高速鉄道の運行と安全を保証 完璧な継電器目指す女性技師

2023-01-17 16:19:32

高原=文 新華社=写真

「継電器とは?」と多くの人が疑問に思うだろう。信号制御システムを高速鉄道の「脳」と「中枢神経」とするなら、信号継電器はその中枢神経の効率的な作業を支える「ニューロン」であり、高速鉄道の安全で効率の良い運行を維持する「守護神」だ。信号灯のような小さなものから、駅のコントロールセンターのような巨大なものまで、あらゆる電気回路の切り替えに欠かせないのが小さな継電器だ。非常に重要なパーツのため、生産製造には実名制が採用されており、技師は自分が仕上げた継電器にマークか名前を刻まなければならない。 

瀋陽鉄路信号社は毎年60万台の継電器を生産し、中国鉄道の市場ニーズの70%を満たしている。ここから出荷される継電器の中で、最も多く刻印されている名前が「柯暁賓」だ。 

  

地味で繊細な仕事 

柯さんは継電器試運転員として20年の経験を持つ技師で、中国鉄路通信信号集団の瀋陽鉄路信号社電気設備センター調整3班班長だ。学校を出て継電器というパーツに触れてから、一般の人には退屈そうに見えるが高い集中力を要するこの仕事に従事している。 

継電器の調整は一見単純作業だが、実際はなかなか簡単にはいかない重要な作業だ。継電器にわずかな瑕疵があれば、鉄道の安全な運行に影響する。そのため技師は必ずペンチを使って精妙な力加減と正確な角度でバネを調整し、どんな間違いも許されない。人の手による継電器の調整は世界中の難題で、その精度はロボットをはるかにしのぎ、国内外の企業はみな人力で精度を調整している。 

柯さんは片手に継電器、もう片手でペンチを握り、仕事を始めれば一日中座りっぱなしだ。「継電器には全部で8組の接点と24枚の可動接触片があり、ほとんどの接点間の誤差を005~0以内に収めなければいけません。接触片を調整する力加減は約200マイクロニュートンですが、髪の毛一本を抜く力は1800マイクロニュートンです」 

継電器は左右対称の構造をしているため、右手と左手同時に調整を進めなければならない。技師は両手の調整技術を同じレベルにすることが求められる。柯さんは先輩の崔宝華さんから、眼球の上で手術をするように継電器を調整し、ペンチを動かすたびに細心の注意を払わなければいけないと何度も言い聞かされた。訓練を受けたばかりの頃は大変だったと柯さんは振り返る。毎日同じことの繰り返しで、検品ではじかれるたびに悔しさを我慢していた。調整した継電器が十数日間、一台も検品を通らなかった時期もあった。社内テストでビリから2番目の成績だったこともある。「ペンチを握り続けて手にまめができて、調整しているうちに涙があふれてきました。あの頃はあきらめようかと思ったこともありますが、それでも頑張り続けました」 


継電器を調整する様子

彼女は冷静になり、自分の動作のどこに問題があって、ペンチをより上手に扱うにはどうすればいいか、手の力加減をどう調節すればいいのかよく考えた。調整する両手の力を均一にするため、ハンドグリップを買って指の力を鍛え続けた。継電器の調整には、手先の器用な両手だけでは足りず、「気持ちが少しでも乱れていると、調整した製品に誤差が出るときもあります」と話す。そこで彼女は意識をコントロールするよう努め、全神経を手の中の継電器に集中させた。継電器一つを作り終えた頃にはもう退社時間という日々が続く中、彼女は徐々に精神を集中させるコツを習得した。 

当時、普通の技師は毎日20~30台の調整がノルマだったが、柯さんは40台の作業を自分に課し、毎晩どれだけ遅くなっても作業が終わるまで帰らなかった。そんな日々の積み重ねにより、わずか半年で柯さんは同期の中で最初に生産ラインに立ち、単独で製造できる調整工となった。この作業を担当する技師が一人前になるまで、通常であれば1、2年はかかる。 

  

