「経済安保」は往来阻む高山 両国の交流はますます困難に

2022-03-22 11:01:33

陳言=文 

3月に入ると中国では「両会」と呼ばれる全国人民代表大会(全人代)と中国人民政治協商会議(政協会議)が開かれ、政治の季節がやって来る。また同月には北京冬季パラリンピックが開催され、北京は冬季オリンピックが開催された2月と同じように国際メディアの注目を集めるだろう。 

今年、国交正常化50周年を迎える中日関係は一貫して中国外交の柱の一つだ。ここで問題なのは、日本が主張する「経済安全保障」政策はこれまで中国メディアの断片的な関心を呼んだが、近年は議論の焦点になっていないことだ。日系企業を取材すると、日系企業はこの政策をかなり重視し、この政策を順守するために中国での事業から撤退するのも仕方ないと考えているように感じられる。筆者は欧米系企業も取材するが、欧米諸国の経済安保政策は日本の姿勢よりもずっと鮮明だが、欧米企業はメディアや政治的なアピールの影響をほとんど受けていない。半導体などの分野での対中投資の拡大や中国における事業の継続的な拡大で、日本企業と大いに異なる。 

中日間の経済安保問題をどう見るべきか、これはメディア報道や日本企業を含む対中経済活動にとって避けて通れない問題だ。日本には日本の経済安保の特徴があり、この特徴を分析しなければ、中日経済の将来に冷静な判断は下せない。 

  

中国をライバルと見る日本 

第2次安倍晋三内閣発足翌年の2013年から、日本は国家安全保障戦略(NSS)を策定し、「積極的平和主義」を主張し始めた。多くの中国人はこの7文字の日本語の意味が分からない。専門家に聞くと、最終的には武力を使用して平和を維持することのようだ。こうした解説が日本語の本来の意味と合致するのか筆者は定かではないが、「笑顔の陰に腹に一物」という印象は否めず、日本がこれまで国際紛争解決で主張してきた方式とはすでに違うように感じる。 

安倍内閣以降の中日関係は、「波風を立てず」というより、安倍氏が大きな穴を掘り、その後の内閣がこの穴に跳び込み、はい出せない、といった方が良いだろう。 

20年に菅義偉内閣が発足すると、突然、台湾問題を持ち出した。台湾海峡の平和と安定を維持しなければならないと言いながら、発言や態度表明の面で台湾独立勢力に対する制約が見られず、この問題における米国との違いが大きいことを感じさせた。 

昨年に岸田内閣が誕生すると、経済安保が政治の目玉となった。鳴り物入りで経済安全保障法制準備室を設置し、今年の日本の立法措置の中で最も注目されるのが経済安保となった。今年年初から岸田首相はバイデン米大統領とのリモート会談で、経済版「2+2」、つまり外務・防衛「2+2」の外に、新たに外務・経済「2+2」の新設を提起した。日本のメディアの大多数が、軍事面だけでなく経済分野でも日本の主要なライバルは中国であり、中国との対峙が政策の主流になりつつあるという認識を示した。 

経済安保の内容は重要物資サプライチェーンの強化、基幹インフラの安全確保、先端技術の育成と支援、特許非公開制度の構築などに集中している。日本のメディアはこうした分野の経済安保強化は中国のテクノロジーのデジタル化レベルの向上、中米対立の激化に応じたものだ、という認識を示した(『朝日新聞』21年11月23日の社説)。米国サイドに立ち、ハイテク分野で中国とデカップリング(切り離し)することが岸田内閣の目標の一つになるだろう。 

  

制約大きいハイテク分野 

20年、新型コロナウイルス感染症が急速に拡大し、中日間の往来に一時停止ボタンが押され、現在まで2年が経過しても、いつ再開するのかは依然としてコロナの終息を待たなければならない。コロナが終息しても、20年以降のさらなる消費の縮小や生産体制の縮小によって、民間交流をそれ以前の状態に戻すのは困難だろう。言い換えれば、中日民間交流の形式や内容などに重大な変化が生じる。 

それでは、経済安保政策の下で、中日は十分な交流ができるのか?メディアの報道から得られる情報は限られているが、持ち合わせている情報から判断すると、経済安保の実施によって、中国と日本の交流は大きく制限され、とりわけ、ハイテク分野では至る所で制約を受ける。もし制限内容の決定過程や制限に対する運用方式を明文化できれば、関連問題の解決は多少容易になるかもしれないが、テクノロジー、特にハイテク産業の発展スピードは非常に速いので、法律・法規であらかじめ制限の枠を設けるのは困難だろう。制限とハイテク産業発展の間の矛盾が絶えず発生するのは必然的であり、経済安保関連法律・法規が関連問題を解決できるかが懸念される。 

中日間の交流が比較的スムーズであれば、問題が起きても解決のチャンネルはあるが、交流が不足している時にはありそうで見当たらない。中日が国民感情の面で疎遠になると、政治・外交面の対峙も少しずつその度合いを高め、意思疎通がスムーズでなければ感情的に相手に対して嫌悪感を抱くようになる。 

今、中日の間に経済安保の高い山を築くことは、両国の交流をますます困難にさせるだろう。 

  

春節(旧正月)の休み明けから、各地の企業は急ピッチで作業を再開した。写真は山東省の紡績企業の作業場(新華社) 

  

日本の優位性を守れるか 

中国と日本の各地を取材旅行していると、山を一つ越えると言葉が違い、生活習慣にも大きな違いがあることに気が付く。これは歴史的に交通の便が作り出した結果だ。人為的に経済安保の高山を築けば、当然、中日の経済往来は阻害される。 

高山の両側の住民生活を比較すると、地理的条件に大した違いがなくても、文化水準や生活水準の違いが大きい場合がある。これは情報収集、外部との交通手段、地方政治の在り方の違いから生まれる結果だ。 

もし20年前であれば、経済安保政策の策定によって、日本のテクノロジーの優位性を守ることができたかもしれないが、特許出願件数、科学研究費予算、産業生産能力などで中国が日本を圧倒的に上回っている現在、果たして経済安保によって日本の優位性を確保できるのか疑問だ。 

ただ残念なことに、「敵基地攻撃能力」を保有する必要が生まれる頃、経済安保は政治そのものに変質し、越えられない心理的な高山になってしまう。今日、日本の政権はまさにこの高山を懸命に築こうとしている。その結果、中日経済交流がかなりのダメージを受けるのは火を見るよりも明らかだ。 

 

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