IT・AIが変える生活と仕事 新たな消費と需要のチャンス
新年の連休期間中、筆者は例年同様に車で数千㌔にわたって北京周辺の省や直轄市を巡った。
そこで感じた変化の中で最も印象深かったのは、どこへ行っても駐車場で有人による料金徴収をほとんど見掛けず、全て電子決済になっていたことだった。また、山東省では祝日になると、政府機関内の駐車場も一般向けに開放され、誰でも無料で利用できるようになっていた。
北京から北に向かって車を走らせていると、ガソリン車やハイブリッド車を少なからず見掛ける。その一方で、南に向かうほど電気自動車(EV)を目にすることが多くなる。南に向かう高速道路では、パーキングエリアにソーラーパネルが設置されており、車の充電時には蓄電池に蓄えられた電力を優先的に利用することもできるし、むろん通常の電力を選んでも全く問題ない。
寺院を訪れた際には、QRコードをスキャンする音が絶え間なく聞こえてきて、大勢の人々が電子決済でお香や供物を購入していた。数千㌔にわたって走行する中で、時として通信状況が良くないこともあったが、オフライン地図が正確にナビゲーションしてくれたため、筆者は何事もなく目的地に到着できた。

これまでに自ら運転をすることで強く感じていたのは、北京から各地につながる道の広さだったが、筆者が現在より強く実感しているのは、通信環境の整備が進み、地方における情報通信手段が大きく進んでいる点だ。各都市ではもはや紙の広報や告知を見掛けなくなり、スマートフォンさえあればそれぞれの都市に関する最新の情報を見ることができる。情報格差による地域間の隔たりは、今日の中国ではほとんど見られない。
このように、ITは中国人の暮らしを根底から変えており、それが個人の仕事の面で大きな役割を果たしていることは言うまでもない。
ITが生んだ新たな消費動向
中国インターネット情報センター(CNNIC)政策・国際協力所が昨年12月に発表した「デジタル消費発展報告(2025)」によると、昨年上半期の中国におけるデジタル消費の規模は個人消費支出の総額のおよそ半分を占め、力強い発展の原動力と全く新たな消費の特徴を示した。
具体的な数字を挙げると、昨年上半期の中国におけるデジタル消費の総額は、個人消費支出の総額の46・5%に当たる9兆3700億元に達した。ユーザー規模の面では総数が9億5800万人を突破し、ネットユーザー全体の85・3%を占めた。消費構造については、実物商品の消費額がデジタル消費総額の66・3%に及んだ。デジタルサービスに関しては、オンライン教育とオンライン医療が消費額全体の29・2%を占めた。筆者の手元には日本のデジタル消費分野に関する統計データがないが、感覚的に言えば、かつてIT先進国とされた日本は、この分野においてすでに中国と同列に論じるのが難しくなっているように思われる。
IT技術が中国人の消費スタイルに変化をもたらしたことにより、多くの地方では確かに実店舗が減り、一部の店舗では経営が立ち行かなくなる現象すら見られるが、それと同時に店内で食事をする客が少ない飲食店に絶え間なくフードデリバリーの配達員が出入りし、厨房は大忙しという光景も生じている。これは、店内で食べるのと出前の価格が大差ないことから、多くの消費者が出前を選び、自宅で友人などと共にアットホームな雰囲気で食事を楽しむ傾向にあるためだ。また、観光や出張で出掛ける若者の中には、店で食べるのを面倒だと感じてホテルでフードデリバリーを頼む人も少なくない。現在、中国では多くの高級ホテルですら出前の受け取り棚が設けられているが、同様のことは日本ではまず見られない。
博物館ではイヤホンを付け、展示品の横にあるQRコードをスマホでスキャンすると説明を聞くことができ、より詳しく知りたい場合は人工知能(AI)ソフトを使えば、さまざまな映像付きの解説が見られる。
IT技術による消費形態の変化に伴い、デジタル消費は中国人の消費空間を絶えず広げている。
ワークスタイルの変化
世界4大会計事務所の一つであるKPMGが発表した「AIの活用と信頼__2025年KPMGグローバルレポート」によると、中国の仕事の現場におけるAIツールの利用率は93%に達し、世界平均である58%をはるかに上回った。
最近、筆者が会議に参加すると、主催側が筆者の会場での発言の要約をスマホで送ってくることがたびたびあった。内容を確認したのちに主催側に連絡すると、筆者が自宅に到着しないうちに会議の議事録が完成し、そこには解決された問題、現在の状況、今後努力を要する面などがはっきりと記録されており、自宅に戻ってから文書をまとめるために残業をする必要がほぼなくなった。
実のところ、より重要なのは産業面でのAIの利用である。中国情報通信研究院AI研究所の魏凱所長は、「24年の中国におけるAI関連のコア産業の規模は9000億元を突破し、成長率が24%に達した上、昨年は1兆2000億元の大台を超えました」と語る。AIが「賢いツール」から自らタスクを管理できる「スマートパートナー」へと成長を遂げ、大きな生産性革命が中国の産業の各分野で今まさに起きている。
昨年末に開催された中央経済活動会議は、今年の経済活動の政策方針を「安定の中で前進を求め、質と効率を向上させる」と概括し、イノベーション駆動を堅持するとともに新たな原動力の育成に一段と力を入れることを強調した。中国政府が新たな質の生産力の育成・発展を経済の質の高い発展を推し進める重要な手段と位置付ける中、ITとAIはおのずとその戦略的支点となる。
筆者が全国各地を巡る中で目の当たりにしたものとは、新型コロナウイルス感染症収束後の構造調整を経て、昨年からハイテク製造業が力強く成長し、AIや新エネルギー、バイオ医薬といった新興産業が急速に発展を遂げ、経済成長をけん引する重要なエンジンとなっている中国経済の姿である。
モデルチェンジ必要な日本企業
ITとAIの目覚ましい発展は、中国経済のハイエンド設備やコア部品、精密加工、ニューマテリアルなどの分野に対するより多くの新たな需要を喚起しており、これらはまさしく日本企業が優位性を有するところだ。日本の関連技術の中国への導入は、経済安全保障政策の影響により必ずしもスムーズには行われないが、コア部品や省エネ技術といったかねてより強みを持つ工業分野で、日本企業は引き続き中国事業拡大の余地を有しており、中国企業との共同研究開発は日本企業による中国事業のモデルチェンジの新たな方向性となっている。
日本企業が中国経済の現状について認識を深める上でポイントとなるのは、中国へ出張したり、中国で働いたりしている自社の社員だろう。彼らが高速鉄道などに乗り、大都市の周辺を一巡りして感じた市民生活や仕事の中での細かな変化を判断材料とすることで、日本企業は中国経済の先行きを正しく捉えることができるかもしれない。
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