農村で高齢者向け食堂 ぬくもりまで無償提供

2023-12-19 14:43:00

高原=文 

高齢化が進行し続ける中、シルバー産業も中国各地で盛んになり始めている。2000年以降、高齢者の生活を支えるコミュニティー食堂(高齢者向け食堂)が立て続けに多くの都市でつくられ、安さとおかずの品数の量で多くのサラリーマンも利用している。だが農村では、独居老人向けの食事サービスのリソースが依然不足しており、それゆえに各地では農村の高齢者向け食堂の設立を模索し始めた。19年から山東省威海市(地級市)の栄成市(県級市)で「ぬくもり食堂」が次々につくられ、地域住民がボランティアで高齢者に無料で昼食を提供するという有益な試みが行われている。 

にぎわい取り戻した老人たち 

大荘許家村では、「ぬくもり食堂」のボランティアたちが村の高齢者たちの昼食の準備に取り掛かっていた。ボランティアの許凌潔さんはこう話す。「みんな朝から大忙しです。お年寄りの食事はしょっぱすぎてはだめで、栄養バランスを考えないといけませんし、料理は少し柔らかめにしないと消化に悪いですから」。「ぬくもり食堂」の「専属料理長」である彼女は、高齢者好みの味付けを熟知している。 

正午近くになると、村人の許慶夕さん(83)が数人の高齢者と共に食堂にやってきた。食事前の15分間が食堂が一番にぎわう時間帯で、ときにはボランティアが出し物をしたり、高齢者たちが一緒に最新のニュースを見たり、村内の新しい出来事を話し合ったりする。 

しばらくするとテーブルに食事が並べられた。この日のメニューは手作りギョーザ、蒸し饅頭(マントウ)、魚の唐揚げ、セロリと豚肉の炒めもの。彼らは温かい料理を食べながら、実際の変化を身をもって感じていた。村の若者が大勢出稼ぎに行ったため、多くの高齢者が「独居老人」となった。王桂芝さん(87)はこう語る。「これまでは家で1日1回しか食事を作らず、残り物ばかり食べていました。今では一切お金を出さず、毎日さまざまな料理が食べられますし、食事の前には楽しい演目まで見られます」。彼女の言葉は多くの高齢者の心の声を代弁している。農村では、健康上の理由で身の回りのことができなかったり、面倒を見てくれる子どもが近くに住んでいなかったりして、独居老人の毎日の食事の確保は生活上の問題になっている。そこで栄成市は農村の独居老人の食事問題を解決し、介護サービス業の発展を最重要任務とし、「信用管理+ボランティアサービス」という形態で「ぬくもり食堂」を運営し、80歳以上の高齢者や独居老人、障害者らに無料で昼食を提供している。今年までにすでに518軒のぬくもり食堂が設立運営され、市内の65%の村をカバーし、農村の高齢者1万5000人の食事問題を解決した。 

ボランティアで節約 

中国には「器用な嫁でも米がなければご飯は炊けない」ということわざがある。お金を一銭も取らないぬくもり食堂の長期的な運営の背後には多額の資金援助が必要だ。食堂の場所は村から無料で提供されるが、人件費や食材費も小さな額ではない。特に経済基盤が弱い農村ならなおさらだ。しかし栄成市のぬくもり食堂は財政投資にほとんど頼らず、農村の信用体系に立脚し、人々がボランティアに参加するよう全力で後押しし、食材の準備から調理、加工、そして食事までの流れを全てボランティアの手でまかなっている。多くの村で有名な「いいおばあちゃん」「いい嫁」「いい妻」が率先して食堂を手伝い、それが他の村人を刺激した。ボランティアはたいてい3~5人一組で、おのおの週に一度参加し、肉料理2品野菜料理1品に汁物がついた食事をつくり、一週間の献立はかぶってはいけない。村人の参加を奨励するために、各村では独自の村民規約を設け、ポイント制度を明確にした。家庭ごとの信用ポイントファイルをつくり、ポイントと村人の福利厚生などを紐づけし、村人がボランティア活動に参加するたびに相応の信用ポイントが加算されることにより、「誰がやるのか」という問題を解消した。 

