米国による高関税下での「解放」「接触」「国難」
文=陳言
米国による高関税政策により、今年の世界経済はますます不確定性を示している。元来、米国による高関税政策は主に中国をターゲットとするものと考えられていたが、今年4月2日(中国時間4月3日)、トランプ大統領は世界のほぼ全ての国と地域に対して追加関税を課すことを発表し、この日を米国の「解放の日」と称した。
トランプ大統領は自らが強力に推し進める関税政策を「相互関税」と称し、この政策は単に米国の巨額の貿易赤字を解消するだけでなく、製造業の米国への回帰を促し、雇用を増加させ、国力を強めるものとしている。トランプ大統領は米国の過去数十年にわたる金融およびIT産業への注力が国内の製造業の深刻な衰退、貧富の格差といった現象を招いたことに極めて批判的で、関税によって米国が抱える大半の問題の解決を図っている。
昨年11月、米国の大統領選挙が終わったのち、人々は世界経済の不確定性をすでにかなりの程度感じ取っていたが、「解放の日」から始まったトランプショックは想像をはるかに上回るもので、さらに際限なく打ち出される関税政策により、世界経済に激震が走った。経済には安定的な政策環境が不可欠で、国家間の貿易額の均衡を保つにしろ、産業の国内回帰を促すにしろ、最も基本となる政策の安定性が失われれば、経済はおのずと動揺と縮小の段階に入る。
日本が新型コロナウイルス感染症に見舞われていた頃、政治家たちはしばしば「国難」という言葉を使ったが、このたびのトランプ大統領による追加関税に対しても、一部の政治家は再び「国難」と称している。この言葉は日本語で一般的に「国家の危機」を示すが、中国語の「国難」の語気はより強く、「国家が存亡の危機を迎えた時」を指す。
米国による高関税政策は本当に「解放」と呼べるのだろうか? 中国は関税政策が打ち出されてから1カ月余りの間、米国と折衝を行わず、5月10日に米国の求めに応じ、スイスで初めて会談を持った。日本は最も早く米国と協議を始めた国の一つだが、具体的結果が出るのは7月以降と目されている。
米国の「解放」
トランプ大統領は外国製品に高関税を課すことを「解放」と称しているが、一体何からの解放なのかということについて、具体的に言及していない。
2017年の第一次トランプ政権誕生時、米国債の発行残高は20兆7300億㌦だったが、今年トランプ氏がホワイトハウスに戻ってきた時には、債務が37兆3600億㌦に膨れ上がっていた。1期目の4年にわたる任期の間に、米国債の発行残高は8兆7100億㌦増加し、バイデンの4年の任期中にも7兆8300億㌦増えた。米国の今年の国内総生産(GDP)は約30兆5000億㌦と見込まれており、国債発行残高は通年のGDPをすでに上回っている。米国の現在の経済成長の状況から言って、今後の債務の返済はほぼ不可能で、米国政治は債務によってがんじがらめになっている。
トランプ大統領が立ち上げた政府効率化省(DOGE)は政府支出を削減したが、巨額の債務に対しては焼石に水でしかない。同時に、米国の来年の軍事支出は12%増となり、1兆㌦に達する見込みで、財政面で非常に大きな負担となるだろう。米国の経済問題を解決する術がない中、トランプ政権は国内の科学研究や大学の独立性に対する攻撃を始め、移民を敵視し、さらには21年1月に発生した連邦議会乱入事件で訴追された者たちに恩赦を与えた。また、国際面では、第二次世界大戦以降に確立された世界秩序を軽んじる行いを繰り返した。これが「解放」だというのなら、米国は安定を実現できないだけでなく、徐々に同盟国を失っていくことだろう。
中国の「接触」
米国は「相互関税」と称して中国製品に34%の追加関税を課し、すでに実施されている関税分と合わせて関税率は72%となり、その後も米国の措置はヒートアップする一方で、対中関税は145%に達した。さらに、一部の分類では反ダンピング税を含め、関税率が最大245%となった。その後、一部製品の関税停止を検討しているとのニュースが伝えられ、このような振る舞いはまさしく際限のない圧力であり、無定見の極みと言える。一方、中国は対米関税を125%に引き上げたのち、米国の関税をめぐる数字遊びの相手をしていない。レストランのメニューを換えるかのごとく税率を変える米国に対し、中国は一貫して、「米国が両国および国際社会の利益を顧みず、関税戦争、貿易戦争を望むのならば、中国は最後まで相手をする」と表明している。それと同時に、中国も自国と米国が関税政策で受ける影響を分析している。
昨年の中国の対米輸出総額は5246億5600万㌦(約3兆8800億元)、同年の中国の小売総額は前年比3・5%増の48兆7900億元で、対米輸出総額は小売総額の8%に相当する。理論的には、小売総額で年4%前後の伸び率をキープしていれば、対米輸出がゼロになったとしてもその大半を内需でカバーできる。同年の中国による米国からの輸入製品の総額は1636億2400万元で、中国の貨物輸入全体の6・3%、国内の工業付加価値と総輸入額の総和の2%を占めた。これはGDPの0・9%に当たる。中国による米国製品に対する関税引き上げが中国の住民の実質所得収入に与える影響は相対的に限られており、中国全体の物価水準への影響も比較的緩やかだ。
また、米国の高関税政策は中国の発展における「国産シフト」を促し、中国の化学工業、自動車、半導体などの分野の企業は好機を迎える。加えて、中国が米国から輸入している農産品、半導体設備、医薬品、旅客機などの注文はそれぞれブラジル、日本、ドイツ、フランスなどに流れ、米国以外の国々に中国市場における発展の新たなチャンスをもたらす。
このことにより、日本はすでに利益を受けている。米国による半導体設備の対中輸出制限措置の強化に伴い、中国は日本からますます多くの半導体設備を輸入するようになっている。18年から24年の間に、日本による半導体設備の対中輸出の規模は倍増した。24年までに、日本が中国の半導体設備の輸入に占める割合は48%に達し、18年に比べて9ポイント増加した。
このような評価の結果、中国は米国との交渉を急がなかったのである。
「国難」を迎えた日本への期待
日本は米国による高関税政策を「国難」と位置付ける一方、中国とは異なって積極的に交渉を模索し、最も早くトランプ大統領や米国の高官と談判を行った国の一つとなった。中国の世論は日本による交渉の結果に深い関心を寄せている。
高関税という「国難」を前にして、中日は協力の実現のための外部環境を持ち得るだろうか? 中国が米国と接触するにしろ、日本の担当大臣が米国に赴いて交渉を行うにしろ、中日の対米政策が異なる以上、両国による外交および経済政策の面での協力の実現には少なからず困難が存在する。
だが、米国が関税という高い壁を築いたのち、世界各国はおのずとその壁の外で新たな貿易体制を構築しており、米国が進める鎖国的な政策は世界の大勢にはなり得ない。中日はいずれも経済大国であり、世界の新たな貿易体制において相応の責任を担う必要がある。
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