中国アニメで人気の声優 後進育成にも努力重ねる

2021-05-06 15:14:17

 

レコーディングスタジオでラジオドラマを収録中の阿傑さん

 

声優の阿傑さん(本名、張傑)は、2009年から劇場版『名探偵コナン』5作品で工藤新一と怪盗キッドの吹き替えを行っている。彼は吹き替え前には毎回、日本語版の声優、山口勝平さんの演技を細部まで丁寧に研究し、息遣いさえもできる限りオリジナルに近付けるが、セリフをより中国的な表現にするときには新一とキッドがまるで中国人になったように本物の中国語を言わせることもある。

子どもの頃から声に対する感受性が強く、アニメが好きで、吹き替えの演技に特別な関心を持っていた彼は、もともと従事していた旅行業界を離れ、長年の努力を経てウェイボー(ミニブログ)上に400万人余りのファンを持つ有名声優になった。さらに専門の声優事務所「729声工場」を設立し、次世代のスター声優を輩出し続けている。

ネット声優からプロへ

阿傑さんは子どもの頃、アニメを見るのが好きだった。当時、中国は『花の子ルンルン』『スマーフ』などの海外アニメを輸入し始めたばかりだった。彼はこうしたアニメを見て、海外アニメの登場人物がなぜ中国語を話せるのだろうかと思い、声優という職業に関心を持ち始めた。生来耳が良かったため、さまざまなアニメの中から同じ声優の声を聞き取ることができた。「配役が違っても、演技が違っても、同一人物の声であると判断できました。私は不思議に思い、彼らはどうやって声で異なる性格の人物を表現しているのかとずっと考えていました」。こうして徐々に声優になる夢が阿傑さんの心に芽生えた。

大学入試の年、阿傑さんは大学の学生募集要項をくまなく見たが、声優専門の学生募集はどこにも見つからなかった。そこである大学の放送学科を受験した。どちらにしてもマイクの前の仕事だと思ったが、残念なことに面接で不合格となった。その試験問題はニュースをその場で解説するというものであり、これは声で役作りをするという彼がイメージしていた理想とかけ離れていた。その後、彼は自身の夢から徐々に離れていったようで、大学卒業後は旅行社で普通に仕事をしていた。

当時の中国はインターネットが普及し始めており、お金をためてパソコンを買った阿傑さんが最初にやったことは、インターネットに接続し、吹き替え関連の情報を検索することだった。そして見つけたのが、「中国配音網(中国吹き替えネット)」というウェブサイトだった。このような少数の愛好家のためのサイトを見つけられるとは、彼自身思いもよらなかった。そこには吹き替えの専門的な研修コースや最新作の吹き替え映画の情報が数多く公開され、作品情報を共有するコーナーもあり、多くの吹き替え愛好家が自身の吹き替えた動画の一部をアップロードして交流し、切磋琢磨していた。阿傑さんは早速その中の吹き替え愛好家グループと連絡を取った。「皆さんはどのように吹き替えをしているのですか。皆さんと一緒に遊びたいです」と送信すると、相手から「私たちは遊んでいるのではありません。真剣に吹き替えをしているのです」と返ってきた。これを見て、彼らに尊敬の念を抱いた阿傑さんは、「それは良かった。私もそのように考えていたのです」と送った。

阿傑さんは数年間勉強し技術を磨いて、アマチュア愛好家のサークルからプロの声優の世界に入った。テレビドラマのエキストラの声を当てることから始まり、脇役の声を担当し、そして人気テレビドラマの主役の吹き替えをするようになって、彼の自由自在の声は徐々に知られるようになった。だが阿傑さんが多くのファンを持ち、アフレコ業界におけるスターの地位を固めたのは、やはりアニメとゲーム作品のおかげだった。中国アニメ『縁結びの妖狐ちゃん』では主人公の前世のキャラクターを演じ、中国ゲームランキングの2016年「最優秀声優」に選ばれ、『マスターオブスキル』では主人公役を演じ、同ランキングの2017年「人気吹き替え」賞を勝ち取った。

 

729声工場の脚本ミーティング(写真提供729声工場)

 

中国アニメの台頭が活躍後押し

子どもの頃からアニメファンだった阿傑さんが最もやりたかったのは、もちろんアニメ作品の吹き替えだった。しかし、プロになる前の数年間で吹き替えたアニメの数は決して多くなく、その多くはテレビドラマだった。これに関して、彼の印象に残っている出来事がある。2016年に専門の声優事務所「729声工場」を友人と共同設立した阿傑さんは、経験を得るために日本の声優事務所を訪ねた。その事務所の社長に初めて会ったとき、中国で主にどのような作品のアフレコをしてきたか聞かれた彼は、テレビドラマと答えた。すると社長が驚いたように「(中国では)テレビドラマにアフレコが必要なんですか」と聞くので、彼も驚いて「(日本では)テレビドラマはアフレコしないんですか」と聞き返した。

中国では国内ドラマを吹き替えることが常態化している。声優は常に国内ドラマ、海外映画、アニメ、ゲーム、ラジオドラマなどの仕事をいくつもこなす。こうした仕事は阿傑さんにとって上も下もなく、仕事が多くもらえるところで吹き替えをするだけだった。1014年まで、阿傑さんは毎年、テレビドラマ1220作品の吹き替えをしたが、テレビアニメは3、4作品のみだった。しかし中国のアニメ作品の数が増え続け、質も高まるにつれ、15年からアニメのアフレコの仕事が徐々に増え始め、毎年7、8作品のアニメを担当できるようになった。

阿傑さんはこう説明する。「日本は198090年代にアニメの高度成長期を迎えました。初めは有名な声優が数人だけで、彼らの声がさまざまな作品に繰り返し登場しました。その後、こうした状況は少なくなりましたが、それはスターが減ったのではなく、声優の数が増えたのです。今や中国のアニメもまさに爆発的な成長期にあり、声優に多くの機会をもたらしています」

729声工場は中国で大きな成功を収めている声優事務所の一つとして、ここ数年多くの人気若手声優を輩出している。彼らのファンは映画俳優のファンと同様、自分の好きな声優が出演する番組を応援し、関連グッズを購入し、ライブ放送を見る。729声工場が2018年に小規模のファンミーティングを開催したところ、1枚560元のチケット400枚がネット発売開始後数秒で売り切れたのには、阿傑さんも非常に驚いた。

良好な市場の反響と人々の認知度によって、中国の声優業界は長い間待ち望んだ発展の好機を迎え、アフレコやアニメが好きなより多くの若者がこの業界に足を踏み入れられるようになった。729声工場が日本のような声優養成計画を打ち出した時には、1期20人の受講生の募集に500人余りの応募が殺到し、ここからも若者のあふれる熱意が十分に見て取れる。受講生は2カ月間の研修を受け、優秀と認められた者は実習段階に入り、さらに事務所と契約を結べる可能性もある。729声工場はすでに第3期の研修コースを開設し、60人余りの受講生のうち10人が正式に729声工場所属の声優となり、一部はすでに業界内で少し名が知られている。

阿傑さんが中国吹き替えネットに登録した当時、掲示板には1日20人余りしかアクセスしていなかった。それが今では、729声工場がウェイボーにラジオドラマ作品を発表すると、1000以上のコメントがつく。吹き替え(アフレコ)という少数派の内輪の楽しみが徐々にメジャーになり、注目されるようになっている。これはおそらく阿傑さんが最も望んでいたことだろう。(高原=文 黄准=写真)

人民中国インターネット版 202156

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