 そして食材の準備に関して、各村は「ぬくもり食堂菜園」をつくり、季節ごとの野菜や果物を植えて、同じようにボランティアに世話を任せ、食事内容を充実させた。ある村では余剰作物を加工して販売することで得た収入で食事を改善している。 

 栄成市から100余り離れた乳山市の騰甲荘村のぬくもり食堂は夜になると「うちの村の串焼き店」に変わり、その収入で食堂を補助している。串焼き店もまた同様に村人のボランティアでまかなっている。4時間を1単位とし、信用ポイントが5ポイント加算される。開業して3カ月、この店のボランティアに参加した村人は延べ900人に上る。この店の責任者の孫肖琳さんはこう話す。「1日300人以上訪れ、夜8時以降に来られたお客さんはだいたい待ってもらうことになります。地元住民の他に、文登や栄成の市民たちも評判を聞いて車で駆け付けます」。数カ月分の売上で、食堂の年間支出をカバーできるという。 

その人に合った食事提供 

栄成市では各村の状況に合わせてぬくもり食堂が村レベルの互助、集団給食、弁当などのさまざまな形態に発展した。村レベルの互助とは各村が運営を主導し、村人が食堂で料理をつくり、食事を取るということだ。集団給食とは経済条件が良くない村を対象にしたもので、村は食事の場所だけを用意し、ケータリング会社や大型介護機関を招致して、集中的に食事を提供することである。弁当はつまり、料理を高齢者の家に直接届けることを意味する。 

北斉山村のぬくもり食堂の厨房には「差別化した弁当メニュー」が貼られている。そこには村の69人の利用者の氏名、健康状況、病名、好きな食べ物、医者による飲食のアドバイスなど詳細なデータが分かりやすく書かれている。ボランティアの陳喜妮さんはこう話す。「時間がたっても、塩分を控えなきゃいけないのは誰か、魚介類が好きなのは誰か、脂身を食べられないのは誰かなどがひと目で分かります。献立にはとりわけ注意を払っています」。このような特注メニューは「ぬくもり食堂バージョン20」といえる。 

慈善活動を行う多くの企業や銀行、業者から、栄成市の客嶺村に新しくできたぬくもり食堂に食料が届けられた(vcg)

北斉山村の村民委員会主任はこう話す。2019年に栄成市内の経済的に余裕のある村がぬくもり食堂を設立し始め、ボランティアチームができ、北斉山村もすぐにそれに続いた。村で20人余りのボランティアチームをつくり、村民委員会の敷地に厨房と食堂を新設し、80歳以上の高齢者、障害者、退役軍人合わせて69人を福祉対象と定めた。最初の頃はボランティアがやる気に満ちていて、高齢者たちもとても満足していたが、次第に食事に来る人が少なくなっていき、料理が半分も残ることもあった。釈然としないボランティアたちが聞き込みをしたところ、あることが分かった。足が不自由な人は食堂に行くのに1時間ほどかかる。また高齢者の心理的な負い目として、いつも食堂を利用していたら自分の子どもが親不孝者に見られてしまうのではないかという心配があった。これらのことを理解し、ボランティアたちは食事を弁当形式にすることに決め、毎日村を車で回り、直接家に届けることにした。 

福祉対象の生活を改善するという目的に沿って、初めの頃は弁当に紅焼肉(豚の角煮)、スペアリブの煮込み、魚の煮込みなどの「ごちそう」を入れていたが、時間がたつと新たな問題が浮上した。血中コレステロール値が高くて、脂っこいものを食べられない高齢者、血圧が高くてしょっぱいものを食べられない高齢者がいて、料理や味付けが一様だと、全員を満足させられないのだ。そこで村は全員に健康診断を行い、医者のアドバイスに従って差別化した献立をつくり、異なるおかずを盛り付けることで、栄養があって健康な食事を提供した。 

小さなぬくもり食堂は大きな成果を上げた。栄成市やその他の地域で立て続けにつくられたさまざまな形態の高齢者向け食堂は、高齢者の生活を便利にし、交流の場所となっただけではなく、ボランティア活動を宣伝し普及する素晴らしい舞台にもなった。そこでは、アップデートと発展が続く中で、高齢化社会の到来に対応し、創造力を発揮し、新しいチャレンジをし続ける人々の姿を見ることができる。 

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