挙国体制で技術革新 デカップリング、経済安保に対抗

2023-01-16 16:23:29

陳言=文

10月上旬~11月上旬の丸1カ月、筆者は上海に滞在した。上海人は非常に実務的で、日常生活や仕事に立脚して世界の変化を見る。上海人と国際情勢について意見交換すると、彼らは「デカップリング(切り離し)は米国にどのようなメリットをもたらしたか?」「経済安保で日本経済の回復に何らかの変化が現れたのか?」と疑問を呈する。当然、政治学的な視点から筆者と関連問題について討論した人もいたが、総じて北京とは違うことに気が付いた。もともと中国では、地域的な違いが人々の考え方に大いに影響を与える傾向がある。 

異なる視点からの疑問があると、問題に対してさらに多角的な認識が生まれる。デカップリングと経済安保は政治家の願いかもしれないが、ある産業に対する国家の直接干渉、国家権力の介入がサプライチェーンをばらばらにし、新たな産業組織形態を構築し始めている中、サプライチェーン間の競争やサプライチェーンあるいは産業の存続を決定づける要素はどこにあるのか。これらの問題は必然的に深い思考を呼び起こし、新たな経済(時には政治)の理論的な枠組みの再構築のために新たな問題を提起する。 


山東省徳州市にある半導体材料メーカーのシリコンウエハーの検品風景(新華社)

  

経済安保対象国は中国だけ 

「規模の経済」が経済のグローバル化において巨大な役割を果たすとすれば、デカップリングと経済安保はこれに対するアンチテーゼである。これまで世界的につながっていたサプライチェーンが切断された場合、国内あるいは数カ国間のサプライチェーン再建は狭い範囲内で安定的な経済発展を実現できるかもしれない。あるいはこうした新たなサプライチェーンの構築によって、他国から排除されると―とりわけ中国が―産業において先導的な地位を占めることはできなくなるかもしれない。 

現状のサプライチェーンを切断することについて、米国は極めて安易な「デカップリング」方式を採用し、日本はかなり含みを持たせ、多くの政治用語を使って、日本の「経済安保」問題を語っている。だが日本のメディアは、経済安保の対象国はわずか1カ国であり、それは中国である、と非常に明確に報じている。 

現在言われているデカップリングと経済安保の内容から見ると、半導体、電池、先端医療などの重要産業が主体である。米日はすでに台湾から先進技術を吸収した半導体工場の建設に着手し、日本の建設スピードはかなり速く、恐らく2024年にはミドルエンドの半導体製品を生産でき、日本は脱ローエンドの機会が得られる。しかし、ミドルエンド製品の市場競争力は強いが、企業が最終的に投資を回収できるか、ハイエンド製品に向かって発展していけるのか、技術進歩を実現できるのか、見通しは全く不透明だ。米国の半導体工場はまだ建設中だが、技術スタッフの問題を最終的に解決できるのか否か、業界では明るい展望を描き切れていない。 

半導体チップは主にスマートフォン、第5世代移動通信システム(5G)基地局、自動車(特に電気自動車〈EV〉)、ドローン、工作機械などの分野で使用される。中国は関連製品の生産大国であり、米日は中国市場を放棄し、新規まき直しをして、中国と同規模の市場を探せるのかという点については、今後数年では難しいに違いない。 

半導体を除いて、日本は電池と素材の技術大国である。世界の主要国は35年までにガソリン車の販売を禁止し、ハイブリッド車の販売も禁止する計画で、基本的に乗用車の販路はEVに限定される。しかし、日本企業は技術力があっても、毎年数十億㌦から100億㌦を上回る投資を続けなければ電池生産分野に参入できないと見る人が多い。 

現状では、デカップリングと経済安保によって、米日の半導体、電池産業に活発化の態勢が現れたとはいえない。中国の一部企業--例えば華為技術(ファーウェイ)--にその傾向が見られるが、チップの不足が原因で製品の生産を縮小せざるを得ないのが実情だ。デカップリングと経済安保がもたらしているのは世界経済の収縮である。 

  

投資は半導体チップ生産に 

デカップリングと経済安保路線の下、半導体、電池などの製品のサプライチェーンは、分断されてからどのような形式で新たに構築されていくかにかかわらず、国の政策を利用して、その強力な支持の下、関連産業と製品のサプライチェーンを構築することが、今後数年の世界経済の特徴の一つになるだろう。 

中国のサプライチェーンの修復においては、挙国体制でサプライチェーンの構築を完成することがここ数年の大きなトレンドだ。中国は特に実体経済を重視し、実体経済に重点を置くことを堅持し、新しいタイプの工業化を推進している。製造強国、品質強国、宇宙開発強国、交通強国、インターネット強国、デジタル中国の建設を加速させている現在、半導体チップの生産に対してさらに投資を集中する。 

こうした背景下、半導体チップの市場はさらに拡大し、関連投資はすでにデカップリングと経済安保に対応する局面から抜け出した。それが技術革新、技術進歩およびあらゆる要素の生産性向上における重要な内容になるはずだ。こうした構想があるから、挙国体制によって関連構想を完成することもさらに大きな必然性を秘めている。 

デカップリングと経済安保は中国の挙国体制に教育や人材育成などの面で急速に「大事のために力を集中する」という特性を再び発揮させた。それとともに、強化された行政の機能と巨大な市場メカニズム、ファーウェイなどの民間経済力を緊密に結合して以降、中国経済が外部の制限を突破するための堅固な基礎を築いた。今日、中国が直面している困難は非常に大きいが、1950年代と比較すれば、困難を克服する能力は比べものにならない。 

  

サプライチェーンの強靭化 

今日のデカップリングと経済安保は1950、60年代に米欧日が行った対中技術封鎖の延長のように見えるが、技術内容、市場の将来性、国際貿易などから見て、当時の封鎖、包囲とは大きな違いがある。これらの国々の中国に対する恐怖心や自信の欠如は当時より色濃く映し出されているようだ。 

市場はデカップリングと経済安保の結果を検証した。挙国体制下の技術革新とサプライチェーンの構築は最終的に国際的な規制を突破する決定的な要素だ。目下、中国企業が恐れを感じている状況は見られない。数年後、半導体、電池などの分野で中国のサプライチェーンが強靭化しているかに注目だ。 

 

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