女性技師の育成心掛ける 

柯さんが勤める会社の継電器組み立て作業場は、中国最大の鉄道信号継電器の生産拠点だ。ここで製造された継電器の半数近くを柯さんが管理する班が調整する。 

2017年12月、柯さんは16人の現場技師を集めて、技術イノベーションチームをつくった。昨年10月までに生産における29の課題を解決し、43のイノベーションの成果を上げ、8件の国内特許を申請した。 

2年前に会社が発売した継電器の新製品は、従来製品と比較して安全性、信頼性、耐用年数いずれも大幅な向上を遂げたが、ある部位の再修理率が非常に高かった。柯さんはチームのメンバーを率いてこの課題に挑み、試験と調整を幾度も繰り返し、その継電器の調整における難関を克服し、再修理率を大幅に下げた。「このことで大いに触発されました。私たち調整工の努力によって、継電器の設計製造におけるあれだけ大きな課題を解決できたのですから……継電器に100%完璧な製品はありませんが、私たちは完璧を目指して努力し続けなければいけません」 

その後、柯さんは調整方法を日に日に改善させていき、調整ラインの「ファーストペンギン」になったばかりか、チームを率いて独創的な調整技術と作業指導法を次々に発表した。世界的に有名な継電器生産企業ウェスティングハウスエレクトリックコーポレーションの専門家が工場の視察に訪れた際、柯さんの調整のやり方を見て、「チャイナミラクル」と連呼した。 

継電器調整作業場の仕事は連日繰り返す単調な内容だ。柯さんは別の技術作業場で働くよう勧められたこともあるが、首を横に振った。「世界に同じ継電器は二つとしてありません。新しい継電器と向き合うのは、新たな挑戦なんです。この仕事は自分の子どものようなもので、心血を注ぎ、愛するほど、離れられなくなります。職場を愛し、仕事に敬意を払い、果敢に革新を進めれば、ありきたりなポストに就いていても、誰でも際立った実績を上げられ、自分の価値を創り出せるのです」 


話し合いをする柯さんのチームと、彼女らが持つ特許証  

柯さんがいる継電器調整の職場は、女性技師の間で引き継ぎが行われる場所でもある。柯さんの先輩の崔宝華さんは、継電器調整部署の優秀な作業員だった。12年、29歳の柯さんは崔さんから調整3班の班長を引き継いだ。その際、平均年齢20歳そこそこの全員女性の班に深く気を配った。班のメンバー同士の付き合い方をよく考え、人付き合いが苦手なメンバーがいれば、彼女の行動を注意深く観察し、積極的に彼女に話し掛け、周囲のメンバーにも彼女の性格を理解させて距離を縮ませ、最終的に班の一員にした。また、単調な調整業務に馴染めず、抵抗感が生まれ、仕事を辞めようとした女性がいたが、柯さんは見捨てることなく根気よく説得した。その結果彼女は抵抗を覚えていた調整という仕事に再び熱中し、徐々に成長して班の中心人物の一人になった。 

この10年間で、柯さんは全国技術熟練者、模範的労働者に選ばれただけではなく、50人近い後輩を育て、うち3人が全国技術熟練者、延べ7人が中央企業技術熟練者に選ばれた。そして調整3班は4年連続で「全国レベルで品質が信頼できる班」の称号を得た。 

21年に発表された「中国女性発展綱要(2021~30年)」では、中国の女性人材の成長を促し、高度専門技術者における女性の割合を40%にし、女性労働者の職業技能レベルを向上させなければならないと打ち出されている。柯さんの班の実績を見れば、第一線で働く女性技師たちがこの未来に向かって着実に前進していることが分かる。 

柯さんは意気込みを語った。「これまで私たちは京張(北京張家口間)、京滬(北京上海間)などの高速鉄道プロジェクトや、ジャカルタバンドン高速鉄道、中国ラオス鉄道の建設をサポートし、ありきたりな職場から国の発展のために微力を尽くすことができました。中国の高速鉄道が急成長する時代を生き、自分の職場から中国の高速鉄道のために力を注げることをたいへん光栄に感じています。自分の能力に磨きをかけていっそう熟練するだけでなく、より多くの人に技術を伝えていきたいです」 

 

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