草原のインフルエンサー ライブ配信で貧困脱却へ

2020-07-23 14:30:41

今年初めに突如として猛威を振るった新型コロナウイルス感染症によって、ライブ配信型Eコマース(ライブコマース)は中国でさらなる盛り上がりを見せている。商務部の最新データによると、今年第1四半期の中国国内のライブコマース配信回数は400万を超え、感染拡大防止対策がその発展を加速させた。

蒙古族のアムグランさん(35)は、このライブコマースブームの恩恵を受けている者の一人だ。17年にライブコマースを始めた彼は、今ではハンドルネーム「太平兄さん」として年商500万元以上の人気動画配信者となっている。草原で暮らす彼にとって、ライブコマースは観光の繁忙期と閑散期の影響を受けず、自宅待機期間中も安定した売り上げを保てた。ライブ配信で牧畜民たちの貧困脱却を助けるのが彼の夢だ。

動画配信者「太平兄さん」として有名なアムグランさん(写真提供アムグラン) 

羊飼いから動画配信者へ

 20年前、15歳だったアムグランさんは、生活の糧を得るために内蒙古自治区シリンゴル盟のウラガイ草原にやって来た。家が貧しかった彼は小学校に5年間しか通えず、当時は標準語もうまくなく、生活のために羊飼い、警備員、トラック運転手、コックなどできるものなら何でもやって生きてきた。

2015年、映画『神なるオオカミ』が中国で上映され、映画に登場する果てしない草原、群れをなすウシやヒツジ、野生のオオカミの群れが人々を感動させた。映画のロケ地となったシリンゴル盟には多くの観光客が押し寄せた。この年、アムグランさんは10万元を借金して116平方の店舗を借り、観光地でビーフジャーキーを売り始めた。しかし、「開店から18日目で草原に秋が訪れ、草が黄色くなって観光客は去り、全く商売にならなくなりました」とのこと。初めての起業は、賃料すら払えないほどの赤字に終わった。

草原では観光シーズンのオンとオフがはっきり分かれていることが、アムグランさんの商売を苦しめた。しかしある時、ライブ動画の配信で商品を売ると売り上げが伸びるということを知り、友人に背中を押されてライブコマースに挑戦してみることにした。

だが期待とはうらはらに、アムグランさんの初めてのライブ配信は慌ただしいまま終わってしまった。「17年に初めてライブ配信した時には、5分もたたずに終了してしまいました。小さい頃からモンゴル語を使っていた私は標準語をあまり話せず、視聴者から質問されても、頭にまずモンゴル語を浮かべてからそれを標準語に変換して答えなければならなかったからです」。気まずい雰囲気にしてしまい視聴者に申し訳なく思った彼は、視聴者とスムーズなやりとりができるように標準語の勉強を始めた。「毎日さまざまなライブ配信を見て、視聴者との交流のやり方を学び、普段からなるべく標準語のラジオを聞き、読めない文字があれば字典を引いて調べるようにしました」

アムグランさんのライブコマースで初めて商品を購入してくれたのは東北地方に住む男性で、注文はビーフジャーキー1だった。相手に自分が詐欺師ではないことを証明するため、彼は自分の戸籍簿や身分証明書、家族の名前や連絡先などを全て明らかにした。ライブコマースを始めてもう3年になるが、アムグランさんのライブ配信の人気はどんどん高まり、商品の売り上げも右肩上がりだ。次第にネット販売をビジネスの中心に据え、ライブコマースが彼の仕事となり、「動画配信者」が彼の職業となった。

 

ライブコマースは農民が貧困から脱却する新たな手段となっている(東方IC 

自身をブランド化

5月のウラガイ草原は白い雪に閉ざされた冬から目覚めたばかりだ。新緑が芽生え、母羊が子羊を生み、草原の牧畜民たちの新たな一年はここから始まる。

朝、パオ(蒙古族の移動式住居)から出てきたアムグランさんはショート動画アプリ「快手」のライブ配信を開始し、蒙古族の伝統料理である出来立ての揚げパンを食べながら視聴者に語り掛けた。「ライブ配信をご視聴いただきありがとうございます。今日は草原でビーフジャーキーの炭火焼きを実演します」。ビーフジャーキーは日課のライブ配信の主力商品で、1回で1万元以上を売り上げる。草原の遊牧民の伝統食品であるビーフジャーキーはライブコマースブームに乗って人気が急上昇し、「太平兄さん」印のビーフジャーキーはネットでヒットし、大都市のネットユーザーの間に広く知られるようになった。

