商機膨らむEV電池市場 資本投入で中日企業に違い

2022-10-01 16:53:21

陳言=文 

トヨタ自動車が中国でガソリン車を販売していることを、日本の消費者は意外とは思っていないだろう。だが、中国の電気自動車(EV)メーカー大手、BYD(比亜迪)が日本でEVを売り出すというと、驚く人が多いらしく話題になっている。 

中国最大で世界第2のEVメーカーであるBYDは今年7月21日、日本の乗用車市場に参入すると宣言した。来年1月以降、3種類の小型スポーツ用多目的車(SUV)を日本で販売する。市場予想価格では、約200万円で購入できる車種もあり、日本の消費者の希望価格にも非常に近い。 

筆者は1990年代に北京非鉄金属研究院を訪ね、電池研究チームのメンバーと懇談したことがある。そのとき、そこにBYDの創設者で現会長兼CEOの王伝福氏がいたかどうかは思い出せない。その後に再訪した際、メンバーが王氏についていつも話しているのを聞き、王氏がBYDを起業し、携帯用の電池事業から自動車用の動力電池へと事業を拡大。さらにEV分野に参入し、一気呵成に、今日では自動車や新エネルギー、軌道交通や電子工学にも進出していることを知った。 

先月号のこの欄で、新エネルギー分野における中日提携のチャンスについて論じた。今月号は、中日の電池分野の研究・開発(R&D)、産業化の方法論が異なり、企業にも独自の特徴があることを指摘したい。 

  

開発競争にしのぎ削る中国 

筆者は2003年に帰国するまで、十数年にわたって日本で産業政策を研究し、中国と日本の研究機関の訪問調査が仕事の一部だった。おかげで、中日の産業政策の相違をこの目で見ることができた。 

日本の研究機関では、1台の電子顕微鏡を数人の研究スタッフが使い、一定の時間内に研究レポートを作成し、産業現場からの関連問題に対する解決策を提出する。こうした手法は、十数年も前から大きな変化はない。 

一方、中国の研究機関は、最初に訪れたときは近代的な設備は見当たらなかったが、1、2年後には、筆者が日本で見た電子顕微鏡よりもっと先進的な機器が何台も並べられていた。研究スタッフも、最初は数人だったのが、瞬く間に研究部に拡大。スタッフも数十人に増え、同じ研究機関内の同僚同士の競争はもとより、他の研究機関ともどこが成果を出すかしのぎを削っている。 

1990年代初め、北京非鉄金属研究院の電池材料研究施設はかなり貧弱で、研究方法も遅れていた。だが現在、深圳 

しんせん 

にあるBYDの本社周辺を歩くと、研究室の設備を見なくても中国企業は規模の面で巨大な変化が起きていることが感じられる。 

電池の生産過程では、材料に対する監視と制御が絶えず必要である。いかなる異物も混入させてはいけないからだ。日本の生産管理面における制御は厳格だが、中国企業の各段階の検査数量の多さと、それに見合った検査設備の先進性は、日本企業が確保するのは困難だろう。 

R&Dのスピードとその投資規模、生産過程の管理方法の面で、中日の企業間には大きな違いがあり、筆者は次のように感じている。中国の産業の膨大な需要に日本的な緻密さは必要だが、もし日本的な緻密さに大量的生産がなく、職人レベルにとどまっているならば、普及は不可能だ。これが日本企業の強大化を困難にしている。 

  

市場が育てる新たな市場 

筆者は90年代、日本で手のひらサイズの無料の携帯電話を使っていたが、中国ではレンガブロックほどの大きい携帯電話を使っていた。しかも多くの人の賃金が月額数百元だった当時、この携帯の価格は1万元以上もした。 

2000年から数年足らずの間に、中国の携帯の年間販売量は数千万台を上回った。10年以降はそれが毎年1億台以上に増加し、携帯の普及によって携帯電池の市場は空前の活況を呈した。当時の中国ではパナソニックやソニー、NECなどのハイエンド携帯電話を見掛けた。また、そこに使われている電池も携帯端末メーカーの製品だった。 

その後、デジタルカメラなど一連のデジタル製品や、電池を動力源とする電動化関連製品が市場に参入すると、電池の需要は中国でさらに広い分野へと拡大し始めた。特にEVは、電池の需要を新たな段階へと引き上げた。この段階でも、当初よく見掛けたのはパナソニックなどの電池だった。 

中国の昨年1年間のEV車の販売台数は320万台を突破した。全世界では約650万台に達している。ところが日本は、10年から近年まで大規模なBEV(バッテリー式電気自動車)市場は形成されず、年間2万台程度のBEV販売台数は、北京や上海でのBEV単月販売台数にも及ばない。市場で電池の飛躍的な発展を迎えた現在、日本国内では電池を使った製品が大量に不足し、日本の電池メーカーが大規模な投資を行っている様子も見られない。 

  

河北省唐山市路北区にあるリチウム電池工場の生産ライン(6月9日、新華社) 

  

世界市場を目指す資本投入 

スーパー電池メーカーの投資はしばしば1兆円以上に達するが、日本企業が一度に巨額資本を電池分野に投入するケースは極めてまれである。 

例えばトヨタは、今後数年の間に1兆5000億円を電池のR&Dと生産に投入する構えだ。しかし1年に1種類平均の電池製品に、最多でも1000億円、2000億円の投入では大規模な投資とはいえない。パナソニックは今年1月、和歌山県に800億円を投じる電池工場の建設を決定したが、世界の主要なスーパー電池工場の規模とは比べ物にならない。 

世界最大手の電気自動車用電池メーカーの寧徳時代(CATL)などの中国企業は、麒麟電池などの新型電池を開発後、迅速に金融市場で資本を集め、ぼう大な生産規模にふさわしい資本需要を満足させた。同時に他のメーカーに生産技術を開放し、技術移転料を手に入れている。さらに自社技術の世界市場でのシェアを拡大し、他の技術を圧倒する主流技術を形成する。 

最も市場のある技術が最終的に生き残り、最も先進的で最も精密な技術は、いかにして市場を見つけ、いかにして市場と結び付けるか――中日企業はこれを探求しなければならない。電池の面で中日両国の企業は巨大な共同創出の空間があるはずだ。 

 

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