中日米のAI競争 DeepSeekに見る差異

2025-03-31 11:14:00

文=陳言

年の春節(旧正月、今年は1月29日)前後、日本のメディアが中国からの大勢の観光客について報じる中、杭州深度求索人工知能基礎技術研究有限公司がリリースした大規模言語モデルDeepSeek(ディープシーク)が突如ニュースのトップを飾り、たちまち注目の話題となった。だが、すぐさまイタリアなどの国々が相次いでディープシークの使用禁止を発表し、データ面での国家安全保障に関するトピックスが多くの日本のメディアで大きく取り上げられた。その後、日本の投資家と米国企業が人工知能(AI)開発の共同出資事業を開始するというニュースが報じられると、ディープシークに対する日本のメディアの関心はたちまち冷めていった。 

だが、中国や米国などではディープシークに関してますます踏み込んだ報道がなされている。中米の科学技術の競争はAI分野で激しさを増しており、なおかつこの競争は短期間に終わるものではない。中国ではディープシークだけでなく、アリババなどのIT企業もAI分野に進出し、全力で開発に取り組んでいる。 

019年以降、米国を筆頭として、日本を含む多くの国々は中国の民営企業である華為技術有限公司(ファーウェイ)とのハイテク分野における提携を断ち切った。それから5年経った今、ファーウェイの実力が19年当時に比べてむしろ強まったのは、筆者が多くを論ずるまでもない事実だ。また、TikTok(ティックトック)もファーウェイ同様、米国の圧力を受けながらも依然として全世界でユーザーが増え続けている。そして現在、AI分野で似たような状況が生じている。 

日本のメディアは1月から2月にかけて、今後米国で5000億(約78兆円)を投資するという孫正義氏の発表や、ソフトバンクグループとChatGPTの開発運営企業であるOpenAI(オープンAI)による協力などの動向についてたびたび報じた。それに比べ、中日間では当時スタートアップ企業だったアリババへの孫正義氏による投資のようなビッグニュースは絶えて久しい。ハイテク、とりわけAI分野での中日の協力が欠けていることは、中日経済の緊密な結び付きに大きな悪影響を及ぼすだろう。 

日本の失敗から学ぶべきこと 

ディープシークが中国および世界の多くの国々でニュースの焦点となり始めた際、筆者が想起したのは30年以上前の米国における「情報スーパーハイウェイ構想」だ。当時、日米貿易摩擦は激化の一途をたどっており、米国は家電や自動車、半導体などの製造業分野で日本に勝ち目がないことが明白だったため、新たな競争分野を切り開く必要があった。そこで打ち出されたのがビルクリントン政権(1993年1月2001年1月)による「情報スーパーハイウェイ構想」だった。 

折しも1993年から日本の大学の経済研究科の博士課程で学んでいた筆者は、しばしば指導教官と共に米大統領のレポートや米国のさまざまな経済文献、とりわけ「情報スーパーハイウェイ構想」に関する大量の文書を読みふけった。全体的な印象は、米国が「情報スーパーハイウェイ」を構築したとしても、日本との貿易摩擦で優位に立てるとは限らないということだった。 

日本の大学の研究室では96年頃にはすでにインターネットが使われ始め、ノートパソコンも普及し続けていた。学校でも出張先でもパソコンを電話回線につなぎさえすれば、ヤフーメールで中国や世界のさまざまな国の人々と連絡を取ることができ、手紙を書いてポストに投函する必要がなくなった。 

2003年に中国に戻ったのち、米国のグーグルを知ってからも筆者は日本のヤフーの方が使い勝手がいいと感じた。また、筆者はその頃、ヤフーのほかにも登場したばかりの百度(バイドゥ)や新浪をたまに使うようになった。だが、主な情報収集の手段がパソコンからスマートフォンに移り変わって以降、次第にヤフーを使うことがなくなった。気がつくと、米国のGAFA(グーグルアップルフェイスブックアマゾン)が大きく成長を遂げており、中国のBAT(バイドゥアリババテンセント)も日本のヤフーを追い越していた。ITプラットフォーム企業が脚光を浴びる時代に、日本企業の存在感はいつの間にか消え去っていたのである。 

米国の「情報スーパーハイウェイ構想」は自国のITプラットフォーム企業の海外進出を支援した。日米貿易摩擦の思わぬ結果として、米国は製造業分野での日本との競争を避け、ITプラットフォームで空前の成功を収めたのに対し、日本はしばしば言われる「失われた30年」に入っていった。 

ディープシークの衝撃 

日米貿易摩擦の中で得た成功体験から、米国は中国との貿易摩擦でも新たな競争分野を探し出し、再び成功を収めたいと願っている。その明確な方向性は、半導体のハイエンドチップに関する中国との交流を遮断することで米国の計算力の優位性を保ち、AI分野でクローズドソース方式を用いることで技術的リードを守るというものだ。 

最先端のチップが生み出す大きな計算力に加え、名前にはオープンとあるが実際には絶対に技術を公開しないオープンAIのクローズドソース方式により、米国は中国をはるかにリードし、追随を許すことはないと考えていた。だが、ディープシークという聞いたこともない企業が巨額の投資も大量の計算力リソースもない中、モデル蒸留などの高効率なアルゴリズムを採用し、米国の既存のAI技術に見劣りしない性能を実現するとは想像すらしていなかった。最も重要なのは、ディープシークは一部の技術的成果を公開しており、全ての開発者に研究とイノベーションのプラットフォームを提供しているということだ。 

AIの研究開発でオープンソースとクローズドソースのどちらを用いるかは、今後の発展を極めて大きく左右する。実際のところ、ディープシークは確かに米国の株式市場に大きな影響を及ぼしたが、そのオープンソース方式はクローズドソースをメインとする米国のAI企業の急速な成長の機会を長期的に失わせる可能性がある。単なる使用禁止もしくは「国家経済安全保障」を名目とするアクセス遮断では、ディープシークの普及を阻むことはできない。 

ましてや、中国ではディープシーク以外にも相当数のAI技術やプラットフォームが今まさに開発されている。ティックトックが米国の類似のアプリに取って代わられることがなく、ファーウェイが外部からの圧力を受けながらも強くなっていったのと同様に、中国の多くの企業はすでに圧力をはねのける力を備えている。 

日本企業によるITプラットフォーム事業での失敗を教訓とし、中国はAIの研究開発の手を緩めないと思う。中国のAIは今後も製造業とより結び付きを強め、より速く、より人々に恩恵をもたらす方法で非常に大きな役割を果たしていくだろう。 

もう一つ筆者が関心を持っているのは、孫正義氏が発表した米国での巨額の投資および米国企業との協力関係の構築以外に、日本には中国企業とAI分野で協力をする新たな考えやルートがあるのかということだ。さらには、日本が失われた30年から抜け出す上で、AI分野の技術選択が最終的にどのような形で示され、いかなる効果を生むかということにも注目すべきだろう。 

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