この時期のウラガイ草原はまだ観光シーズンではないため、現地の土産物店のほとんどが休業中だ。ライブコマースでの売り上げが伸びるにつれ、草原の特産品の販売は空間と時間の制約を打破し、一年中がオンシーズンとなった。昨年の「快手」において、アムグランさんのチャンネル「太平兄さんのビーフジャーキー」の登録者数は20万人を超え、年商は550万元に達した。

「快手」で人気を博したアムグランさんは、「快手」から中国の名門大学である清華大学で短期研修を受けるチャンスを得た。この研修の経験は彼に大きな影響を与え、今でも彼の言葉の端々からその感動が伝わってくる。この研修により、彼は財務管理を学び始めたばかりか、自分のブランドを立ち上げるという考えを持つようになった。彼は自分のビーフジャーキーに「ムチアル」という名前を付けて商標登録を行った。「『ムチアル』はモンゴル語でグリーン、木の葉という意味です。私の作ったビーフジャーキーは間違いなく健康的で、品質も保証できるという意味が込められています」と彼は語る。

牧畜民に豊かな生活を

「太平兄さん」の名前が有名になるにつれ、ウラガイ草原の牧畜民たちがアムグランさんに自分の手作り商品を紹介してもらおうと次々とやって来た。そのため、「太平兄さん」のライブコマースでは現在、ビーフジャーキーだけでなく現地の牧畜民たちによる手作りの乳製品や羊肉牛肉なども販売している。そのほか、「ムチアル」のビーフジャーキーの売れ行きがますます好調になると、アムグランさんは12人の従業員を雇い、ビーフジャーキー加工工場を立ち上げた。これによって加工作業を集約化できたばかりか、近所の牧畜民たちに安定した仕事を与えることになったが、彼はこれで満足したわけではなかった。

「私は苦しい生活から抜け出て今日に至りましたが、私と一緒に放牧をしていた仲間たちはいまだに羊飼いをしています。だから私はライブ配信の力を使って、みんなを貧困から脱却させたいのです。今は近所の牧畜民たちの特産品販売の手助けをしていますが、彼らが自分でライブコマースができるよう支援したいです。私の村には1万人余りがいますが、今のところ『インフルエンサー』は私だけです。そういう人があと10人いたら、われわれの草原はもっと有名になり、観光客も増え、みんなが豊かになれるでしょう」

 

感染拡大中、Eコマースは生産者に商品の売れ残り問題を解決する新たな視点を提供した(cnsphoto 

草原の日常生活を紹介

ライブ配信を長く続けるアムグランさんは、もはや商品を売るだけでは満足できなくなり、ウラガイ草原の牧畜民の日常生活を配信し始めた。牧畜民たちが野生馬を飼い慣らしたり、羊の赤ちゃんに乳をやったり、ミルク豆腐を作ったりする様子のほか、蒙古族の祭典「ナーダム」や冬の草原に吹きすさぶ吹雪などもライブ配信して、視聴者を楽しませている。配信時には視聴者から、「今何を食べているの?」「後ろにある馬のくらは売り物?」「蒙古族はどうやって縄で馬を捕まえるの?」「ミルクティーの作り方を教えて」などと話し掛けられる。蒙古族の伝統文化に興味を示す彼らの反応に大いに啓発されたアムグランさんは、自分のライブ配信に新たな位置付けを行った。「昨年はライブ配信を見た30004000人のファンがウラガイ草原に訪れました。私は彼らのツアーを組み、一緒に遊んだり、草原の一番美しい風景や伝統的な料理を紹介したりしました。自分のライブ配信を蒙古族の文化発信ブランドにして、ライブ配信を通して蒙古族や草原文化を人々に知ってもらいたいです」と彼は語る。

ライブコマースのほか、彼は蒙古族の草原文化に関する勉強を始め、パオの組み立て方や蒙古族の飲酒マナーなどを人々に紹介するウラガイ草原の観光大使を目指している。(張溪=文)

 

人民中国インターネット版 2020723

 

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