ターニングポイント

2018-09-20 11:21:41

横山由果

学年全724名のなかでただひとり、私は学業優良賞を受賞した。20183月8日、高校を卒業する前日のことだった。七色に輝くガラスのトロフィーはまるで私の汗と涙を1滴こぼさず積んでいるかのように重かった。

中学生になった私は、母の仕事の関係で中国上海に行くことになった。目に飛び込んでくるものはずらりと並んだ漢字、耳に入ってくるものは超高速化された“日本語”のように何を言っているのかさっぱりわからない言葉。全ての人があたかも喧嘩をしているようだった。私は自分だけ仲間外れされている気がして悔しくてたまらなかった。不安や焦り、緊張の中で「絶対にやって見せる!」と、何の根拠もないひとことから私の中国での全ては幕を開けた。

小さい頃から、何度か上海に遊びには行っていたものの中国語を学ぼうと最初に決めたのがこのときだった。私は約半年の間、あえて日本語を話せない家庭教師に中国語を教わった。レッスンの中でたった1語でも聞き取れただけで心が踊るほど嬉しかった——ターニングポイントへの第1歩を踏み出した瞬間であった。新しい言語を習得することは極めて難しいことである。しかし、学ぶ過程で得られる小さな嬉しさは言語を習得する難しさに積極的に向き合っていった人にしか味わうことのできない特別な感情だと思う。

 上海に来てから半年後、私はなんとか現地校に入学した。新しい学校、新しい友達、新しい生活。不安はまだまだありつつも、全ての「新しい」に私は目を輝かせた。担任の先生はひたすら上海語で話す人だった。北京語(標準語)でも全力で耳を傾けないとすぐわからなくなってしまうのに上海語なんてとんでもない。戸惑いを隠せなかった私は勇気を振り絞って前の席の人に声をかけた。その子は私の拙い中国語にも関わらず真剣に耳を傾けてくれて、わかりにくいところは図に描いてゆっくりと教えてくれた。その後もクラスメートだけでなく同じ学年の人も私と会うたびに名前を呼んでくれたり、中国語を教えてくれたり、思っていたより居心地が良くて毎日がとても楽しかった。また、私の礼儀正しさと思いやり、努力し続ける精神は多くの友達や先生方、近所の人々から高く評価され、日本人として感じたことのない誇らしさを感じることができた。

勉強大国の中国で、勉強は日本の何十倍にも辛かった。授業についていくため、成績をあげるためにどれほどの汗を流し、どれほどの涙が私の頬を伝ったかわからない。それでも友達、先生、家族のおかげで辛さの何十倍も楽しかったし、数え切れないほどの思い出を作ることができた。さらに、中学校を卒業するときには学業、身体、道徳の3つすべてが優秀である学生にのみ授与される「三好学生」と呼ばれる賞を受賞した。勉強をすればするほど感じる辛さ、その背後にある尽きない泉のように湧き上がってくる喜びを味わうことができ、長くも短くもない中学時代において、勉強が大好きになった。そのおかげで、日本の高校に編入してからもひたすら大好きな勉強に励み、貴重な賞を頂いた。勉強がそれほど好きでなかった私が、まるで生まれ変わったかのような勉強を愛する新しい自分を中国で見つけることができ、喜びと感謝で心が満たされた。

中学時代の経験は今の私だけでなく、将来の私への「みちしるべ」であり、人生の大きなターニングポイントでもある。

1年の始まりは春にあり、1日の始まりは朝にある。「スタートが良ければ、半分は成功したようなものだ。」、このような貴重な経験と素晴らしいスタートを切ることができた私にできること、それは今後も前進し続けることのみである。

ありがとう、みんな。

ありがとう、あの時の私。

ありがとう、大好きな中国。

人民中国インターネット版

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