタビュー取材し、何度も会食した。北京に戻る前には健康コードがグリーンであることを確認。北京駅を出た後も健康コードをチェックされることなく、無事に家に帰ることができた。

日本企業関係者と接触する機会が増えれば増えるほど、中日企業は新たな提携方式を持つべきで、提携を新たな段階にステップアップすべきだと感じる。

 

経済安保が提携の阻害

  北京などで研究・開発に携わっている中日企業を多く見掛ける。

もともと中国で技術を部分的に現地化することで、製品をより中国市場に適合させてきた日本の研究・開発企業は、今年に入って、突然日本の経済安保の制約を受けることになった。例えば、研究・開発の中にデータ処理、メモリー、加工に関する内容がある場合、日本の技術は中国に持ち込めるのか否か、中国企業と提携できるのか否か、これは現段階では少なくともはっきりとは言えない。

日本の一部の国会議員は2017年に「経済安全保障」の概念を提起し、19年になると日本政府は華為技術(ファーウェイ)排除を明確にし、東芝のフラッシュメモリーであれソニーのスマートフォン用レンズであれ、ファーウェイなどの中国企業に売って良いか否かについて、日本政府の許可が必要になった。ファーウェイ排除は氷山の一角にすぎず、半導体や電池、産業チェーン、先端医療の分野に経済安保の概念を持ち込み、日本企業と中国との関係を断絶することが、一部の国会議員の最終的な戦略目標に違いない。

もし中日国交正常化以前に、両国の貿易が社会制度の違いによる巨大な圧力を受けていたとすれば、今日の圧力は形を変えて、中日経済関係の交流を同じように阻害しようとしている。米国はここ数年、中国と「デカップリング(切り離し)」する経済政策を実施しているものの、経済安保という国家戦略の段階にはエスカレートさせていない。日本が推進している経済安保、関連政策、法律、法令の整備は、現段階ではデジタル経済などの分野での中日交流を阻害するだけだ。だが今後、法律の施行段階に入ると、最終的に中日経済関係のあらゆる分野での交流を阻害することになる。これは容易に予見できる結果だ。

 

交流増やす三つの方向性

第5世代移動通信システム(5G)、半導体、新材料などを含む情報技術(IT)、新型大容量電池の生産技術には、どのくらい中日企業が提携できる余地があるか。筆者が接触した数十の中日企業の関係者の中で、楽観的な結論を見いだすのはすでに難しくなっているようだ。先端技術分野での中日の技術提携は、今後施行される日本の法律や政策の制約を受けて、日本企業の中国における研究・開発の歩みにはすでにブレーキがかかり、将来的に後退する可能性もある。

米国がまだ中国の先端技術分野で完全にデカップリングしていない段階で、日本が率先して研究・開発の分野でデカップリングすれば、今後数年、十数年の中日経済にどのような影響を与えるか。企業とじっくり議論したいところだが、今のところ企業サイドはそれに関する発言を望まないし、そうした発想さえも望んでいない。特に、中国で数十年にわたって研究・開発に関わって来た日本企業の関係者は、中国のデジタル経済を熟知しており、ここ数年、日本が相対的に遅れていることをよく知っている。

日本が中国より先進的であれば、中国企業を排除することで中国の発展速度をある程度遅らせることができるだろう。しかし、中国企業より遅れているならば、中国企業を排除し中国企業との関係を断ち切ることで日本企業を守る役割を果たせるのか。日本企業の研究・開発を鼓舞し、再び中国を上回ることができるのか。これらのテーマを日本企業の関係者と討議していると、一気に雰囲気が重くなり、それまで活発だった議論が急に静かになってしまう。

もう一つ、中日企業が共同で交流を増やす方向もある。それはワンヘルス・モビリティー・カーボンニュートラルの方向だ。本欄でも、中日のワンヘルス分野での提携の可能性については何度も検討してきた。カーボンニュートラルは中日政府共通の政策目標であり、食うか食われるかの競争関係はない。またモビリティーでは、中国は電動自動車(EV)に方向転換しつつあり、EVの販売増加率はガソリン車を大幅に上回り、2030~40年には中国はガソリン車を全面的に廃止する段階と見込まれている。またモビリティーに関して、中国の全体的な方向は純EVであり、水素ガス燃料を大量に使う乗用車の可能性は今のところ見られない。

さまざまな側面から見て、日本は高齢化対策や自動車製造、省エネ・環境保護の分野で先進国であり、関連する技術を持っている。この三つの分野で中国と提携しても経済安保の影響は直接受けず、企業が提携できる可能性がある。

 

9月に北京で行われた中国国際サービス貿易交易会では、新たな健康・保健展示エリアが注目。人気は、声をかけると知りたいツボが光る「スマート針灸銅人」(新華社)

 

新たな提携方式の構築へ

中日の経済交流には、1984年に両国政府により設立された「中日友好21世紀委員会」や、2005年から始まった「中日議会交流委員会」、18年に第16回が開かれた「中日科学技術協力委員会」などがあり、政府の立場から多くの活動を行ってきた。

中日企業の提携には40年余りの歴史があり、関連する方式などは非常に成熟し、中日経済提携は主に企業によって具体的に行われている。今後の新たな提携方式は、双方の企業が共同で模索していかなければならない。化学工業分野の企業家、張和平氏は、長年にわたって日本の化工メーカーと密接な交流を重ねてきた。張氏は、「中日企業はビジョンを描くべきだ。例えば、中日企業提携2030ビジョンは、ワンヘルス・モビリティー・カーボンニュートラルの分野で、双方の社会が許す範囲内でしっかり提携する」という考えを示した。

いま、中日企業はまさに共同で新たな段階の提携ビジョンを構築する時を迎えている。

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